7.店員の苦悩
いくら家の食事が美味しくても、コンビニは別腹らしい。
引き籠りと豪語している割に、真尋は外に出ことがある。
その最たる行き場がコンビニだ。

「コンビニ、好きですね」
「好きだね。何でもあるし、マンションの4階くらいに欲しいよ」

確かにマンションの4階にあったら便利だ。
雨に濡れることもなく、どんな時でも行くことができる。
ただし、近所付き合いが面倒になりそうではあるけれど。

ズボラな真尋の言葉に苦笑いしながら、紬は牛乳を籠に入れた。
駅前のスーパーの方がよっぽど安く買えるのだが、利便性と時間を考えるとここで買ってしまった方がいい。
せっかく真尋の家に来る前にスーパーに寄ったのに、真尋がコンビニのパスタが食べたいなんて言うから結局、コンビニに来ることになった。

「俺の料理より、コンビニパスタですか」
「やだ、拗ねないでよ。適材適所があるんだってば」
「何の適材適所…」
「私の腹と気分の適材適所!今日はジャンキーな気分」

今日作る予定だった肉じゃがは予定通り作って、置いておこうと紬は苦笑いしながら思った。
こうなってしまうと、真尋は絶対にコンビニご飯を譲らない。
どこまでも自分本位な人だ。
裏も表もなく自分が中央にいる。
ストレートな生き方が、紬には少し羨ましい。

陳列棚にあるカルボナーラとボンゴレを見比べて迷う真尋の手から、両方のパスタを籠に突っ込んだ。
真尋のことだ、どちらもペロッと平らげてしまうだろうから悩むだけ無駄だ。

「紬も好きなコンビニご飯をお選びよ」
「…俺、あんまりこういうの食べないんですけど」
「そうなの?だからそんな痩せてるんだよ」

確かにコンビニご飯ばかり食べていると太りそうな気はする。
どれもこれも手軽さを優先しているからか、炭水化物ばかりだ。
ただ、コンビニご飯をたくさん食べている真尋もそう太っているわけではないが。

紬はおにぎりの並ぶ棚を見て、卵かけごはん風おにぎりという謎のものを選んだ。
卵かけ風なんて、想像もつかない。
真尋はその下にあったオムライスおにぎりも籠に放り込んだ。
卵尽くしにするつもりだろう。

「月岡くんも大概卵好きだよね」
「なんにでも合いますからね。真尋さんも温泉卵好きですもんね」
「うんうん、カルボナーラに乗せたいな」
「あ、それいいですね。そうしましょう」

そもそもカルボナーラ自体に卵が入っているだろうと突っ込みたくなるのを抑えながら、コンビニ店員は2人を眺めていた。
女性の方はよく見る、いつも1万円以上の買い物を深夜にする謎の人だ。
いつもはスウェット姿だが、今日はゆったりとしたワンピースを着ている。
一応日の高い時間だから気にしているのかもしれない。

卵のパックを籠に追加した2人は、そのままお菓子の陳列してある棚に消えていく。
今日はいくらくらいの会計になるだろうかと気だるげにため息をつく店員をよそに、男の方はコンビニをあまり使わないのか、これは何だ、これは何だと女性に問いかけ、女性はそれを言われるたびにじゃあ食べてみればいいと籠に突っ込んでいく。
少しして店員の前に出された籠にはお菓子の山ができていた。

「…思ったんですけど、買いすぎじゃないですか?」

思うのが遅すぎる。
レジは既に1万を超え、店員の目測では四捨五入で2万くらいになる予定だ。
ただ女性は大抵1万程度の買い物を2週に1度くらいするから、いつも通りより少し多いくらいだ。

「いつもこんなもんだよ?」
「そうですか…」

男の方は多少なりともまともな感性を持っているらしい。
彼女の言葉に頷きながらも、疑問符が頭上に飛んでいるかのような顔だ。
これが普通だと彼が勘違いしないことを祈りながら、店員は山盛りの商品のバーコードを読み込んでいく。
比較的暇な昼前の時間帯に来てくれたことだけが幸いだ。

パスタ、おにぎり、卵、牛乳、様々なメーカーのチョコレート、期間限定の味のポテトチップス、するめ、アルコール類、炭酸…もう何でもありだ。
これだけあれば2週間くらい持ちそうなものだが、この女性は1週間に1度はこの量を買いに来る。

「真尋さん、こんなに買ったら俺の料理食べられないですよ」
「平気だよ、月岡くんのご飯は別腹だから」
「あはは…」

あはは、じゃない。
惚気なのか、それとも呆れなのか、諦めなのか。
ようやく最後の1つ、チロルチョコを読み込んだ店員は肩を窄めながら、金額を伝えた。
チロルチョコなんてバーコード読み取りが面倒な商品を全種類買っていったカップルを見送って、店員はため息をついた。

何とか男の方がうまくやって、彼女のコンビニ大人買いを止めて欲しい。
毎回毎回、レジが面倒極まりないのだから。
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