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CLAP

女の首筋を見たのは初めてのように思う。その女はいつも長すぎる髪をまっすぐ垂らしていて結ったことなどろくになかった。谷裂の記憶にないだけかもしれない。とはいえ、常に切らないならせめて髪を結えと言い続けても頑なにそのままで居続けていた。

だから、夕涼みに川辺に蛍を見に行くくらいで髪を結うなど想像もしなかったのだ。

「すごいね、その髪型。ちゃんと花に見えるよ」
「そんな風に結えるんだ。一人でやったの?」
「ええ。時折鏡は見ましたが、ちゃんとやれますよ」

女の後頭部は大輪の花が咲いている。かなり手間がかかったのは目に見えて明らかだ。浴衣も紺の生地に百合の花が舞い、さらに華を際立たせていた。
ひとまず口を引き締める。肋角も災藤もいるのだ、言い合いになってはまた苦言を呈されるだろう。

蒸し暑い夏といえど冷たい水が流れる川辺は涼しい。季節柄蛍もふよふよと光って飛んでいる。風流な景色に怒りも少し沈んでいくものの、やはり視線を向けてしまう。
常に銀のカーテンで守られていた首を見られるのは何だか奇妙だった。

「……おい」
「何ですか」

宙を漂う蛍を見つめていた女の顔が崩れる。谷裂が話しかけるといつもこうだ。

「今のように髪を結べるならいつもやれ」
「たまにやるくらいならいいんです。いつもだと傷つくので」
「そんなに時間をかけているならあまり変わらんだろう」
「貴方が見る目ないから分からないだけでかなり違います」
「おい」

無視して再び川や空へ目を向ける。清らかな水の空気が漂い、淡い緑の光が薄暗い空を駆けていく。

「夏はあまり好きではないんですが、この風景は綺麗ですね」
「……そうだな」

同意してもここで無駄な口を叩かない辺り機嫌がいいのか。髪を結った横顔は一瞬別人に見える。それでも冷えた目は相変わらずだ。蛍の光が瞳に映ってさらにきらめいていた。

「夕涼みも、たまにはいいな」
「はい」

淡々とした返答。いつも姦しい女がこうも淑やかなのもむず痒い。だが胸の内は静かな爽涼を覚えるのだった。


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