「おい」
賀髪が紅茶を飲んでいると、獄卒の中で最も嫌っている存在がやってきた。相も変わらず苛立っている。そのうち見境なく屋敷の物を壊すのではないだろうか。
「何ですか」
「また任務だ」
「……まさか貴方と、じゃないですよね」
「俺だってお前となんざ御免だが、肋角さんが言うからな」
谷裂は嫌悪を隠さずに舌打ちする。こちらが舌打ちしたい。賀髪はわざとらしくため息で返した。
谷裂と賀髪は仲が悪い。会えばよせばいいのに罵詈雑言が飛び交い、五分後には戦闘に発展するのである。同僚たちが無視すればいいだろうと言うが、「生理的に気に食わない」、彼らはそう返す。
「肋角さんにいい加減別の方に変えてもらえないか抗議してるんですけど、どうしてこう受理されないんでしょう」
「知らん」
「田噛さんや平腹さんの方がまだいいです」
「癪だがお前と同意見だ」
二人で任務に向かう。それからは特に会話もなく、沈黙のみが続く。
「お、谷裂と賀髪〜」
やけに陽気で軽い声が聞こえ、二人は振り向いた。平腹が走って向かってくる。
「また二人でなのか!仲良しだな!」
平腹の言葉に、賀髪と谷裂は一気に顔を歪め、互いを睨んだ。
「「誰がこんなのと」」
「ハモったな!やっぱ仲いいな!」
平腹殺す。二人の心がシンクロした。獄卒は死ぬ体ではないが、そのように体を痛めつけることはできる。
仲がいい。たびたび他の獄卒にも言われていることである。あの戦闘後の部屋の凄惨さを見ても仲がいいで済ます。そんなことがあろうか。
「つーか付き合ってんの?」
瞬間。空気が凍った。二人の目に、暗い光が宿る。
「遺言はありますか、平腹さん?聞いてあげなくもないですよ」
「平腹ァ……死ね!!!」
賀髪は無表情ながらも怒りが滲み出ており、谷裂に至っては憤死しそうな勢いである。平腹の顔に冷や汗が垂れてきた。
「ごめんんんんんん!!!」
走る平腹、追いかける賀髪と谷裂。
数分後、肉と血と骨の音がした。
「いい加減行きましょう。時間を無駄にしてしまいました」
「そうだな」
谷裂と賀髪は仲が悪い。が、気持ちが一致すると誰よりも息が合う。そんな二人だからこそ肋角も組ませているということに、当人たちは気づいていない。
谷裂が一番好きなわけじゃないのに楽しいです。どうしてなの。お互い嫌いだけどいなくなったら張り合いないし寂しくなると思います。
痴話喧嘩は犬も食わない、みたいな感じで。
タイトル配布元:英雄様