03.I am here!
彼らは屋敷を買い取ったらしい。
住んでいるのはあの時真ん中にいた、唯一ナナの姿が見えた男。
ほかの二人は別に家があるらしい。
しかし頻繁にこの屋敷を訪れてくれる。

『ねえねえ、遊んでよヴォルデモート!ねえってばー』
「少し静かにしていろ」
『うん、してるから。だから遊んで?』

この男の名はヴォルデモートというらしいことを、会話の中で教わった。
それ以来ナナは、ヴォルデモートに酷く懐きよく彼の前に迷惑を覚悟で姿を現した。

ヴォルデモートは厄介なものがついてきたものだ、と肩を落とした。
この家は旧家のもので、その家が滅びた後は誰も使っておらず廃屋と化していた。
掃除は魔法で簡単にできる上に、誰も手をつけていなかったため家具や書物のすべてが残っていた。
書物は魔法がかかっていて非常に状態のいいものが多く静かに読書もできると思い買い取ったわけだが、煩いゴーストがついてくるとなると話は別だ。

目の前のこの少女のゴースト。
ここに居ついているということは、間違いなくこの旧家の娘に違いはない。
しかし、ヴォルデモート自身も調べたが、ナナと言う少女が存在したという記録はない。
この旧家が滅びたのは、ほんの20年ほど前。
そして、ナナ曰く『自分がこうなった(ゴーストになったことをさしているのだろう。彼女は自分から”死んだ”ということは少ない)ときにはもう誰も居なかったの…』だそうだ。
つまりはナナがこの家の最後の代であったことに間違いはない。
つまり、生きていればヴォルデモートと年齢はそう変わらないはずだ。

「お前、魔女ではないのか」
『んーと、わかんない』
「ホグワーツからの手紙はこなかったのか」
『来てないと思うよ。だって私確か10歳だもん』

ナナがスクイブである可能性も考えた。
もし、旧家の中からスクイブが、しかも跡継ぎに相当する娘がそうだった場合、間引きという線も考えられた。
手紙の来ない10歳の時点でスクイブと判断ができてしまった場合、手紙が来る前に間引いてしまったほうが周囲の家にも知れずに効率はいい。

その頃、ヴォルデモートは暇をもてあましていた。
まだ始動したばかりの軍であるが故にできることが少なかったからだ。
暇つぶしとして、ヴォルデモートはナナで実験を行うことにした。

『…何するのー?』
「じっとしてろ。少し痛む」
『痛いの…?やだぁ…』

ナナは平凡な10歳の少女そのものだった。
素直で無邪気な性格をしていて、どうも人付き合いも嫌いじゃないらしく誰にでも笑顔を振りまく。
場違いな感じがものすごくするのだが、屋敷とセットになっているのでは仕方がない。
人間の消し方は知っていたが、ゴーストの消し方はあいにく知らなかった。

しかし、ナナには気になるところが多々あった。
まず第一に、この幼い自分が魔女かどうかも曖昧な少女が何故20年も存在し続けることができたのか。
それはおそらくこの少女に魔力があるからなのでは?とヴォルデモートは考えていた。
しかし、それにしては存在が不安定すぎる。
子どもとはいえ、魔力があるならもっとましな存在になれただろう。
何にも触れられないというのはゴーストの中では普通のことだが、姿が見えないというのはあまり聞くことはない。
魔力があるとも言い切れないし、ないともいいきれない。

だから、ヴォルデモートは実験してみることにした。
自分の魔力をナナに直接流し込み、その流れを見るというものだ。
もしナナに魔力があるのなら、自分以外の魔力には拒絶反応が出るはず。
つまりナナが痛がるようならば、ナナには魔力があるという証拠になる。

ナナの手をとろうとしたが、当たり前のようにヴォルデモートの手は空を掻いた。
仕方がなく、ナナの手のある場所にヴォルデモートは手を突っ込み、そのまま魔力を注ぎ込んだ。

