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待てができないなら潔白であれ

なんだかひどく匂いがする。甘いと言っても胃が重くなるような甘さではない。中毒性を持ったそれが気になって、つい、ロウガは後ろから湊を抱きしめた。

「何?」

少し頬を赤らめて湊がロウガを睨んだ。睨むというよりは羞恥と困惑の瞳。赤い果実を彷彿とする頬を、少し尖らせた柔らかな唇を、食ってしまいたい。

「……どうしたの?」

優しい声音。湊がゆっくりとロウガの頭を撫でた。後ろから抱いているせいか、撫でるというより髪の感触を楽しんでいるようにも思える。以前はキョウヤ以外にやられても鬱陶しいことこの上なかったが、湊にやられると何故か心の波が穏やかになっていく。
顔を湊の首に埋め、もう一度匂いを嗅いだ。ほんのりと甘い。料理で使ったらしい調味料の匂いに混ざった、菓子とはまた違う甘いもの。

「嗅がないでよ、もう。今日ちょっと走ったから汗臭いし」
「甘い匂いがするだけだ」
「甘い?今日お菓子作ってないけど」

特に気付いていない湊が無防備に唇へ指を当てた。

「お前の匂いだ」

そう答えると、湊は頬どころか顔を真っ赤にさせた。口をもごもご動かしてから、「ばか」と呟く。いつも馬鹿だと言われるが、ロウガには何故か分からない。思ったことを口にしているだけなのだから。怪訝な顔をすると、湊は前を向いた。

しかし。こうして抱いていると、随分と小さい気がする。ロウガより細く、柔い。少しだけ力を入れるとすぐに傷つけるのではと不安になる。こんな体のどこにあんな強い蹴りが出せるのか謎だ。

ロウガは女となどろくに話さないし、姦しいだけだと思っていた。だが、湊は小うるさいこともあるが騒がしくない。沈黙でも空気は和やかだ。凪いだ海のような安らかさがある。
それに、湊に触れると温もりが伝わって安心する。柔らかくて、甘い。もっと触れたいと思うのはきっと自然なことだ。

この女が大事だと気付く前は抱き締めようなんて考えなかった。ただ会えればそれだけで、名も知らなかった感情が満たされた。だが、今では誰もいなければこうして抱きしめてしまう。
手に触れてみたり、抱きしめてみたりするたび、湊は驚いて「何」と尋ねるが抵抗しない。無言で手を握るか、背に手を回すか、胸に寄り添ってくる。

ロウガは顔を近づけた。湊は戸惑いと焦りで視線を泳がせる。それから目をつむった。一連の仕草に何とも言えない気分になる。むず痒いような、体が熱くなるような。柔らかな唇にそのまま口付けた。やはり、どこか甘い匂いがロウガの胸を締め付けた。


最近はそんなことをしているものだから、夜、触れた肩や腕、唇の感触を思い出して――――興奮、してしまう。

相棒のケルベロスは寝ていた。たまにどこかへ行っているが、今日は中にいたいらしい。ロウガは与えられた部屋を出て湊の元へ向かう。
もう日付が変わりそうな時間だ。部屋にいるだろう。少し離れた湊の部屋の扉越しに声をかける。

「湊、いるか」
「いるよー」

返答が来てすぐ本人が扉を開けた。寝巻なのか、いつもの白い服ではなく簡素なシャツと脚が剥き出しのパンツ。暗がりの中だと、ロウガと違う肌がやたら目立って見えた。

「どうしたの?」
「いや……」

お前に会いに来たとストレートに言えるロウガではない。言い淀んで視線を逸らす。

「……寝れないなら、中入って」

何も答えないロウガに湊が苦笑する。おそらく湊が考えている理由とは異なるものの、眠れないのは本当だった。ロウガは黙って湊の部屋に足を踏み入れた。

湊の部屋は物がそれなりにあるものの、きちんと整頓されている。湊の部屋に入るのは数度目だ。ただ夜に入るのはさすがに初めてで、落ち着きが失われてしまう。湊がベッドに座り、ロウガにも座るよう促す。ロウガを見つめる紺の瞳はどこか潤んでいて、唾を飲み込みそうになる。一瞬躊躇したが少し距離を開けて座った。

いつものように沈黙が下りる。普段なら気に留めないそれも何故か今は焦りを加速させた。そんな中、湊がそっと手を重ねてきた。そのまま少し髪から風呂で使ったであろうシャンプーの匂いがして、また体が熱くなる。甘い匂いに相反する爽やかな匂い。それらが混ざって、ロウガは眩暈がしそうだった。

