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「#総受け」のBL小説を読む
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かの人は幸いなり



夏がやってきて数日後。プールが壊された。廃材で作られたバイクも壊された。散布剤を撒かれた。

「気持ちワリーんだよ。テメーも、モンスターに操られて仲良しこよしのE組も」

犯人でありE組の問題児・寺坂竜馬は、殺せんせーが嫌いらしい。

放課後、日常風景になりつつあるとカルマの下校中。湊はカルマへ言った。

「アンタなんで挑発したの。馬鹿でしょ」

先ほどカルマが激高した寺坂へ、妖しい笑みつきで挑発したのである。傍で見ていた湊としては気が気がではない。寺坂はカルマより体格も力も上なのだ。殴りかかられたらどうする気だったのだろうか。

「何?湊は俺のこと心配だったの?」

「いや違うけど」

にやにや笑うカルマへ湊が一刀両断する。分かりきっていた答えにカルマは肩をすくめた。

「ま、寺坂アホだし、殺せんせーもいるし、何とでもなるよ」

「んな適当な…」

やっぱりこいつは楽観視する傾向があるなあ。舐めプしてっと、いつか痛い目見るぞ…。そう思いながら、湊は眉をひそめた。



「てめーらも全員手伝え!!俺がこいつを水ン中に叩き落してやッからよ!!」

翌日、昼休みにやってきた寺坂は、昼食を食べている皆へ言った。当然やる気は起きない。だが、殺される側の殺せんせーの泣きつきにより、渋々参加することとなった。湊も面倒ながら付き合うつもりだったのだが。

「いいよ、そんなの。涼んで帰ろう」

カルマの鶴の一声で無視することになった。自身も面倒だったので、手伝わされているE組の皆には申し訳ないが内心嬉しかった。

「なら、裏山に少しいようよ。言い訳も考え付くでしょ」

「その言い訳絶対皆に勘違いされる気がするんだけど!?」

「……」

「黙るなよ!!」

「まあまあ、いいじゃん。どうせ皆分かってるって」

湊としてはその暗黙の了解が嫌なのだが。ため息をつきながらもカルマの後に続いた。

そのときだ。プールがある方向から、山が動きそうなほどの轟音が聞こえたのは。湊とカルマは顔を見合わせ、急いでプールへと駆けた。
しかし、そこには水が抜け落ちたプールしか残っていなかった。

「…何コレ?爆音がしたらプールが消えてんだけど」

「流された、ってこと?」

顔をしかめる二人のすぐ隣でか細い声がした。

「…俺は…何もしてねぇ。話が違げーよ…イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに…」

寺坂だった。いつもの態度は失せ、ただ小さく震えている。そこで二人は理解する。彼は以前やってきたシロとイトナに操られたのだと。
寺坂は必死に、聞いてもいない湊とカルマに弁明する。責任をシロとイトナに押し付けて、自分は悪くないと。

そんな彼の顔面をカルマは容赦なく殴った。

「標的がマッハ20じゃなくてよかったね。じゃなきゃお前大量殺人の実行犯にされてるよ。流されたのは皆じゃなくて自分じゃん」

そう吐き捨てて、下へと下りる。

「人のせいにするヒマあったら…自分の頭で何したいか考えたら?」

沈んだ寺坂を少し同情しながらも、湊もカルマの後を追う。はカルマと違ってジャンプなどできないので、彼の手を借りて下りていく。

下りた先では殺せんせーとイトナが戦っている。だが水で濡れた分、殺せんせーの方が不利のようだった。しかもE組も全員助かったわけではない。原、吉田、村松は未だ木の上にいる。原に至っては枝にぶら下がってる状態で、今にも落ちそうだ。

戦いを傍観することしかできず呆然とするE組に、寺坂がやってきた。冷静に分析する寺坂へ、前原が叫ぶ。開き直ったように彼は笑う。だが、その顔は先ほどよりもふっ切れていた。

