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名無しの部屋は一般的な4人部屋である。
しかし同室の皆はそこまで仲良くないため、普段話すことはあまりない。
今日も皆別室に行っているのか、部屋は名無し1人だった。

窓際に置かれている机に向かって、名無しは手紙を書き始めた。
そこではっとする、便箋なんて持っていない。
仕方がなく、羊皮紙に小鳥の絵をかいて魔法をかけて、ちょっとした柄にした。
手紙で今日の対談の無礼を詫び、体調をうかがうようなことを書いた。
その手紙を外で飛んでいた梟に託して、名無しは眠りについた。



次の日の夕方に、その手紙の返信が来た。

「…うわあ、」
「うわ、高そー…でも絶対美味しいよ、それ」

隣にいた友人が手紙と一緒に来た箱のパッケージロゴを見て、嘆声を漏らす。
箱は高級感溢れるブラウンのベルベッドでできていた、金色のロゴには見覚えがない。
名無しには手も足も出ないようなお店のものであろうことはすぐに分かった。
あけてみると丁寧に装飾のなされたチョコレートが並んでいた。

隣の友人がなんの断りもなく、そのチョコレートを摘まんで食べていた。

「おいしー!うわぁ…味が全然違うよー!ほら、名無しも名無しも!あ、紅茶用意しよう!それだ!」
「ああ…うん、お願い」

ばたばたと紅茶の準備を始めた友人を尻目に、名無しは手紙を開けた。
薄水色の便箋には、美しい白鳥が描かれている。
その白鳥は時々思い立ったかのように、羽を広げて毛づくろいをしていた。

手紙には愛らしい丸めの字が並んでいた。
助けてくれたことへのお礼、セブルスに甘いものが好きだと聞いたのでチョコレートを贈ったこと、あまり畏まらないで欲しいとのことが書かれていた。

「名無しー、紅茶入ったし食べようよ!めっちゃ美味しいよ!」
「うん…ねえアンナ、便箋とか持ってる?」
「うん、いる?」

紅茶を持ってきた友人に声をかける。
流石に羊皮紙はまずい気がした、魔法をかけたとはいえあまりに味気ない。

アンナは便箋を取りに自室に戻っていった。
机の上のチョコレートを口にすると、上品な甘さが口の中でじんわりと広がる。
…同じチョコレートでもこんなに味が違うとは。
呆然とそのチョコレートを見ていると、アンナが帰ってきた。

「ねーそれ、凄く美味しいよね!」
「うん、びっくりしちゃった。…こんな高そうなものいいのに」
「まあまあ、いいじゃん。向こうの人のご好意でしょ?楽しまなきゃ!」
「…うん」

相変わらず申し訳なさをひしひしと感じるが、アンナの言うとおりだ。
ここはせっかく頂いたのだから、美味しく食べよう。

次の手紙にはどんな返信を書くのか考えながら、名無しは蕩ける甘さに舌鼓を打った。


いっしょうけんめいがんばります!

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