寝物語をしよう
知っているかな?
この世界には、とても幸せな病気があるんだよ。

その病に罹ると、幸せな夢の世界で生きることができるらしい。
自分のいちばん幸せだったときを、永遠に繰り返す夢をみる。
そうして、夢と現実が入り混じって、その人は現実に帰ってこられなくなるんだって。

でも、身体は現実で生き続ける。
生理学的には、熊や栗鼠の冬眠と同じことが起こって、生き続けることができるということらしい。


目覚める方法もあるよ。
…王子様のキスだなんて、そんなメルヘンなものじゃないさ。

現実世界のことを、夢の中で思い出せばいいんだ。
例えば、君が夢の中で、誰かに抱きしめられたとしよう。
もし、そのときに、現実世界で抱きしめられたときのことを思い出したとする。
すると、そこで、ふっと現実世界を思い出すんだ。
ほんの一瞬さ、きっとね。

でも、その一瞬、そのときに、現実世界で抱きしめてくれた人が、君のことを呼ぶんだ。
「目を覚まして」ってそれだけでいいんだよ、それだけで君は、目を覚ます。
君は、釣り針に引っかかった魚のように、眠りの海から、引き上げられる。

そう、簡単なようで難しいんだ。
これを成功させるには、眠り続けているその人に、帰ってきて欲しいって思い続ける人がいないといけない。
つまりは、眠り続けた人は、現実世界で自分を思ってくれている人がいないと、絶対に目を覚まさないってわけさ。

なんて、幸せな病なのだろうね?


「…ずるいよね、君だけ、そんなに幸せで」

本当にずるいよ、僕がこんなに必死な思いで、君を待ちわびているのに。
このベッドの畔で、君の目覚めをじっと願っているのに。

君は僕なんかに興味はなくて、夢の中で幸せにやっているんだろうね。
遠く、遠くに君が行ってしまったみたいで、ひどく物寂しい気持ちになるよ。
君のいない世界はとても残酷だ。


この病に罹った人を愛する人は、気が狂ってしまいそうですね。
愛することも、愛されることも許されなくて。

…ああ、違う、片思いしている人だけですね。
本当に愛し合っている2人なら、病に罹っている人はすぐに目を覚ますでしょうから。

本当に愛し合っている2人なら、現実が夢と同じくらいに、幸せなはずですから。


僕は、君に殺された気がするよ。
冷たくて薄くて鋭利なナイフで、傷をつけられたみたいだ。
でも、その傷はあまりに巧妙で、傷つけられた本人でさえもその傷を見ることはできない。
ずくり、ずくりと痛むその感覚だけで、傷つけられたと認知する。

僕は、こんなにも君が好きなのに。
君は、僕の事をこれっぽっちも見ちゃいないんだ。

ああ、僕もその夢の淵に行けたらいいのに。



(空想が現実になってしまったのだ)
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