08.With Orion!
オリオンはぼんやりと少女を眺めていた。
ナナはオリオンと一緒であることが嬉しいのか数時間前からはしゃぎ続けている。
生憎アブラクサスは別件の仕事で忙しく、ナナの面倒は一挙にオリオンが担っているのだ。
もちろん、ナナを実体化させた張本人は時々ナナで実験をするものの、それ以外は放置。

もともと兄弟姉妹、従兄弟など親族関係が豊富だったオリオンにとって子守はそんなに大変なことではない。
だが、相手は自分の尊敬する主人のお気に入りの少女。
怪我をさせるわけにも、傷をつけるわけにも行かない。

しかし、ナナはお転婆でしょっちゅう危なっかしい場面に出くわす。
転ぶにしても傷つくのは霊魂であり、生身の身体ではないためどのような後遺症が残るか分かったものではない。
主は「それもいい実験だろう」というが、傷をつけてそれが元に戻らなかった場合、自分の首が飛ぶ可能性だって否めない。
そんな複雑な心理をナナは露知らず、今日も屋敷内を駆け回っていた。

「ねーオリオン、オリオンにはどんな家族が居るの?」

今までエントランスで駆け回っていたナナがなにを思ったのか突然話しかけてきた。
エントランスの端っこにおいてある椅子に腰掛け、本を読んでいたオリオンは驚いたようにナナを見た。

「今まで駆け回っていたというのに、突然なにを言い出すかと思えば…」
「うんっ!ちょっと疲れたから休憩!」

なにが楽しいのか意味もなくぐるぐるとエントランスを駆けていたナナだがさすがに疲れたらしい。
ゴーストでも疲れという概念はあるのかと不思議に思ったが、まぁナナはもうゴーストともなんともいえない存在になっているので、通常の概念は通用しないのだろうと考えることを放棄した。

ころころ変わるナナの行動に呆れつつ、質問に答える。

「私の家族、か。どんなと言われても困るのだが」
「うーん、兄弟とかは?」
「結構多いな」
「…それだけ?」

つまらなそうに聞き返してくるナナに若干の面倒くささを覚えるが、そこはぐっとこらえてナナを見る。
こてん、と小首をかしげるしぐさは子どもならではの可愛らしさがある。

ナナはかなり可愛い部類に入るだろう。
くりくりとした大きな青い瞳、長い黒髪は絹のような美しさだし、肌は陶磁器のように白い。
少し前までナナの姿を知らなかったオリオンだが、まさかこんなに美人だとは思っていなかったため驚いたものだ。
もし生きていたのならさぞ美しく成長していただろうが、もうその姿を見ることはできない。

それにしても、ゴーストというのはもっと殺伐とした姿である(殺伐とした姿が具体的にどんなものかといわれると答えに困るのだが)と思っていたのだがそんなことはなかったらしい。

「…そうだナナ、お前服は着替えられるのか?」
「ん?んんーわかんないな、そういえばやったことないや」

これ以上家族の話という意味不明な話題を進めたくなかったオリオンは無理矢理別の話題に切り替えた。
あまりに不自然だったため何か言われるかとも思ったが、10歳の少女にそんな心配は要らなかったようだ。

ナナは少し考えて、わからないと答えた。
ナナにはまだまだ分からないことがたくさんある。
それを主はさまざま調べているらしいが、実験を行うたびに必ずナナの機嫌を損ねるためいい迷惑だった。
無論そんなことはいえないが。

「そうか…服はたくさんあるんだがな」
「ほんと?いいなーおしゃれしたい!」
「…やってみるか?」

今ナナの着ている黒のワンピースはゴーストとしての身体の一部なのか、若干透けている。
中の体が見えるわけでもなく、ただ透けている状態だ。
つまり、現物の洋服を着せればナナは透けなくなるのではないか。
というか透ける部分が洋服によって隠されるだけなのだが、透けなければさらにナナは人間らしくなる。
そう考え、オリオンはナナに服を着せることにした。

次の日、オリオンは親戚の少女から洋服を貰ってきた。
買っても良かったのだが、子どもも居ないというのに子供服を買うだなんておかしな話だ。
貰うだけでもそれなりに不審に思われたのだがら、買いなどしたときは妻がなんと言うことか分からない。
おかげで少々荒っぽい適当な嘘をでっち上げてきたのだ。

「これくらいでいいか?」
「うん!ぴったりだよー」

親戚の少女は白系統の服が多かったのでナナが嫌がるかとも思ったのだが、特に気に留めていないようだ。
着ていた黒のワンピースはベッドに乱暴に投げられ、ナナは白いフレアスカートにピンクのブラウスという格好だ。

見た目はそう変わらない。
ただ、実物の服の部分は全く透けず、きちんと存在していた。
重さは特に感じないらしい。
これなら服を変えるのもいいのかもしれない。

「変な感じとかはしないな?」
「うん。ぜんぜんなんともないよ!」
「それじゃあ何枚か置いてくから、好きにしていいぞ」

ナナはおしゃれができると大喜びのようだ。
ゴーストとはいえ10歳の少女だ、おしゃれに興味はあるのだろう。
これで走り回るなどという蛮行を少しでも軽減できればいいのだが、とオリオンは考えていた。
しかし、着替えてもナナは大はしゃぎで、その冷めぬ興奮をそのまま行動に移しているのかやはり走り回る。
オリオンは眉間を押さえざるを得なかった。
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