04.Mischief of God
ナナはすっかりヴォルデモートに懐いていた。
それ以外の2人にもよく懐いたが、やはり一番はヴォルデモートだった。
無論ナナはこの3人の仕事が人殺しなどということは知らない。
だからこそ無邪気に3人の後ろをついて回るのだ。

今日はオリオンが遊びに(3人はちっとも遊びだとは思っていないが)来ていた。
その後ろをナナはついて回る。

「ナナか…またくっついて回って」
『うん!ねえお喋りしよう!』
「今のお前の姿は俺には見えないからな…我が君に頼め」

あの後、ナナは数日もしないうちにまた元の姿に戻ってしまった。
ヴォルデモート曰く、流し込んだ魔力がなくなってしまったから、だそうだ。
ナナもそれは自分の身体でよく理解していた。

それでもオリオンがナナの存在に気づいたのは、残り香だろう。
一度ヴォルデモートの魔力を持ったせいか、少しだけナナはヴォルデモートの魔力の気配がするらしい。
それを頼りにオリオンとアブラクサスはナナの存在を認知するのだ。

しかし2人はナナがそこにいる、という程度しか感じ取れないので結局ナナはヴォルデモートの元に舞い戻るのだ。
しかし、今日はそうもいかない。

『今日はヴォルデモート居ないんだよー!!』
「…今日は我が君がいないのか」

ナナの声はオリオンには届かない。



ヴォルデモートはノクターン横丁を歩いていた。
夜のノクターン横丁は人が多い。
しかし、ヴォルデモートはそれを気に留めることなく歩く。

「魔力あるときとないときの大きな違いはあるのか」
『何にも触れないよ…』
「それ以外だ」

数日前、またナナの姿が見えなくなってしまった。
また誰にも見えない、触れられないという状況に逆戻りしてしまいナナは相当に落ち込んでいた。
そんなことどうでもいいのだが、魔力があるないととでは何か違うこともあるのだろうと聞いてみたが、どうでもいい回答が帰ってきた。
それを流して、ほかに思いつくことはないのかと回答をせかす。

ナナは少し考えた風にして、ああ、と顔を上げた。

『そういえば、屋敷のことがぼんやりとしかわからないかな』
「どういうことだ?」
『ほら、前は2人が来るって分かったんだけどね、今は分からないの。誰かが来たってことは分かるんだけど、それが誰なのかわからないっていう感じかな?』

どうやらもともとナナは見えないところでも屋敷内のことなら大体何が居るのか、何が起こっているのかを把握できるらしい。
普段それはぼんやりとしたもやがかかったようにしか感じ取れない。
しかし、この前魔力を与えられたときは、来客が誰であるのかまではっきりと分かったらしいのだ。
しかもその客人がどこから入ってきたのかも認知できたようだ。

考えられる可能性として、ナナはこの屋敷と意識が混合しているということがあげられる。
そしてもしこの可能性が事実であれば、ナナは相当便利な存在だ。
敵の侵入が視覚で認知できない場合でもいち早く対処できる。
それを利用しないのはもったいない。

「なるほど…」
『あと、ものを動かせないよ』
「それは触れないのだから当然だろう」
『ううん。魔力があったときはね、ポルターガイスト起こせたよ?』

どうやらナナは自主的にいろんなことを試していたらしい。
ナナの言うことをまとめると、魔力があるときは屋敷の床に触れているものはすべて触れなくても動かすことができることと、屋敷に入る人間が誰であるか見ていなくても認知でき、その人間がどこから入ってきたのかも即座に分かるということだ。
それならば、ナナに少しでも魔力を持たせておいたほうが得になる。
うまくいけばこの屋敷は鉄壁の守りを手に入れることになる。

「頼んでいたものは」
「できております、我が君」

ナナに魔力を定着させるために、少々荒療治ではあるがとある方法を考えた。
そのために必要な用具を手に入れるために今日はノクターンへ来たのだ。

手の中のそれは月の光を反射してちらりと光る。
次の瞬間、ヴォルデモートの姿はそこになかった。


『つまんないなぁ』
「…どうしろというんだ」
『どうもこうもないよー!どうして見えないの?ヴォルデモートは見えるのに!』
「あのお方は偉大な方だからな。俺には到底真似できん」

ナナの声は届いていないが、どこか会話が成立しているようにも見える。
しかし、それは偶然以外の何者でもない。
ヴォルデモートの部屋とはまた違う部屋でオリオンは資料を見ていた。

ランについての情報をもう一度調べなおしたのだ。
しかし、やはりナナと言う名前の少女は見当たらない。
この旧家、ナナシ家の最後の代は両親と一人娘で構成されていた。
この一人娘、名はアリシア。

その女性をオリオンは知っていた。
確か4年まではいたのだ。
いたって一般的な旧家のお嬢様で(一般的なお嬢様というのも変な話ではあるが)若干自意識過剰で我がままだったが、それはお嬢様には良くあることだったので気にはならなかった。
しかし、5年生のはじめには姿を見なくなった。

「…そういえば、何で居なくなったんだ?」
『なになにー?何みてるの?』

ナナはオリオンの後ろから資料を覗き込んだ。
並ぶ文字に見覚えはある。
オリオンはナナが見えない。
だから、ナナの異変にも気づかない。

「…ナナ、どこだ?」

しかし、今まであったまとわりつくような感じがふっとなくなったことに気がついた。
おそらく傍にいたナナがいなくなったのだろう。
ナナはどこに行ったのか。
それはオリオンには分からない。


ナナはエントランスのシャンデリアの上にいた。
先ほど見た資料の名前が脳裏をよぎる。
シルディア、アリシア、アルバート…思い出せそうなのに思い出せず、でもなぜか胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになる。
その3人が自分の家族であったことは分かった。
でも、何も思い出せない。
どんな顔だったのか、どんな声だったのか、どんな姿だったのか、どんな性格だったのか。
何も思い出せないのだ、何も。

『なんで…?何で思い出せないの…?』

声に出しても、目を瞑ってみても、頭の中は真っ白だ。
記憶の最初は荒れ果てた屋敷の壁。
ちっとも温かい家族の記憶なんてなかった。

『なんで…、なんで…!』

なんだか分からない気持ちが湧き上がって、抑えられない。
頬を伝う温かい雫の感覚を久しぶりに感じた。
ざわざわと庭の草木が揺れた。
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