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風変わりな美女



転校生が来る。烏間からのメールを見て、湊は察した。こんな季節外れで、しかもE組の転校生と来れば、考えられることはひとつ。イリーナと同様の暗殺者だということ。15で人を殺す職業に就いているなんて、どんな子なんだろう。

だが、その答えは教室のドアを開けてから、あまりにも予想より遥か斜め上をいく形で返される。

「"自律思考固定砲台"と申します。よろしくお願いします」

……ナンダコレ。顔を引きつらずにはいられない。教室の隅に箱が置いてある。小さな画面にはジト目の少女。お色気要因の次はリアル二次元かよ。湊は乾いた笑い声を漏らした。

ちょっと、いやかなり引いたが、今度の暗殺者はどんな形で攻撃しにかかるのか。少し興味がある。

「湊、おはよー。今日も可愛いね」

「あー、うん。おはよ、赤羽」

カルマの挨拶も適当に交わし、三つほど隣の機械に視線を向け続けていた。


一時間目、国語の授業。唐突にそれは始まった。重い鉄の音が聞こえたかと思えば、機関銃とショットガンをひっさげて撃ち出した。戦場さながらの轟音。
かなりの速さで繰り出される弾はBB弾といえど、当たれば痛い。湊の席は一番後ろとはいえ、反射して食らってしまう。

そして二回目。進化する人工知能は殺せんせーを傷つける。そんなことを二時間目といわず一日中続け、しかも授業が終わるたびに弾を皆で片づけなければならない羽目になった。不満の声が上がるが、彼女は何も答えない。湊もため息をつくしかなかった。


「行ってきまーす」

翌日。湊はたくさんの生徒が登校するような時間に家を出ない。人が多ければ抜かしずらいし、鬱陶しいからである。だからこの日も幾人かの他校の学生やサラリーマンらを見かける程度だったはずなのだが。

「湊、おはよー」

何故か歩いてすぐの電柱にカルマが寄りかかっていた。

「おはよう赤羽」

湊は一瞬目を見開いたがすぐに元に戻り、それだけ言ってそのまま去ろうとした。

「待ってよ。一緒に行こう」

「待たない。そして嫌だ」

「じゃあついてくだけならいい?」

「だが断る」

「どっちにしろ学校一緒なんだからいいじゃん」

「……」

そういうことで結果的に一緒に行くことになってしまった。いくら湊の歩きが速いとはいえ、完全には離せない。諦めてやめた。

「寺坂、何やってんの?」

ボロボロのE組校舎へ着くと、寺坂が"彼女"をガムテープでぐるぐると巻いている。一番乗りだろうと踏んでいたのだが、絵に描いたような問題児である彼がいるとは意外だった。

「決まってんだろ、縛ってんだよ。邪魔だからな」

「否定はしないけど…」

痛いしうるさいし片づけは面倒だし。こちらのメリットは特にない。

「で、お前らは仲良く登校、と」

「ちっげーよ潰すぞ村松」

とりあえずにやにやしている村松は蹴り上げておいた。

その日は寺坂の思惑通り彼女は何もできなくなり、平和な一日を送った。


「どうしてこうなった」


次の日。早く起きるのは面倒なため、昨日と同じようにカルマとともに学校に向かう。カルマのために早く起きるのが癪なのだ。それ以外で変わっている点といえば、

「おはようございます、カルマさん、黒瀬さん!」

転校生があざとい美少女に変身したことか。パネルは全身になり、ジト目無表情は喜怒哀楽がつき、何故かメロディが流れている。どうしてこうなった。湊は大事なことなので二回言った。

「殺せんせーがまたなんかやったんじゃん?」

明るく生まれ変わった彼女はすぐに人気者になった。あの竹林でさえ「いいじゃないか2D…Dを一つ失う所から女は始まる」などと言い出す。勘に触るが、そのセリフに頷きそうになったのは内緒である。

しかし。いくら人工知能とはいえ、機械がそのまま自我を持つ、ということには首を傾げざるをえない。

「うまくやってけそうだね」

律、という名を与えられた彼女が喜ぶ様子を見て、湊と同じように遠巻きに見ていた渚が言う。

「どうだか。寺坂の言う通り、殺せんせーの作ったプログラム通り動いてるだけでよ。機械自体に意志があるわけじゃない」

カルマの言葉に心の中で少し同意して、湊はもう一度人工知能を見た。人間らしく思えても、違うと思い込めば全て機械のようにしか見えなかった。

また日が沈み、昇る。

「おはようございます、皆さん」

戻った。あのままでよかったような、よくないような。つまり、また迷惑な攻撃が始まるということだ。箱が開く音がする。身構えるクラス。しかし、出てきたのは武骨な銃などではなく、美しい花だった。

「殺せんせー。こういった行動を"反抗期"と言うのですよね。"律"は悪い子でしょうか?」

「とんでもない。中学三年生らしくて大いに結構です」

ついこの間クリアしたゲームに似たようなことがあったな。くだらないことを頭に浮かべた。一人だけプログラミングされたキャラがいて、最後に主人公を激励して…いやマジあの子天使だったな。絆を感じれば生きていると。意志があると。それと同じなんだろうか。湊はやはり遠くから彼女を見ているだけだった。


「そういえば、黒瀬さん」

「何?」

放課後、鞄を整理していると律に呼び止められる。初めての会話だ。不思議そうにしながら、近づいて用件を聞く。

「カルマさんとよくいますが、二人はいわゆる恋人同士なのですか?」

ずるっ。今時漫画でもなさそうなリアクションをしてしまう。まさか人工知能からそんな言葉を聞こうとは。女子か。女子だった。一人脳内ツッコミをしてしまう。

「違うから。で、誰が言ったのんなこと」

「まずは矢田さん、倉橋さん、中村さん、…」

クラスのほとんどじゃねーか。畜生てめーら覚えてろ。三流のセリフを吐きつつ、湊は律の中で生まれた固定概念を打ち壊すため、全力で否定する。

「そうですか。カルマさんは肯定したのですが…」

あ の 野 郎 。いつもの調子で頷いたに違いない。そう考えると怒りがふつふつと湧いてくる。そんな湊に構わず律は続ける。

「なるほど、これが『ツンデレ』なんですね!」

「もっと違うわッ!!」

誰だ、このあざと可愛い人工知能にそんなこと教えやがった奴は。湊は転校生まで変な誤解が生まれてしまい、頭どころか胃も痛くなってきた気がした。



律ちゃんが出せて満足です!絡めたと十分に言えるかどうかは皆さんの判断に任せます。絡めた…よね?
ツンデレを教えたのはさて誰でしょうか。1.恋愛に興味ありそうな矢田ちゃんあたり。2.友達のカエデちゃん。3.二次元学び始めたカルマ君。4.まさかの竹林君。5.面白がってる殺せんせー。答えは皆さんの脳内で。
次はオリジナルです。多分。
タイトルはまたまたサティより。律ちゃんまんまで。風変わりというか、風変わりすぎますけど。美女というか、美少女ですが。