黒瀬湊という女生徒は、烏間惟臣にとって『変』という印象をあたえていた。この椚ヶ丘中学校三年E組は幾人かの問題児がいるが、それを抜きにしても変だと思う。
『殺せんせー』、E組の担任になった超生物を殺した報酬を安いと言い放つ。外国からやってきた殺し屋『イリーナ・イェラビッチ』を気に入らせる(というか、イリーナが懐いているように見える)。そしてE組一番の不良児『赤羽業』に愛を囁かれても無視する。
確かに彼女は真面目(にならないときもあるが)で、勉強も暗殺技術の成績だって悪くない。中学三年生らしからぬような、そうでないような、態度だが。
「殺せんせー、今日フルーツパイ持ってきたんですよ。どうぞ」
ある日の昼休み、職員室へ湊がやってきた。
「おや、黒瀬さん。またそれに毒でも仕込んであるんですか?」
「失礼ですね。なんなら烏間先生に食べてもらってください。毒味役みたいになってしまいますけど…」
対殺せんせー用ナイフ、ではなくフルーツナイフで綺麗に切り分け、フォークと共にどうぞと差し出してくる。とても中三が作ったとは思えない出来栄えである。
「……いただこう」
フォークでパイを口に放り込むが、当然毒の苦味は全くない。むしろレモンの爽やかな酸味やイチゴの甘味などが広がっていくだけだ。
「うまいな。市販のみたいだ」
「ありがとうございます。というわけで、どうぞ、殺せんせー」
「本当のようですね。では―――」
「あ、待ってください。殺せんせーもう少し甘い方がいいかなと思ったんで、一口食べてすっぱかったらこれつけてください」
殺せんせーが口にしようとした途端、湊がそれを止める。そして何の変哲もない瓶を掲げて見せる。
「ありがとうございます。では、少しかけますか。甘くなるんですよね?」
「はい」
ぎこちないが湊はにこりと笑う。殺せんせーが再びパイを食べて咀嚼していく。
「確かに、甘、――――げほっ!?」
瞬間、吐き出した。口のあたりが少しずつ溶けている。二人を気にせず報告書へ取りかかっていた烏間も、何事だと目を見張る。
「何をしたんだ、黒瀬さん?」
「中に対せんせー用ナイフ粉状にして入れてみたんです」
尋ねてみればさらり答える。失敗したかあ、と言いながらも特に残念そうではない。
「黒瀬さん、二段階できましたか…」
「前は失敗したので。今回もですけど。あ、パイ自体はないんで食べられますよ」
そう言っては失礼しましたと職員室を出ていった。
……やっぱり、彼女は変だ。
奇妙な女生徒A
烏間先生から見たヒロイン。もっと変だなーって思わせる要素の話にすればよかったんでしょうか。また今度絡ませます。