「だがよ、操られる相手くらいは選びてえ」

かくして、問題児×問題児の奇妙なタッグが出来上がったのだった。先走ろうとする寺坂をカルマが止めたりと、息の合い方は微妙なところだが。

「思いついた!原さんは助けずに放っとこう!!」

少しして、思いついたように手を打ったカルマはとんでもないことを言った。湊を始め、他のE組メンツは呆れるしかない。

「アンタバカなの?バカルマなの?原さんが一番危ないでしょ」

「黒瀬の言う通りだろ!ふとましいから身動き取れねーし、ヘヴィだから枝も折れそうだ!!」

「とりあえず寺坂、アンタも後で原さんに殴られときなさい」

「何でだよ!?」

「はいはい、二人ともちょっと離れる」

少し苛立ったように湊と寺坂を引き離してから、カルマは寺坂のシャツを握る。ズボラだと罵るが、彼は笑う。

「俺を信じて動いてよ。悪いようにはならないから」

「…バカは余計だ。いいから早く指示よこせ」

そこからはとんとん拍子だ。寺坂がイトナを挑発して、触手の攻撃を受ける。特殊成分が染みついたシャツで身を庇い、何とか食らいついていく。そのせいでイトナもくしゃみを連発し出す。その間、殺せんせーは原を助けた。そしてとカルマ以外のE組の皆が上から飛び込んでいく。危険だと判断したシロは、イトナを引きつれて消えていった。

これで一件落着、かと思われたが。

「そーいや寺坂君。さっき私の事さんざん言ってたね。ヘヴィだとかふとましいとか」

体型について言われた原である。女子だからなのか、強く出るわけにもいかないらしい寺坂は言い訳している。そんな彼をカルマは上から笑う。

「あーあ、ほんと無神経だよな寺坂は。そんなんだから人の手の平で転がされんだよ」

「ちょっとカルマ…」

湊が止める暇もなく、神経を逆撫でされた寺坂はカルマを引きずり下ろした。

「うるせーカルマ!!テメーも1人高い所から見てんじゃねー!!」

「ぶ」

制服のままだったカルマは当然全身ずぶ濡れになってしまう。寺坂に文句を言うも、憤った彼は正論を突きつける。

「大体テメーはサボリ魔のくせにオイシイ場面は持って行きやがって!!」

確かに。湊はうんうんと頷いた。他にも片岡や中村を始め、E組のほとんどが寺坂の言葉に賛同している。皆に水を浴びせられるカルマを見て、湊は声を上げて笑った。



「あー、最悪。半乾きで気持ち悪い」

反撃しつつも水浴びした後、制服を少し乾かして湊とカルマはようやく帰路についた。

「しかも湊、ざまぁって大笑いするのひどくない?」

「あれはカルマが悪いね。寺坂の言う通りだよ。皆にやられたってしょうがない」

「えー…」

唇を尖らすカルマが子供っぽくて笑いが口から漏れた。

「なんなら湊も巻き添えとして落とせばよかったなー」

「うわ、最悪!やめてよね!」

「冗談だって。下着透けてるなんて俺以外見せたくない、あだっ!」

とんでもないことを言い出すカルマの足を体重を乗せて踏みつけた。そして家付近になったので早歩きで別れようとする。

「じゃあねカルマ」

「え、ちょっと俺真面目に言ったんだけど…!?」

「余計性質悪いわ!!」

夕暮れ、住宅街にバカップルの会話がよく響いた。



がんがん端折りました。ごめんなさい。ヒロインも巻き込む方に行った方がいいかなーと思いつつ、やめました。あんまりいちゃつかなかった。あとヒロインの意味。
次回から定期テストなので、珍しく何話か続けてやりますよ!ずっと書きたかったので、オリジナル展開入ります。いちゃつくといいな(願望)。
タイトルはJ.S.バッハより。寺坂をイメージしました。