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好きで溶けていく海

※三期(四期)後のつもりで書いているので年齢が二つほど上がっています。
描写だけですが牙王君がいたり、総帥は臥炎財閥総帥のままです。
よろしければどうぞ。



――――新しいリゾートができたから、君もどう?
そんなキョウヤの誘いで、湊はリゾート地に来ていた。もちろん湊だけではなくロウガもいる。バディファイトの大会が開催されるため、有数のバディファイターも招待されていた。大会は明日。今はそれぞれ思い思いの場所で楽しんでいる。
しかし、ロウガはリゾートには興味がなさそうだった。キョウヤの誘いだし、大会があるから来たようなものだろう。湊としては一緒に楽しみたい。せっかくだし大会前日海に行こうと言えば素直に承諾された。渋られるかと思っていた湊は少し驚いたものの、よりいっそうこの日が待ち遠しくて仕方なかった。

海で泳ぐなんてもう何年もしていない。水着も学校指定のものだけだ。それに彼氏と行く海。
そう、湊は今日初めて水着を買ったのだ。水着ショップで悩みに悩んで買ったのは鮮やかな青のビキニにホットパンツ。以前の湊なら絶対に選ばない水着。湊は特別スタイルがいいわけではない。それでも勇気を出したのは、ひとえにロウガから褒めてもらいたいから。この日のために食事制限もしたし運動も多めにした。可愛いとか似合ってるとかだけでいい。それだけで湊の勇気と努力が報われる。

「ごめん、ロウガ。お待たせ」

少しの期待を胸に、更衣室の外で待っていたロウガへ駆け寄る。

ロウガはパーカーに半ズボン型の男性用の水着普段は未だに使用し続けているディザスターフォースの影響で長髪だが、本来の短髪に戻っている。長髪に見慣れた身としては違和感を覚える。ロウガなりに休む意思の表れなのかもしれない。

「ああ、……」

ロウガが顔を上げた。途端、大きく目を見開いて固まる。誰か見つけたんだろうか。しかし目ははっきりと湊を向いている。

「どうしたの?」

「……いや。行くぞ」

「…………もう、待ってよ」

声をかけるとロウガは我に返ったように湊へ背を向けて浜辺へ歩き出す。

知っていたはずだし、分かっていたはずだった。女心をちっとも分かっていないロウガが、水着姿の湊に感想を言わないなんて。すでにロウガには裸を見られている。
とはいえ、それとこれとは話が別だ。期待した自分がバカだった。そう割り切ろうとするものの、それでもこの胸の穴を埋められそうにない。晴れているビーチもどんより曇っているように見えた。

「わー、綺麗!」

少し歩けばビーチに着いた。照り付ける太陽、白い砂浜、青い海。ありふれた表現がぴったり当てはまる美しい光景が目の前に広がっていた。まるで写真のままの景色に気分が少し晴れ、幼子のように高揚してきた。湊はビーチを駆けてサンダルを脱ぎ海に触れる。

「気持ちいー」

ほどよい冷たさの海水に自然と笑みがこぼれる。浅瀬で水の感触を楽しみながらくるくる回った。

「ガキのようだな」

追いついたロウガがはしゃぐ湊を笑う。言葉とは裏腹に浮かべている笑みは優しい。

「うるさいなあ。海で泳ぐなんて、ほんとに小さい頃家族と来たっきりなんだから」

むっとしながらロウガのもとに戻る。しかし、なぜか湊と目を合わせようとしない。いつも目を合わせて話しているわけではないが、それにしても不自然すぎる。

「お、荒神と黒瀬の姉さんやないか」

そんな中、聞いたことのある声が投げられた。湊の中で関西弁を使う知り合いも、黒瀬の姉さんなんて呼び方をする知り合いも一人だけだ。声がした方へ顔を向けばジンとメグミがいた。

