3.
色々と物が足りない。
初期配備されていたものだけでは、今後過ごすには無理がある。
そのため、主には連絡手段たる管狐を呼び出してもらわねばならなかった。

本丸の主が管狐を呼ぶのは容易なことだ。
ただ、名を呼べばよい。

「こんのすけ」
「はい、こちらに!」
「…っ」

ぽふん、と間の抜けた音と共に現れたのは隈取のある狐だ。
管狐とは名ばかりで、管らしい部分はない。

突如現れた狐に驚き慄いた主を支え、大丈夫ですよ、と声を掛ける。
恐る恐るこちらを見上げた主は、私の服を握りしめている。
よっぽど驚いたらしい。

「…こんのすけさん」
「はい、なんでしょう?」
「いちごが食べたい…です」

初対面の相手にきちんと敬称を付けるとは、なんとも丁寧で立派なことだ。
相手は狐ではあるものの。

主は先日話していた“いちご”を最も先に伝えた。
まさか水菓子を希望されると思っていなかったのか、管狐ははあ、と間の抜けた返事をした。
主はその返事にすら怯える、何か悪いことを言っただろうかと思ったようだ。

「…いちご、ですか?まあ、用意はできますが…。物資の件でお呼びですか?」

管狐は幼い主と会話をするのを諦めはじめているようだ。
もともとこの管狐は本丸の主と外の世界を繋ぐ役割を果たす。
それが幼く言葉や仕草が拙いという理由だけで、早々に意思の疎通を諦めるとは言語道断。

しかし、主は管狐の能力や頼み事などもいまいち掴みかねていらっしゃる。
それに完全に怯えていらっしゃるときている。
主に依頼を伝えて頂くのは気が引ける。

「そうなる。主はこの通り、まだ幼くていらっしゃる。代わりに私が伝えてもいいだろうか」
「構いません」

主は完全に自分の後ろに隠れてしまった。
見た目はただの狐であるし、一般的な妖と違い、怖い身形でもない。
動物自体を苦手としているのか、喋るという事実が恐ろしいのか。
どちらにしても、怯えていらっしゃるのをそのままにしておくわけにはいかない。

膝裏に隠れている主を抱き上げて、取り急ぎ必要なものを伝える。
食糧や生活に必要なもの、主の服なども含めて、昨日まとめておいた。
加えて、資材の量や主の仕事の書かれた書類ももらった。
主はこの書類を読めないので、私が申し伝えることになる。

「こんのすけさん」
「はい、こんのすけと申します。必要なものがあれば言ってくださいね」

ある程度話が済んだ頃に、主は振り返って管狐を見た。
管狐と距離があるからか、恐れは軽減されているようだ。

管狐もああ怯えられては気が引けるのか、極力優しく努めようとしているらしい。
私と話す時よりもゆっくりと柔らかに伝えているものの、まだまだ努力が足りぬ。
主に対して、難しい言葉を使ってはならない。
必要の言葉の意味が分からないようできょとんとしていたが、ままあって頷いた。

頷いた主に満足したのか、管狐は消えた。

「いち、こんのすけさんは、いぬ?」
「主、あれは狐ですよ」

管狐が消えた後に、主はそう問うた。
次に管狐を読んだ時は書物用意させるとしよう。
主にはまだ知らぬものがたくさんあるのだ。
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