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- ナノ -
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・胸なんて飾りなんだよ!!


胸が大きいことなど、男を誘惑する以外で何の使い道があろう。持ち主である女からすれば、走るときに邪魔だし、下着はデザインが可愛いものはなくなるし、年を取れば垂れるしで、メリットはない。ないのだ。

だから巨乳であることに意味はない。

更衣室としてあてがわれている教室で着替える矢田の胸を見ながら湊は思う。すぐに視線を自分の胸に移す。まな板でもないが、魅惑の山岳地帯ができているわけでもない。これでいい。これでいいはずなのだ。そう言い聞かせる。

一人頷いていると、カエデが尋ねてきた。

「湊、どうしたの?」

「え、いや、別に」

「そーいや、湊もあるよね」

「へ?」

何がと聞く前にカエデの目が湊の胸へ向けられているのに気付く。

「ふつーでしょ。普通」

「私にはその普通さが羨ましい!!」

かっ。カエデが目を見開いて叫ぶ。当然湊とカエデに注目が集まる。中村が湊に近づき、じろじろ胸を観察する。同性とはいえ湊は恥ずかしくなって腕で隠した。

「ふーむ、黒瀬さんはCと見た」

「なんで真面目顔でそんなくだらないこと言ってんの中村さん」

「楽しいから」

表情を変えず答えられては何も言い返す気になれない。湊は苦笑を貼りつけたままにするしかなかった。

「でもやっぱ一番は矢田ちゃんだよねー」

「ね。いいなあ」

「中学生なのにその大きさはないでしょ」

「だから胸の話は嫌なんだよー。絶対標的にされるんだもん」

更衣室が特有の話題で盛り上がってきた。いつの時代もこんな話をしているのかなと、逃れられた湊は脱いだ制服を畳みながら思う。

「うう……巨乳は敵……」

「カエデ、それは違うよ」

どこかで聞いた覚えのあるセリフを口にし、湊は歯ぎしりするカエデの肩に手を置く。

「巨乳は仕方ないよ。生まれ持ったものなんだから。真の敵は巨乳好きだよ。奴らそこしか見てないんだから」

「おお……なんか湊がすっごくかっこいい」

他の女子からも感嘆の声が漏れる。しかし湊としてはそんなことで感心されても全く嬉しくなかった。セリフもかっこいいとは思えない。
だがこれでカエデも勇気づけられたのか、顔を明るくさせて言った。

「うん、そうだね!敵は巨乳好きにあり、ってことで!」

だからカエデ、それ、ものすごくかっこ悪い。そう思ったがもう何も言うまいと、口を閉じておいた。




・恋は人を優しくさせる


「黒瀬ってさー」

「何だよ」

「なんか変わったよなあ」

昼休みの男子トイレから二人の声が聞こえる。磯貝と前原だ。いちご煮オレを飲んでいたカルマは、その場に割って入る。

「黒瀬が?」

「お、カルマ」

「お前、黒瀬の話になると現れるよな。こえーよ」

「まーね。で、何だって?」

カルマはこえーよと言われたことは無視して続きを促す。前原は複雑そうな顔をして言った。

「前は皆ともそんなに関わろうとしなかったし、表情も変わらなかったけどさ、今は楽しそうっつーか、色気づいたっつーか、」

「よし、前原。表出ようか」

カルマは決してアメリカでしてはいけない手の形を前原へ向けた。口角は上がっているものの、目は笑っていない。今にも殴りかかって殺さんばかりの勢いだ。仲裁をするために慌てて磯貝はカルマを止める。

「カルマ、違うからな!前原は純粋に疑問に思ってるだけで、黒瀬をどうこうしようなんてちっとも思ってないからな!?」

「そうそう!前より可愛くなったなって、ただの感想!っでぇ!!」

磯貝のフォロー虚しく、前原はカルマに殴られた。音からしてその痛みが想像できた。だが、磯貝は自業自得だとため息をつくだけだった。

「ってぇ〜……黒瀬の何がお前を突き動かすんだよ……」

殴られた箇所を押さえながら前原は問う。そんなのいっぱいあると答えたいが、きっと二人はそんな答えで納得しないだろう。カルマは少し考えてから言った。


「うーん。一番はきっと、欲しいときに心の底で望んでる言葉をくれるから、だろうね」


いつものように全部だよなんて返ってくると思っていた磯貝と前原は目を丸くした。答えたカルマの顔つきは優しげで、普段浮かべる表情からまるで想像がつかない。改めて、彼は本当に彼女が好きなのだと実感する。

「あー、俺も恋してー…」

「お前は大抵彼女いるだろ」

「そうだよ」

「いや、一途に一人だけってのすげーよ、カルマ。本当」

「無視すんな」

「あはは」

カルマはストローに口をつけた。いちご煮オレは甘い味がした。




・ちっとも怖くないひとごろし


放課後、とあるカフェ。発音をある程度見てもらった後、湊はイリーナに連れて行かれた。金髪巨乳美女といる湊へ視線が注がれており、辛い。イリーナは見られていることに慣れているが、湊はそうではない。何度か経験しているとはいえ、ダメージは軽減する気配がなかった。

注文してから少ししてスイーツとドリンクがテーブルに置かれる。そして、唐突にイリーナは言った。

「湊もそうだけど、ガキ共は私を怖がらないわね」

「……なんですか、突然?」

「何となく思っただけよ」

イリーナ・イェラビッチは殺し屋である。ハニートラップでターゲットに近づき殺す。いつもはちっとも年齢相応に見えない振る舞いをしているとはいえ、人殺しに違いない。

「うーん」

あまり深く考えたことはなかった。湊はアイスティーを飲んで理由を探る。

「イリーナ先生は悪いことって思ってるんでしょう」

「道徳的に、倫理的にはね」

「それに仕事じゃなければしないでしょう」

「そうね」

「だからじゃないですか?」

「……はあ?」

美貌を歪めてイリーナが湊に詰め寄る。怯えもせず湊は続けた。

「だって罪も感じないで、ただ趣味でやる人とは違うんですから。何かどうしようもない理由がなけりゃしない。だからだと思います」

恐ろしいのは罪を罪と感じず、殺しを快楽とし生業にしてしまうような人物だ。裏世界なんて知らない湊はそう思う。英雄だろうが兵士だろうが、人を殺したのだ。ただ数が違うだけ。あいつは悪いことをしたからいい、そんな風に自分を正当化してしまって何の後腐れもなく忘れてしまうような人物は、少なくとも湊は怖い。

裏世界でそれは甘いことだとは思うが、湊は一般人だ。超生物を殺すことができる、暗殺訓練を受けている中学生。肩書きが少々仰々しいだけで一般人なのだ。


湊の言葉にイリーナの顔が驚きに満ちる。イリーナが頼んだチーズケーキはちっとも減っていなかった。

「……甘いわね、湊」

「でしょうね」

言われると覚悟していた湊は苦笑して肩をすくめる。中学生なのだから許してほしい。


「でも私、やっぱりあんたのこと好きよ」


だが、さすがにこのセリフは想像できずイリーナを凝視してしまった。イリーナは無視してようやくスイーツを口に含んで笑った。

「うん、なかなかいいじゃない!この間引っかけたあの男、やるわね」





いたいだネタを拝借しまして。矢田ちゃんというよりただの胸ネタ…いや、いつかやるものだったので。ええ。
カルマ君はちょっと真面目になってしまいました。ノロケにしようと思っていたのですが。ビッチ先生は思いついたのでいれました。甘っちょろいです。偽善です。でも私たち一般人はそんなもんだと思います。