※「私が知らない私の名前」茉糖さん宅のべこちゃんをお借りしたお話です。よろしければどうぞ。
珍しくヒロイン視点。
阿部眞子、通称べこちゃんという女生徒がE組にいる。私の友達でもあった。
彼女の特徴といえば、うっすらある隈。数学好き(私には理解できない)。それから、超ネガティブ。
面倒くさがりな自分とよく付き合う気になったなあ、と思う。友達が増えるのは嬉しいのでとしては全く問題はないけど。でも、本当になんで自分を指名したんだろう。少し気になる。
カルマに聞いてみれば、「前々から湊のこと気になってたっぽいよ」とのこと。ますます不思議になる。まあ、いいんだけど。
それはともかく、べこちゃんは可愛い。可愛い。友達になったしるしにーと思って作ってきたフルーツタルトをそれはもう美味しそうに食べてくれた。可愛いな!!何か好きなケーキはあるかと聞いたら、ティラミスと答えてくれた。
というわけで、ティラミスを作ってきた。
「またケーキ?俺にくれるの?ありが、」
「ちげーよべこちゃんにだよ。お前のケーキ、ねーから」
「ケチ。どうせ全部あげるんじゃないんだから、俺にもちょうだい」
「殺せんせーとか皆にあげるから問題ない」
「えー」
旧校舎に着いたので殺せんせーの許可を貰い、冷蔵庫を使わせてもらう。そのままいつも通り時間が過ぎていき、四時間目が終わって私は冷蔵庫へ向かった。
「はい、べこちゃん。ティラミス」
「え、ま、またくれるの…?」
彼女はというと信じられないという顔をしている。あれ、もしかして私べこちゃんをデブらせようとしている?だからべこちゃんはびっくりしているのか?友達少ないから空気の読めない奴で申し訳ない…。
謝ろうと口を開く前に、べこちゃんが薄く笑った。
「ありがとう、湊ちゃん。嬉しい」
……可愛いなこんにゃろう。私の時が止まったわ。動揺を悟られないよう、借りてきた皿とフォークを手渡す。
「お弁当食べたらでいいから。食べよ」
「うん!」
「湊、俺のはー?」
バカルマは無視することにした。お前はもう少し渚君以外と仲良くなる努力しろ。前もこれ言ったような気がする。私にべこちゃんがいいのかという視線を向けてくる。ああ、気にしなくていいからね。
放課後、カルマを無視してべこちゃんと一緒に帰ることにした。方向が途中まで同じみたいだったし。
「え。べこちゃん、磯貝君が好きなの?」
衝撃のカミングアウト。初めて知った。そんな話私知らないよ?彼女のプライバシーのため、小さな声で話す私へべこちゃんは言った。
「カルマ君は知ってたけど…」
他人の色恋沙汰に興味がないとはいえ、何だか複雑だ。恥ずかしそうにするべこちゃんは乙女で、私となんか違うなあと思った。イケメンに迫られるとか少女漫画じゃあるまいしって信じてなかった私とは大違いだ。可愛い可愛い。……おっさんか、私は。
しかし、磯貝君ねえ。成績優秀、リーダーシップあり、真面目。そんな正統派イケメンを好きになるなんて、ちょっと意外だった。
「告白したんだけど、振られちゃった」
「え?」
マジで?磯貝君べこちゃんと仲いいじゃん。よくよく考えてみたら割といいムード出してるじゃん。いいネタごちそうさまですとか思ってた私が馬鹿みたいじゃん。
でも振られたのにまだ磯貝君のこと思ってるんだ。本当に好きなんだろうなあ。
「えーと、とりあえず磯貝君今度会ったとき蹴ればいいのかな?」
「そ、そんなことしなくていいよ?あたしが悪いというか、なんていうか…」
「だってべこちゃん可愛いのに振るとか、磯貝君触覚引き千切れられろって気分だよ、私」
「可愛い…?」
べこちゃんは歩く足を止めて私を見つめる。あ、気になるとこそこなんだ。
「可愛いよ。少なくとも私より女の子らしくてさ」
「湊ちゃんは、料理とかできるじゃない」
「それくらいで中身は別にそうでもないって。もうちょっと自信持ちなよ、べこちゃん」
ぽんと軽く彼女の肩を叩く。それでも自分を卑下するのをやめない。ネガティブモード入っちゃったか。とりあえずべこちゃんをそのループから抜け出そうと、私は言葉を紡いだ。
「私も外見には自信とか何もないけど、それでも誰かに好かれたんだからさ。何か期待してもいいんじゃないかな?私に何ができるか分からないけど、手伝うし」
何の気なしにべこちゃんの頭を撫でる。そんな私にべこちゃんは不思議そうにまばたきしている。やべ、慣れ慣れすぎだかな…。慌てる私をよそに、べこちゃんは小さく頷いてからまた俯いた。
「ありがとう、湊ちゃん。相談してもいい、かな?」
声音からして照れくさいだけらしい。あーもう、本当可愛いなあ。こんな子に思われてる磯貝君、爆発すればいいのに。
「もちろんだよ」
私は笑って返した。
喜びの音を奏でて
許可を頂いたのと書いてくださったのでやってしまいました。すみませんでした。べこちゃんはもっと可愛いですよね。すみません。
というか短い。一体何がしたかったのか。
茉糖さん、本当にありがとうございました!
タイトルはJ.スウェアリンジェンより。お友達できた喜びということで。