2.
ホットケーキにベーコン、それからパプリカとピーマンの入ったオムレツ。
#ナナの手元にはホットコーヒー、リドルの前にはカフェオレが置かれた。
年齢を考えてのことだ。

「…で、僕はどうしてこうなった?」
「今日はゆっくりしてもらうためだよ。ここのところ、ずっと仕事続きだったでしょ」
「やったのは#ナナで間違いないんだな?」
「もちろん」

満足げに頷いている#ナナを見て、リドルはため息をついた。
気持ちは分かる。
ここ1週間ほど本当に仕事が立て込んでいて、家に帰るのは日付が変わる直前。
#ナナが眠っているベッドに夜遅くに潜り込んで、彼女が起きる前にベッドから出て朝食を食べてを繰り返す日々にうんざりしていたのはリドルだけではなかったということだ。

「これじゃ、仕事はできないね」

嬉しそうに#ナナがそういうのを聞いたリドルは、内心驚いた。
#ナナのことだからマイペースに適当に毎日を過ごしてくれているだろうと思っていたが、想定外だった。

驚きの次に、言いようのない喜びが沸き上がった。
リドルがいないのを、#ナナは#ナナなりに寂しく思ってくれていたのだ。
あまり関心を持ってもらえていないと思っていたリドルは、#ナナの心の変化が嬉しかった。

ただ、仕事とプライベートは分けなくてはならない。

「一応、できないことはな、」
「できないよね?」
「…分かったよ、もう…」

珍しくも、#ナナが被せるように食い下がった。
年末の忙しい時期だから、できる限りのことはしたいと思っていたのが、どうやら#ナナはそれを許してはくれないようだ。

まあ、確かにできる仕事も限られる。
フォークとナイフを使うのも手間取るこの手では羽ペンを握るのも難しそうだ。
何より、身の丈が小さくなったことに慣れない。
#ナナがホットケーキにたっぷりとメイプルシロップを掛けるのを止めるのに、手が届かないのは初めてだった。

「で、これどうやったの?記憶保持をしたま、身体を縮ませるって相当難しかっただろ」
「うん。半年以上前から準備してた」

よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに目を輝かせた#ナナは、喜々として今回の研究内容を発表し始めた。

「時を遡る方法と言うのは、いくらかの方法を以てして存在しているよね。有名なものだとタイムターナーがそうだけど。タイムターナーは時を遡る魔法を簡易に使えるようにする道具なんだから、大本には、時を遡る魔法というものがあると思って調べたの」
「ああ…あるね、そう言う魔法」

時を遡る魔法は古くからある、難易度とリスクの高い魔法だ。
過去に戻るということは、未来を変えることにもつながる。
だからこそ、法を以てして、禁止されている魔法だ。

その魔法の使い方についてはとある禁書扱いの本に記載がある。
そしてその本は、#ナナの研究所の権限であれば見ることができるレベルのものだ。

ただ、時を遡る魔法はあくまで自分が過去に行くための魔法。
若返った誰かを見に行くことはできても、人を若返らせるような作用はない。
やるとすれば過去に行って、その先でポリジュース薬に必要な身体の一部を拝借するという方法だが、タイムターナーの使用には免許と申請が必要になる。
流石に#ナナの研究所もタイムターナーの使用の許可は下りないだろうし、申請があったと言う話も聞いてない。

「そ。その魔法をポリジュース薬に混ぜ込んだの」

発想に驚いた。
ポリジュース薬は人の姿形を他人に変える用途で使われる。
普通は自分の姿を変えるために使うことはない。
ただ、時を遡る魔法を加えることで、ポリジュース薬の中に入れる身体の一部が若返る可能性があると考えたのだろう。
実際にそれに成功して、リドルは3歳児まで戻されたというわけだ。

幼児化する薬の発明に関しては納得した。
それにしても面白い発想だ、とリドルは慣れない手つきでオムレツを小さく切り分けて口に運んだ。
面白い薬だが、論理的なメリットは殆どない。

オムレツの中に入っているピーマンの味に眉を顰めた。
味覚まで子どもに戻っているらしい、そういえば幼い頃、ピーマンだけはどうにも苦手だった。
大人になるにつれて気が付いたら治っていたから忘れていたが。
そこでリドルはふと気が付いた。

「ポリジュース薬なんて、いつ盛ったんだ…?」

ポリジュース薬が大本なのであれば、酷い味がするはずだ。
気付かれずに飲ませるのは、非常に困難な作業のはず。

「リドルがいつも帰ってきてから飲むワインに入れた。ポリジュース薬を無味に近づけるのが一番大変だったかも」
「…それ、特許取っときなよ」

#ナナはホットケーキを切り分けながら何でもないように言ったが、相当に難しかったに違いない。
ポリジュース薬はとにかくまずいことで有名な薬だ。
だからこそ、悪用はされにくいといえばそうだといっても過言ではない。

リドルは一頻り驚いてから、ため息をついた。
その労力と才能を自分の職場で生かしてくれたなら、抱える仕事の山の一つや二つくらい、解消できただろうに。
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