8.
昼前に資材を運び、小人に鍛刀を頼むと握手をして別れて20分。
20分と聞いた時に、私がほっとしたのを主は知らない。
五虎退と今剣も20分だったことを鑑みるに、短刀は大抵20分で出来上がるのだ。

丁度昼時だったので、食事をしてから出来上がった刀を見に行った。
主の華奢な腕では短刀ですら大きいため、持ち上げることはない。
ただ美しく光る刃に、手を添えるだけだ。
指を切ってしまわないかとハラハラしながら見守っていると、新しい仲間がすぐに降りてきた。

「は、はじめまして…」
「…僕は小夜左文字。あなたは、誰かに復習を望むのか」
「ふく、…え?」

一振りは小夜左文字…また随分と我が強いのが来た。
言葉が理解できずにおろおろしている主をすぐに隣の刀の方へ誘導し、小夜左文字を私の方へ引いた。
ムッとした様子でこちらを見上げる小夜左文字を無視する。
彼は中々苛烈な性格をしているから、主と仲良くできるか多少心配である。
悪い子ではないのだろうが、刺激が強かろう。

小夜左文字の隣にある短刀は、見覚えがある。
大丈夫、私の弟の一人だ。

「乱藤四郎だよ。ねえ、ボクと乱れたい…の、って…ええ?」
「乱」
「あ、いち兄…え、この人、主?」
「失礼なことをお言いでないよ」

小夜左文字の時と同じようにおっかなびっくりしている主の前に立った。
乱は降りたって目の前にいた幼い主を見て、目を白黒させている。
自分を顕現させた主くらい分かっているはずだが、見た目の幼さに驚いているようだ。

ただし、言っていいことと悪いことがある。
灸を据える意味も兼ねて強めに叱るとしゅんと項垂れてしまった。

「ごめんなさい」
「謝る相手は私ではない」
「主様、ごめんなさい」
「え、あ…えっと、だいじょぶ」

おずおずと私の後ろから顔を覗かせた主は、乱の方を見て微笑んだ。
恐らく、乱にどう思われたのかもお分かりになっていない。
しかしあまりいい感情を向けられていないことは分かっていらっしゃるのか、少し落ち込んでいる。
自分の弟の方の第一印象が悪いとは悲しいことだ。

ただ、乱は私の望んだ弟の一人。
事情を話して、新しくやってきた2人も合わせて仕事の割り振りをしなくてはならないだろう。
主は私の服の裾を握りしめたまま、ぼんやりしている。
顕現でお疲れなのかもしれない。

「…んー…」
「主、お休みになるならお部屋に行きましょう」
「うん…」

主の脇に手を入れ、そっと抱き上げる。
眠たそうに目を擦る主をあやすように背を撫ぜると、部屋に着くより先に眠ってしまった。
前回、五虎退と今剣を顕現したときよりも疲労が出たようだ。
どうしてそうなったのかは分からない、同じ資材の量であったというのに。

理由はさておき、主の寝ている今のうちに作業分担を決めなくてはならない。
時刻は3時…そろそろ洗濯物を取り込み、夕餉の準備に取り掛からねばならない。
主を布団の中に入れてから、その脇で新しく来た乱と小夜、今いる五虎退と今剣に向き合った。

「これから、仕事の分担の話をする」
「はい」
「この本丸にいる刀は、ここにいるので全員だ」

乱が頬を引き攣らせた、全く分かりやすい子だ。
この部屋の幼子率は異様に高い…我々は見た目と年齢は比例しないものではあるが、肉体的な意味で、この状況は非常に厄介といえよう。

仕事分担もある程度もう決まっているも同然だ。
何といっても、小夜左文字、今剣、五虎退はどうしてもできることが限られる。
背丈の小さい子たちに、洗濯や調理は難しい。
それらは私と乱で行うとして、あとの掃除類を五虎退たちに任せる。

「基本的には主の近侍は皆で行う」
「え」
「…私が近侍を務めたいのは山々だけれどね。乱たち4人で家事をするのは無理がある」

本当は主の近侍は私がしたい。
人手不足な上に、主がまだ審神者としての自覚がない今、戦場に出られぬ。
そのため、私も他の短刀も鍛えると言う概念がない。
短刀である弟たちに比べ、太刀である私の方が守る力はある。
しかし実際問題、私が付ききりになるのは難しい。
遊びがてら、幼い短刀3人に主の近侍を任せるほかないのだ。

本当は明日にでも、また鍛刀をして人手を増やしたいが…隣で眠っている主にそれを頼むのも酷なこと。
焦ってはならぬ、まだ私ですらここに来てひと月程度なのだから。

「皆、よろしく頼む」
「…わかった」
「はーい」

いくら幼くとも主は主で、刀は刀だ。
主従は絶対であり、それは魂に刻まれたものだ。
戦場に出られずとも、今は人の形をしているのだから、主の為にできることは多くある。

安らかな寝息を立てる主の傍なので、小声で指令を出す。

「では早速、主が寝ている間に小夜と今剣は食糧庫から野菜を、乱は洗濯物を片付け、五虎退は風呂場の清掃を頼む」
「はい!」
「小夜、今剣はその仕事を終えたらここに戻り、私と近侍を交代。乱も終わり次第、主の衣類を持って近侍の手伝いを」

我が強いものが揃ってしまったことは心配であるが、些細なこと。
随分と仕事が楽になる。
皆、きちんと主の為と動いてくれるよい子ばかりだ。
さて、主が起きる前に部屋の片付けもしてしまおう。

最近、主の部屋には様々なものが置かれるようになった。
私が頼んだ書物や衣類、それから幼い主にと、管狐が気を使って持ってきた玩具など。
それに伴い、書架や箪笥、玩具箱などが増えた。

主はまだ執務より遊びが重要な年頃でいらっしゃる。
外遊びの好きな今剣と小夜、家遊びの好きそうな乱、五虎退は主に虎と戯れさせている。
主の成長にはいい短刀たちが集まったと言ってもいいだろう。
私も幼き我が主が健やかに過ごすことができるように努力せねば。
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