6.
主は非常に控えめな方だ。
1人になるのはまだ不安なようで、普段は私の傍を離れない。
無論、私自身も主を一人にすることを良しとはしないが、掃除の間もぴったりと傍に寄っていてくださる。
そのため、掃除を終えると次は風呂というのが定例になってきた。
今までどうしていたのだろうかと思うくらいに、良く付いて回ってくださる。

調理中は火や刃物など危険なものが多いため、土間へつながる部屋で待っていていただいている。
本来であれば、天守にある部屋で寛いでいて頂きたいが、主はそれを望まない。
三和土へつながる縁側で華奢な足をふらふらとさせ、こちらの様子を伺っていらっしゃる。

「いち、たいへんそう」
「お心遣い、感謝いたします」

幼いながらに、きちんと周囲が見えていらっしゃるのだ。
心配をしていただいたという事実に、心震える。

竈の火を確認しつつ、しみじみ思う。
それにしても確かに主の言う通り、人手の足りなさを感じるようになってきた。
やりたいことは多くあるものの、主を一人にするわけにはいかないため、手を付けられない。
同胞を増やすことを進言すべきだろう。

「同胞を増やすのも手でしょうな」
「ん、やる」

幸いにも、資材は潤沢にある。
主の負担にならぬなら、もう少しここを賑やかにするのもいい。
弟たちが出てくれば、主の遊び相手も増えていいことだ。

主はすっかりやる気になったようで、素足で土間に降りてこちらに寄ってきてしまった。
腰のあたりに抱き着いているから、身動きが取れない。
何より叩きに素足は良くない。
慌てて主を抱きかかえて、元の場所に戻した。
足を拭いて差し上げねばと流し台に行こうとしたところを止められた。

「早くやろ」
「ええ、ええ。ですが、食事を終えてからにしましょう」

小さな手だと言うのに随分と力がお強い…いや、言葉の力も強く働いているのかもしれない。
土間に膝をついてそう提案したが、主は納得のいかない顔をしていらっしゃる。
服の裾を硬く握り締めている指を丁寧に解いて、拗ねたように目を逸らす主に苦笑いする。
こんなところばかり、子どもらしくて可愛らしいことだ。

解いた指ごと手を包み込んで、口を寄せる。
そうすると驚いた主はようやく目を合わせてくれた。

「承知しました。食事前に鍛刀をして、待ちながら食事をしましょう」
「…いいの?」
「もとはといえば私が言いだしたことですから」

鍛刀をしたとしても、刀が出来上がるのに時間がかかる。
手伝い札もあるが、そう急くこともなかろう。
その上、今回の狙いは藤四郎兄弟の誰かであればいいのだから、そう時間もかからない。
食事をしている間に出来上がるだろう。

飯は炊きあがっているし、後は蒸らすだけ。
鍋の中も、このまま余熱で火を通せばいい。

懸念事項は鍛刀をすることによって、主の霊力が奪われることだ。
食事ができないほどに消費することはないとは思うが、それをする気にならない程度に披露する可能性はある。
できる限り資材を少な目にして1振だけにすれば、そう酷いことにはならないだろうが。

「資材を選んで…ああ、これらを好きなようにお選びいただいて、あちらの部屋に持って行くのですよ。そうすると、刀が出来上がります」
「うん」
「刀ができるまでの間で、食事をしてしまいましょう」

主が嬉しそうに微笑むものだから、もう何でもよくなる。
ともかく土間を素足で歩いて汚れた足を洗いがてら、資材置き場に向かうとしよう。


風呂場で足を洗って、資材置き場で諸々の物を2回に分けて運んだ。
流石に自分一人では1度で資材を運びきれないのがもどかしい。
やはり人手は必要だ。

それはともかく。
今、主は目の前の小人相手におっかなびっくりしている。

「こ、これ…、おねがいします…」

資材はもう渡したから、後は霊力の受け渡しだけだ。
主はその受け渡しをどうしたらいいのか分からないらしく、ずっと小人の前に立ち竦んでしまっている。
今までどうしていたのかとお聞きしたところ、他の大人が手伝っていたらしい。
大変申し訳ないが、私はそのやり方を存じ上げない。

いくら経っても霊力が受け渡されないことに苛立ったらしい小人が、ぐいと主の手を取った。
びっくりしている主の手を上下に2,3度振って、小人は襖の向こうに消えていった。

「…あくしゅでいいの?」
「いいのでしょうなあ…」

驚いた顔でこちらを見上げた主に、苦笑いしかできなかった。
本来の方法があるのだろうが、大変平和的で愛らしいのでこのままでいいだろう。
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