『っ何…?…痛ぃ!痛い!やだぁっ!!』

ナナに魔力を流し込んだ瞬間、ナナはびくりと震え、そう泣き叫んだ。
どうもナナには魔力があったらしい痛みから逃げようとナナはもがいているものの、どうも離れられないようだ。
魔力を流すのをやめると、ナナはその場に崩れるようにうずくまってしまった。

時々しゃくりあげる声が聞こえるから、泣いているのだろう。
死んでいるにもかかわらず痛覚はあるのか、といらないことが1つおまけでわかった。
先ほどは痛いかもしれないといったが、そもそもゴーストに痛覚があるかなんて知ったことではなかったのだ。

『うぇえん…』
「まだ痛むのか」
『…まだびりびりする…』

どうも痛みは痺れるようなものだったらしい。
要らない情報をまた1つ手に入れた。
あまりナナの機嫌を悪くするのもよくない、なぜかそう思ったヴォルデモートはナナに言い訳をしようとナナに近寄ったときだった。

「!?…どういうことだこれは」
『…あれ?触れる…?触れるよ!すごいね!どうやったの?!』

ナナの投げ出していた足が、ヴォルデモートの足先に触れたのだ。
ヴォルデモートは触れるわけがないとナナの足を無視して向かい側にいこうとしたのだが、先ほど空を掻いたはずなのに、なぜか今はナナに触れることができるのだ。
ナナはその感覚が嬉しくてたまらないのか、ヴォルデモートに抱きつくという一般人が見たら目を覆いたくなるような行為をしている。
ヴォルデモートはそれを無視し、また考え始める。
そして、1つの答えにたどり着いた。

「今の魔力か…」
『すごい!やったぁ!』

無邪気にヴォルデモートの周りを駆け回るナナを抱きかかえ、ベッドに放り投げた。
いい加減うっとおしく思ったらしい。
しかしベッドの反発が嬉しいのかナナはベッドの上で跳ね回り始め余計に煩くなった。

ヴォルデモートは窓際の机の前に座り、そんなナナの様子を観察した。
見る限り、人間にもものにも触れるようになったらしい。

「ナナ、こい」
『…もう痛いことしない?』
「しない。だからこい」
『うん!』

先ほどの魔力の流し込みは本当に痛かったようだ。
少し警戒されたが、結局ナナはぴょこぴょこと寄ってくる。
子犬か何かを連想させるような姿だが、あいにくそんなものに情を覚えることもない。

寄ってきたナナの洋服をつまんでみる。
完全に触れるようだ、質感も布そのものだった。
黒いワンピースはさらっとした触り心地で、質の良いものだったことが伺える。
ただの魔法使いの召使の可能性もあるかと思ったが、召使がこんないい服を着るはずもないことからナナはやはりこの旧家の家の子であったことがわかる。
まぁお嬢様というにはあまりにやんちゃで無邪気な気がするが、それは教育しだいで何とでもなる問題だ。

『ねーいつまでそうしてるの?変態』
「…少し黙ってろ。お前のことを調べてるんだからな」
『はぁい』

変態という単語に若干眉根をひそめたことにナナは気づかなかった。
しかし言われたとおりに素直にヴォルデモートに従う。

黒く長い髪は子ども特有の細さだが、絡まることを知らない。
白い肌…皮膚感も生きている人間と変わらなかった。
生きている人間と決定的に違うのはその姿が若干透けており、月の光が差し込んでいるくらいか。

『もういいの?』
「ああ…。…なにか気づいたことはあるか?」
『うん。あのね、オリオンさんとアブラクサスさんがきたよ』
「…何故わかる」
『んーなんかね、もともと屋敷の中に何が居るかとかは感じ取ることができるんだけどね、なんか魔力?もらったらもっとわかるようにね、なったていうかね、うーんと、』
「もういい。わかった」

その数秒後、部屋の扉がノックされナナの言うとおりの2人が姿を現した。
それを見てナナは満足そうに笑った。
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