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へたくそなみつあみ

ある日、谷裂が鍛錬場から帰ってくると、食堂で女獄卒たちに囲まれた賀髪を見た。いつものように無表情ではあるが頬が赤らんでいる、ような気がした。

「賀髪って髪本当に綺麗だね」

「うわ、手が滑る」

「結ってもいい?」

「いいですよ」

女でもむやみやたらに触ると嫌な顔をするが、一応許可は取ったのか好きにさせていた。女獄卒が賀髪の髪を弄ぶ光景を見つつ、あの髪の感触を思い出した。

絹など触ったことはないがこのような感覚なのだろう、と思わせる柔らかさ。一本一本が細く、気を付けなければ手を切りそうだった。照明だろうと月だろうと光を当てれば輝くほどの艶。邪魔だ切れと口うるさく言っているものの、美しいと感じざるをえなかった。


いつまでも立ち止まっていればまた賀髪に嫌味を言われるだけだ。弄られる賀髪を尻目に、谷裂はその場を後にした。

「……なんですか」

その日の深夜。会うことにしていた二人は誰も通らない場所で会っていた。
谷裂はさらりとした髪を一房すくってじっと見つめている。そんな彼を賀髪は不審そうに顔をしかめていた。

「……いや。いつもお前は結わないなと思っただけだ」

「結いすぎると痛むので。あまり結わないんです」

「少し、結ってもいいか」

そう言った瞬間、賀髪が目を丸くしていた。谷裂自身どうしてだか分からない。あの
女獄卒たちに嫉妬したのか。そんな馬鹿な。心の中で否定する。だが、それをすぐ撤回する気にはなれなかった。

賀髪は読み取れぬ表情を浮かべたまま、口だけを動かした。

「いいですよ」

「お前のことだからすぐ却下するものかと思ったぞ」

「私こそ貴方がそんなことを言うなんて思いもしませんでしたが……お好きに、どうぞ」

あれだけ髪を大事にしている賀髪から、髪をお好きになどという言葉。女ですら聞けるか分からない許可。谷裂は何故だが少し優越感が芽生えていた。

結ってもいいか。言い出したものの、常に鍛錬している谷裂が結い方など分かるはずもない。以前、一度だけ賀髪がしていた三つ編みを思い出し、四苦八苦しながら手を動かしていく。賀髪は谷裂の動作に口を出すことなく、ただ黙って目をつむり座っていた。

「……できたぞ」

どうにかして完成した三つ編みは、言われれば三つ編みかもしれないという程度のもの
だった。流れる髪は枝毛になりそうなほどになっている。不格好すぎて、我ながらひどいと谷裂は思った。これでは鋏で掌を刺されても文句は言えない。賀髪はというと、鏡で結われた三つ編みをじっと見つめている。

「へたくそですね」

「当然だろう!そんなものやったことがなるわけがない……その、すまん」

「いえ。分かってやらせたのは私ですから」

襲い掛かるどころかむしろ落ち着いていた。どういう風の吹き回しか。賀髪が不格好な三つ編みを見るその目は、どこか愛おしそうで。うっすらと口元も微笑んでいるように思える。

何故だかとても気恥ずかしく、谷裂も何も言わなかった。


別れるまで、賀髪はへたくそだと言った三つ編みを決して解こうとはしなかった。



へたくそだけどやってくれて嬉しかったヒロインと、何だかんだ髪綺麗だなあって思っていて触らせるのは嫌だと思う谷裂でした。