2.拾い物
一人暮らしをするにあたっての生活費は父から毎月仕送りとして送られてくる20万。
家賃は別だから、暮らすのに困ることはない金額だ。
思ったよりも現実的な金額に、真尋は素直に驚いた。
今まで適当な金銭感覚で育てられていたような気がしていたから、父にまともな成人女性の生活費など分かるまいと勝手に考えていた。

20万の内、通信費が1万5千円、食費が多く見積もって3万、光熱費は少し高めで1万、その他水道やら雑費で2万、ゲーム代2万。
税金関係は父の扶養なので必要なしなことを考えると、まあまあお金が余る。
ただし、お手伝いさんを雇うには足りない。

「家事ができるヒモがほしい」
“www”
“雇ってwww”
「※ただしイケメンに限る」
“…※”
“※wwww”

ネット民に愚痴っても仕方がないと、真尋はパソコンをスリープにして椅子を立った。
外に出るのが億劫で食事もしていなかったが、流石に空腹だ。
時刻は深夜1時、下界のまともな人間は寝ている時間だ。
人も少なかろうと、スウェットの上にコートを羽織って、玄関に置きっぱなしの小銭ばかりの財布を持って家を出た。

冷たい風が頬を切るように吹いているのが、とにかく嫌だ。
知らないうちに雪まで降っていたらしい。
スニーカーしかないのもマズイな、と既に濡れて手遅れな状態だったが思った。

「コンビニ…」

せっかく借りるならアパートでもいいから、部屋のすぐ下がコンビニという立地が良かった。
歩いて10分くらいの場所にあるコンビニは品揃えよし、人気無しでいいのだが、如何せん10分歩く。
それは真尋にとっては辛いことだ。

コンビニで食事をすべて賄っているからか、食費が高いのもつらい。
ただ、家政婦を雇ったらその分、食費も人件費が増えることは必至。

「めんど…」

掃除がとにかく苦手なため、部屋は汚くなる一方。
流石に1度きりでも家政婦を入れなくてはならないだろう。
正直、家政婦と会話するのも面倒なのだが、背に腹は代えられない。

コンビニの籠いっぱいに食料を買い込み、やる気のない店員の気だるげな顔とPOSがバーコードを読み取る機械の電子音が延々と続く。
これだけ買い込めば1週間は余裕で持つだろう。

「あったかいものは分けますか」
「あ、お願いします」

ただし、持って帰るのが面倒。
足元はグズグズ、10分の距離も歩きたくない。
寒いからと温かいお茶を買ったが、どうせすぐ冷める。

タクシーを呼ぼう、そう思って大きい方のコンビニ袋を無人のイートインコーナーに置いた時に気付いた。
外に誰かがいる。
とりあえず、タクシーを呼びながら様子を見ていた。
それは別に変なことではないが、蹲って動かない。
酔っ払いだろうか、華奢そうな肩が少し震えているようだし、生きてはいるみたいだ。

タクシーを無事に呼び終えて、スマホをポケットに戻しながら外に出た。
一応、生存確認はした方がいいだろう。

「…君、大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ…」
「いや、大丈夫じゃなくない?立てる?」

声を掛けたのは気まぐれと少女漫画の読みすぎが起因している。
蹲っていたのは若い男の子だった。
可愛い女の子ならなお良しと思っていただけに、ちょっと残念。

弱々しい声で何か言っているが、呂律が回っていない。
明らかな酔っ払いで、更に残念。
とはいえ、声をかけてしまった手前、放っておくのも可哀想だ。
あまりにもヤバそうなら警察に連絡しようと思い、スマホをポケットから出した隙に嘔吐された。

「あーらら。大変だ」
「すみません…!服を…」
「いや別にいいんだけど。はい、これ飲んで」

手首にぶら下がったままだった温かいお茶のキャップを開けて彼に手渡した。
嘔吐されるとは思ってなかったなあ、と気だるげにコートを脱いで嘔吐された箇所を包むように折り畳んだ。
コンビニ袋をもう一枚貰おうかなとコンビニを覗くと、店員のお兄さんとばっちり目が合った。
面倒事は御免だぞ、と言う顔だ。
まあ、1人で夜のコンビニを切り盛りしているとこういうこともよくあるのだろう。

店員にも悪いし、この人に声を掛けた手前、自分でなんとか落し所を決めないといけない。
温かいペットボトルに一度口をつけて、そのまままた項垂れてしまっている男の子の顔を覗きこんで、問いかける。

「君、こんなんで家帰れるの?」
「…終電がないので…どこかに泊まります…」

うん、決定。
真尋はにっこりと笑って、男の手を取った。

「そりゃいい、うちにおいで」
「はい…?」
「ああ、良いところに来たね、タクシー。さあ、乗って乗って」

料理ができなくても、お遣いくらいならできるだろう。
最悪、何もできなかったとしてもまあいい。
なんたって顔が好み。

タクシーに男を押し込んで、一度コンビニに戻る。
大きい方のコンビニ袋を手に取って、驚いた顔をしている店員に微笑みかけた。
通報されたらどうしよう。
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