「……湊」

名を呼ぶのにももう慣れた。吸い寄せられるように女に口付ける。

「ん、」

匂いと同じ甘い声がする。音を立てて舌を吸う。苦しそうに湊がロウガの肩を掴んだ。押し返しはしない。ぎこちなくロウガの舌と絡ませてくる。

……胸が、当たる。柔らかでいて弾力のあるそれに、隠さぬつもりのない脚に、普段後ろ姿を見ると目がいく尻に触りたい。あまりにも甘いそれらにやられて――――ロウガの手が、湊の胸に触れた。

「ちょっと、ロウガ、」
「お前が悪い」

手の平に感じるあたたかさと柔らかさ。指を動かすと不思議な感覚が伝わる。さすがに動揺して湊が抵抗し始めた。

「やだ、ちょっと、やめてよ、んっ」

うるさい口を塞ぐ。無防備に近寄って、何にもないと信頼して、誘ってくるお前が悪い。そうロウガは言い聞かせる。

「まだダメだってば!私たち、15歳、なんだから」
「……俺がこうなったのはお前のせいだぞ」
「え、っ!?」

手首を掴み、いきり立った股間に触れさせる。湊は変な声を出して固まった。もう顔の肌が赤に変化し切ってしまいそうだった。

今までロウガは女に触れたいなど考えもしなかったし、朝に勃つのも生理的なものだ。性についての知識は最低限教えられたものの、興味が湧くことはなかった。
だが、今は違う。組み敷かれて己の名を呼びながら喘ぐ少女の姿を何度想像して、何度欲望を出したろう。
ロウガはもう、待てない。

「えっと、その、あの、本当にダメだってば」
「……いつならいい」

まだ、ということは湊自身セックスすることが嫌というわけでもないらしい。いつもと同じように恥ずかしいだけなのかもしれない。現に胸を揉んでも蹴らない。腕を強く掴んでやめてほしそうにしているが、見たことがないほど赤い顔のままだ。15だからセックスは早いというのだろうか。
湊は目を背け、唾液でてらてら光る唇を動かした。

「……じゅ、16、になったら……」
「待てるか」
「やだ、本当にやめてってば……」

消え入りそうな声で拒否する。ここで続けたらきっと泣いてしまうのだろう。それは、嫌だ。自分のせいで涙を流す湊を見るのはもう嫌だった。少女に嫌われたく、なかった。

「……すまん」

心の底から謝罪し、湊から離れる。部屋に帰って己で鎮めればいい。ロウガも焦りすぎた。馬鹿だ。もう一度謝ろうと口を開く。

「そ、その。抜いて、あげるから。それなら、いい?」

途端、湊が衝撃的な言葉を放った。部屋から出ようとする足も止まる。いいのかと尋ねそうになった。ダメだ。どうにか己を抑制し、期待を飲み込む。

「無理をするな」
「でも……ロウガは、エッチな本見てそうなったとか、戦いに興奮したからとかじゃないんだよね?」
「そんなわけあるか!」

何を言っているのだ、この女は。つい声を張ってしまう。というか、本当に湊は自分のことを何だと思っているのか。ロウガは少し不安になった。

もう一度湊を見た。湊は顔に羞恥を広げさせている。それを見ただけで、少し萎えたはずの熱がすぐに戻った。しばらくして湊が言う。

「してほしく、ないの?」

――――そう言わせておいて部屋に帰るなど、ロウガにできるはずもなかった。

「……頼む」

湊へ痛いほど勃ったそれを見せつけた。湊は初めての男根に目を見開き、思い切り視線を外す。

「な、なんか、おっきく、ない?」
「勃ってるからな」
「そうじゃなくて……その、そんなに、普通は大きいものなの?」
「知らん」

照れと戸惑いで湊の目線が定まっていない。当然だが、初めて男の股間など見て何も言えないのだろう。

「その、どうすればいいの……?」
「……手で軽く握ってくれ」
「う、ん」

おそるおそる湊がロウガに触れた。自分の手と違う小さくあたたかで、華奢な指で包まれる。性器が脈打ったせいで湊の体が跳ねた。

「こ、これで?」
「……上下に動かしてみろ」
「うん……」

ぎこちない手つき。もう少し刺激が欲しいが、逆に焦らされているような気もする。目はロウガと性器と宙とで変わっていき、赤い顔でもじもじしている湊に余計興奮してしまう。そのせいで先からもう汁が出ていた。

「あの、なんかまた大きくなってない?」
「……お前が触ってるからな」

そう答えると湊は「もう、ばか」と呟いた。

「もう少し強くしてもいい」
「う、うん」

上下に動く手は卑猥だ。こうしてほしいと教えると素直に湊は従ってくれる。同時に先ほど触れた胸に、剥き出しの脚に、目が向いてしまう。それに気付いたらしい湊が目を吊り上げる。