「禍津君、メグミちゃん。参加してたんだね」

「大会はちょいだるいんやけど、タダでリゾート行けるなら話は別や」

「本当、はしゃいじゃって、正直隣にいるのが恥ずかしいわ……」

今のジンはアロハシャツにサングラスである。浮かれているとメグミに苦言を呈されても仕方ない。湊もここまでジンが楽しげなのは少し意外だが、その恰好は似合っていた。

「メグミかてそないな水着ではしゃいどるやろ、ったぁ!?」

対するメグミはセクシーな水着で、凹凸のはっきりしたメグミによく似合っている。ひとつ下のはずだが、どうしてここまで差がついているのか。何だか悲しくなってきた。
図星だったのかメグミがジンの脛を思い切り蹴った。かなり大きな音がしたので相当痛いに違いない。

「いたた……。冗談やろ、冗談。よう似合うとるで」

「はいはい」

ジンの称賛もメグミは軽く受け流す。ジンは口が回るのでこうしてさらりと褒め言葉が出てくる。実際ジンのようになったら嫌だが、ロウガはほんの少しだけジンを見習ってもいいのではないか。湊は相変わらずの二人を見て思う。

「冷たいなあ。……しかし、メグミもやけど黒瀬の姉さんも大胆な水着着とるなあ」

自分の水着にまで振られるとは思っておらず、一瞬反応が遅れた。

「せっかくだからこういうのもいいかなって」

「なるほどなあ」

ジンはいたずらげな眼差しでロウガを見た。どうやらジンには湊の水着の意図に見当がついているらしい。湊は顔どころか体まで熱くなってきて、海に沈みたくなった。ロウガはといえばジンの含みある笑みに顔をしかめている。

「……何だ、禍津ジン。鬱陶しいぞ」

「いやあ、何も。ほな、メグミ、お邪魔やから行こか」

「邪魔なのはジンだけでしょう。……湊さん、また」

「うん。またね、メグミちゃん」

律儀なメグミに手を振った。二人の姿が遠ざかっていくのを見守る。声が聞こえないだろう距離まで二人が離れたのを確認し、湊はロウガに向き直った。

「ね、ロウガも海入ろ。気持ちいいよ」

「いや、俺は……」

「いいから。ね」

ロウガの手を引っ張って海に入る。笑顔の湊を拒絶できないのか、されるがままにし、ロウガは履いてないサンダルを脱ぎ捨てた。

浅瀬とは呼べぬ域まで手を離した。深くは入らず、そのまま左へ歩き出す。

「ロウガって泳げる?」

「多少はな。お前は泳げるのか」

「人並みには泳げるよ。……あれ」

元気で明るい声が耳に入り浜辺を見た。牙王をはじめとする顔見知りがビーチバレーなどで盛り上がっているようだ。会ったことはないが大会で見かけたことのある人物もいる。大抵のバディファイターが海に来ていたらしい。バレーの他にもスイカ割をしていたり、ビーチフラッグをしていたり、日光浴をしていたりしている。楽しげな笑い声をたまの悲鳴がビーチに広がる。大勢で遊んだことのない湊は目を細めた。

「楽しそうだね」

「……混ざりたいのか」

「え?」

ロウガが言った。ロウガと海を歩くのもいいが、混ざって海の遊びに興じるのもいいだろう。気のいい彼らは少し驚いた後湊を受け入れてくるはずだ。そうかも、と答えそうになった口を閉じた。湊の目的は違う。

「せっかくの海だし、私はロウガと一緒にいたい、かな」

ロウガと海というせっかくの機会なのだ。大勢で遊んでいるより、ロウガとこうして一緒にいるだけで湊の胸は満たされる。言った後で気恥ずかしくなって俯いた。

ロウガはどうなんだろう。正直、ロウガは本当にバディファイトと己を鍛えること以外への関心が薄い。何度かのデートのとき、ロウガ自信が楽しいというよりは湊が満足していればいいといった風だった。本当に面倒で嫌ならこうして一緒に来てはくれないだろう。だから湊の一方通行ではないと分かっているのだけれど。

