4.
私と名を同じくする、“いちご”なる水菓子を頬張る主は満足げだ。
曰く、丁度外で旬を迎えており、大粒で甘いものが多く出回っているらしい。

「いちもいちご食べる?」

音が被るのが楽しいようで、主はしきりに私にいちごを勧める。
先ほど一粒頂いて、あとは主がと申し出たが、その後も何度か面白がって勧めてきている。
もう一粒くらい頂いた方がいいものか迷う。

深皿に山盛りにされたいちご。
それ以外にも、まだ笊にたくさん乗っている。
あの管狐、流石に用意しすぎだ。
主がすべて食べてしまってもいいのだが…考えてみれば幼子が食べるにしては量が多すぎる。

「いいのですか?」
「ん」
「ありがとうございます」

恐らく、1人では食べきれないだろう。
それに水菓子だけでは栄養に偏りが出るし、この後に控える夕餉にも備えなくてはなるまい。

少しいちごの山を切り崩す手伝いをしていたが、主の手は止まらない。
深皿の中のいちごを全て食べ終え、笊にも手を伸ばした。
好きなものだからか、食指が進むらしい。

「主。夕餉もありますから、そちらはその後にしては?」
「んー…」
「もう一度冷やし直しますから」
「うん」

主は名残惜しそうに笊に指を掛けていたが、ややあって離した。
本当に好んでいるのだとは思うが、如何せん、食べ過ぎではないだろうか。
人の子の一般的な食事量は分からないから何とも言えないが。

ともかく笊を持って、土間に向かう。
井戸水で冷やして置いて、もし夕餉の後に余裕がありそうなら出すのが良いだろう。
土間に向かう最中も主は私の後ろを付いて回る。
時折、私の前にひょいと出てきては物欲しそうにするものだから、土間につくまでの間に三粒ほど平らげてしまっていたが。

「主、私の作った夕餉も食べられますか?」
「うん」

平素と変わらぬ様子だったので、いつも通りの夕餉を作る。
主は夕餉の間、管狐と戯れて遊ぶことにしたらしい。
最初こそ怖がっていたものの、いちごを持ってきた時によくよく見れば怖いものではないと感じたようだ。
管狐の方も主にされるがまま、毛並みを乱されている。

朝のうちにある程度の下処理を済ませておいたため、夕餉を作るのは楽でいい。
まだ自分一人で主を守りながら、生活に必要な家事をしているが故、どうしても工夫が必要になる。

「主、手を洗ってください」
「はあい」
「一応、私は外の獣と違って、そう汚くはないかと思いますが…」

管狐が不服そうにそういうが、それ以前に食事前に身を清めることは大切だ。
幼少からそういった習慣を身に着けることもそうであろう。

主は三和土に降りて、洗い場で手をきちんと洗う。
その後、自分の茶碗を持って竈の前で待機。
ここ1日2日で自発的にそうしてくださるようになった。
茶碗に白米をよそって手渡すと、それを持って部屋に戻る。

私は汁物とおかずの乗せた盆を持って、主の食事の準備をしてから自分の物を用意する。
それを管狐がじっと見ていた。
一応、彼にも油揚げを一枚用意して持っておいた、大層喜んだようだ。

「本来ならば、共に食事をするのは如何なものかと思うのですが…主がそれをお望みでしたので」
「まあ…このご年齢ですし、1人で食事をするのは寂しいでしょうからよいのでは?」

本来、主従の関係にある私と主が寝食を共にするのは見聞よろしくない。
ただし、今回は例外といえよう。
まだ生まれて3年程度の子に1人で食事をしろとは流石に誰も言わない。
従者か乳母が付いて然る。

頂きますをきちんとしてから食事を始めた主を確認しつつ、自らも箸を持った。
身体を持ってから食事をするようになったが、自分が食すよりも誰かが食しているのを見る方が性に合っていることに気がついた。
美味しそうに食事をする主の姿を見ると、胸の奥底が温まる。

「ごちそうさまでした」
「お粗末様でございました」
「いち、いちご…」
「ええ。ただ今お持ちします」

しっかりと夕餉も食べきってなお、主はいちごを所望なさる。
約束通り、冷やしたいちごを皿に盛って渡すと、嬉しそうに頬張った。
よっぽどいちごが好きと見える。
栗鼠のように頬を膨らませて頬張る姿は愛くるしい限りだ。

あっという間に平皿を空にした主に期待の眼差しを向けられるが、我慢して微笑みかける。
正直、お代わりを持ってきたいところなのですが。

「さあ、それを食べたら湯浴みをして寝ましょう」
「えー」
「明日に取っておくといいことが起こりますよ」
「?」

きょとんとした顔の主を廊下に風呂場に連れて行く。
いちごと共に頼んでおいたものの中に、いい情報があった。
それを今晩、主が眠った後に試すつもりだ。
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