「どこ見てんの。もう触っちゃダメ」

何でだ。顔をしかめると湊はまた「ばか」とこぼして釘を刺す。

「ダメなものはダメ」

そんなことを話しているうちに、もう欲望が出そうだった。

「……湊、っ」
「へ、うわっ!?」

白濁の液体が先から高く飛び出て湊の服に、顔にかかる。突然の射精に呆気にとられた湊は一瞬固まった後、すぐに精液の臭いに思い切り眉根を寄せた。

「やだ、臭いもだけど、服にかかった……」
「……すまん」

近くにあったティッシュでかかった精液を拭ってやる。溜めていたつもりはなかったが、いつもより濃くねばついている。妄想ではなく現実で湊が自分の性器に触れたからかもしれない。

「着替えなきゃ……。あ、もう大丈夫、って、なんでまた大きくなってるの!?」

一度出したばかりだというのに、もうロウガの性器は勃っていた。そんなのロウガだって知りたい。湊の顔に自分の精液がかかるなんて幾度も頭の中で考えた光景。そんなものを見たらすぐに熱が戻るに決まっている。

「湊」

もう一度してくれるか。じっと見つめると、湊は顔を背けて強い口調で答えた。

「一回だけだからね。手だけね」

口でしてくれと要求したらしてくれるだろうか。そんなことを考えていたが、先手を打たれてしまった。やってくれるだけで十分だ。

「ああ」

もう一度ゆっくりと湊が上下にロウガのものをこすっていく。居心地の悪そうな湊はロウガから目を逸らし続けている。なのに気分は高揚し続けていた。
しかし、じれったい。耐え切れずにロウガは湊の手に自分の手を重ねた。

「このあたりだ」
「……そう思うなら、自分でやってよ」
「お前の手の方がいい」
「……ばか」

再びそう呟くものの、手は離さない。湊の手を重ねて筋や亀頭を重点的にしてやると、また射精感が上ってくる。

「で、出そうになったらちゃんと言って」

息を荒げ出したロウガに湊は言う。

「湊、出る、……っ」
「わ、」

今度は湊の顔にも服にもつかなかった。湊の手に先ほどより薄い精液が流れる。零れたものはシーツに落ちた。しかし、一度目ほどではないものの量が多いそれにまた湊は驚いている。ロウガにはどこか興味深そうにも見えた。
白濁の汁を拭き取って、湊が言う。

「はい。これでもうおしまい。寝れる、よね?」
「ああ」

おそらくと加えそうになるのをこらえる。だが、湊の目の色は不安が広がっている。これ以上怖がらせたり不安にさせたりしたくない。それに、湊の匂いを嗅いでいるとさらに欲が出てくる。このあたりでやめておくべきだ。

「随分、無理をさせたな。悪かった」

今度はロウガが湊の目を見ることができない。いくら少女の体に触れたいからとはいえ、馬鹿なことをした。後悔と罪悪感がロウガの胸を締め付ける。
ロウガは立ち上がってベッドから離れる。このまま外に出て頭を冷やそう。

「ロウガ」

ドアノブに手をかけたところで手首を掴まれた。ロウガは振り返らない。何を言われるのか。少しだけ、恐ろしかった。
間を置いて、湊がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「その、最後までは絶対ダメだけど……今みたいにするのは、いいよ」

息を呑む。そんなことを言われるとは、思っていなかった。私は大丈夫だから、気にしてないから、強がって気を遣われるものだとばかり。声は少し震えていたが、怯えは入っていない。

「嫌じゃないのか」

ロウガの問いに湊は呆れたように軽くため息をついた。

「本当に嫌ならするわけないでしょ。ロウガが興味あるのはちょっと意外だったけど。男だし、当たり前かなって。それに……私もロウガのこと、好きだから。好きな人に触りたい、し……」

――――突然、目の前の女がさらに愛おしくなって。ロウガは自然と湊を抱いていた。再び甘い匂いがロウガの脳を刺激する。

「俺も……お前が好きだ」

だから、触れたいと思う。それはキョウヤと男女の恋愛映画を見たって古典小説の概要を聞いたって理解できなかった。今なら痛いほど分かる。
大切なものを二度と手放さぬように。壊さぬように。湊のことが好きだ。そのことが指先から伝わればいいと思った。自分の腕の中にいる湊がうっすらと微笑んだ気がした。



荒神先輩は性に興味ないけど一度分かるとむっつりなんだろうなあと思います。知識自体は総帥と一緒に、もしくは総帥が教えて知っていそう。
早い気もしますがフィクションなので……段階踏むの好きなので続きます。
荒神先輩っぽくないなと思わなくもない。夢なので……。
お題配布元:いえども様
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