「……俺もだ」

小さいはっきり通る声でロウガがいた。愛想のない横顔に照れは見えない。湊の顔が花開くようにほころんでいく。

「良かった」

そう言ってくれたものの、ロウガは湊を見ない。視線を寄越すだけでまっすぐ前を向いたままだ。すでにそれなりの距離を歩き、遠く離れていたはずの岩場は近くにある。にぎやかな知人たちの姿は小さい。何度か唇に躊躇いを作ってから、湊は足を止めた。

「あ、あのさ。なんでこっち向いてくれないの?」

「……何だ、突然」

尋ね返すロウガは振り返らない。

「だって不自然に私の方向かないから……」

いいや、嘘だ。そんなの建前でしかない。

「ううん、違くて、その、さ」

少し開いた距離を縮める。

「ちゃんと、見てよ……ロウガに見てほしくて、こんな水着着てるんだから……」

ロウガのパーカーを握った。ちゃんと見てほしくて、何か言ってほしくて。いつもは言えないような言葉。リゾートの海という特別で開放的な空間のせいかもしれない。全身が熱くて倒れそうだ。冷たい海に触れているはずなのに。

しばらくロウガは口を閉じたままだった。普段は心地いい沈黙も今は痛い。やっぱりいい、と言おうとして手を離す。その途端にロウガがこちらを向いた。褐色の肌は少し赤くなっている。

「その、だな」

「……うん」

「お前の水着は、目のやり場に困る」

――――まさか、そんな理由だったとは。ある意味青少年らしい回答なのだが、あれだけ裸や下着をじろじろ見ていたロウガがするとは思わず、その考えに辿りつかなかった。青空の下で見る水着はまた意味が違うということなのだろうか。

「……メグミちゃんのが色っぽい水着だったじゃん」

それに、そういう理由なら湊より胸の大きいメグミはそれこそ目のやり場に困ったはずだ。メグミをきちんと認知していないのか、興味がないのか、先ほどジンとメグミに会ったロウガは平然としていた。

「……俺はお前でないとそう思わん」

頬がさらにかっと熱を持った。小さいが開いていた胸の穴が埋まるのを感じる。メグミには申し訳ないが、嬉しくてたまらなかった。その言葉を聞いてしまっては、目を合わせられない。

「……じゃあ、ちゃんと見て」

それをこらえてすでに近かった体をさらに寄せた。かなり遠いとはいえ、同じ場所に知り合いがいることも忘れて。もう一歩動けば体が触れるほど近い。上目遣いにロウガを見た。今度はパーカーではなくしっかりとロウガの手を取る。触れた部分がじわじわと熱くなっていく。

ようやくロウガが湊を深い青の瞳に映す。空いた胸元、年頃の少女らしいくびれ、剥き出しの脚。視線が下へ下へと移動されるのを感じる。すでに火照った体がもっと熱くなった。

「ねえ。水着、似合う?」

心臓の鼓動がとくとく鳴っている。それは焦りや驚きからくるものではなく、優しい音をしていた。

「……ああ。いい」

たったそれだけのそっけない言葉。だが湊には十分だ。

「嬉しい」

これだけのために水着ショップで悩んだり、いつも以上にカロリーを気にしてスイーツを作るのを止めたり、少し走り込んだりしたのだ。

甘く微笑む湊を見てロウガが動揺している。普段男らしいロウガが頬を赤くさせうろたえるのが何だか可愛くて、笑いがこぼれる。
湊はロウガから離れ、ばしゃんと海へ飛び込んだ。人魚のように軽く泳いだ後、水飛沫をあげて水面に浮き上がる。

「一緒に泳ごう!」

頭上で照らす太陽のように明るい笑顔でロウガへ言う。ロウガはほんの少しだけ口元をほころばせ、湊の後を追いかけた。



あげている月、もう冬なんですけどね。書きたいときに書けばいいんです。
二人はいろいろと済ませています。
ジンがからかい役として便利なのでまた出してしまう。またジンとメグミちゃんを出してしまいそう。この二人大好きです。