23.The time between
夏休みが近くなると目に見えてナナの落ち着きがなくなる。
そわそわとアブラクサスの部屋に行ったり、エントランスをうろうろしたり。
目的の人が来れば一瞬で分かるのにナナは動きを止めることがない。
ヴォルデモートはそんなナナの姿を苦笑しつつ見ていた。

「ナナ、少しは落ち着いたらどうだ?」
「ん…でもさ…早く遊びたいんだもん。居ても立ってもいられないよ」

ナナはヴォルデモートの部屋をうろうろしていた。
先ほどまでエントランスをふらふらしていたのだが、飽きたのかヴォルデモートの部屋に来たのだ。
本を読んでいたヴォルデモートに倣い本を読み始めたナナだが、1時間ももたなかった。

そんなナナを窘めるように、ヴォルデモートはナナを抱き上げ膝の上に乗せる。
ナナに重さはないが、少しひんやりしていて心地よい。
ただ、ひんやりしていると本人に言うと怒られるので心の奥にしまっておくが。
ナナはちょこんと大人しくヴォルデモートの膝の上に収まった。

ナナが待ちわびているのは今、ホグワーツに通っている学生組の帰りである。
ホグワーツに通っているルシウス、レギュラスと夏休みは遊ぶのが約束となっている。
すでに死喰い人として活動をしているルシウスを中心に、ブラック家のベラトリックス、ナルシッサの女性組も夏にはここにやってくる。

ナナに最初に会ったときこそ、こんな子どもがと驚いていたが慣れた今ではナナに手紙を書いてくれたりと、お姉さん役を買って出ているのだ。

「何だ、俺が相手では物足りぬか」
「うーん、そう言うわけじゃないんだけどさ。学校の話、いっぱい聞きたいんだ。行ったことないし」

ヴォルデモートが少し拗ねたようにそう言うのが可笑しかったのか、ナナは笑って言う。
ナナはヴォルデモートのこういった気さくなところが大好きだった。
めったに見せない一面だが、2人きりのときは特別だ。

アブラクサスやオリオンと違って、ヴォルデモートはこの屋敷に住んでいる。
そのため、ナナと触れ合う時間は一番長い。
お互いに気を許しているので、親子のように接しあっている。
もしかしたらお互いに親子以上の愛情を持っているのかもしれないとは思うが、所詮は人間と死人。
どうすることもできないことをナナは理解していた。

「ああ、そうか…。俺にはあまりいい思い出はなかったが」
「そうなの?でもアブラクサスとオリオンにはそこで会ったんでしょ?」
「まぁそうだな。それを考えればプラスだったかも知れんが。忌々しい狸がいたからな」
「狸?」

ナナは不思議そうにヴォルデモートを見上げた。
ヴォルデモートは眉根をしかめ、双眸には怜悧で暗い光を灯していた。

今ヴォルデモートの右腕として働いているアブラクサスやオリオンはホグワーツで出会ったと聞いている。
だからそんなにホグワーツでの生活は悪くなかったのではないだろうか。
ナナはそう考えていたが、やはりその時代から敵は居たらしい。

「ついでだから教えておこう、ナナ。アルバス・ダンブルドアという人間は厄介だから警戒しろ」
「その人が狸?」
「そうだ。好々爺に見えて全く喰えん爺だ。昔からあいつは俺のことを疑っていた。それこそ入学する前からだ」

ふぅん、と興味なさ気に言うと、ヴォルデモートは少し気を悪くしたように腕を組みなおす。
組みなおしたかと思えば、思い出したようにその手を解いて何かを呼び寄せるように、手を動かす。
すると、棚から一冊の真っ黒の本が飛んできた。

「何これ…?日記帳?」
「そうだ。俺の15歳のときの記憶が入っている…お前にダンブルドアのことを教えておこう」

ヴォルデモートは暇つぶしにはなるだろう?と楽しそうに薔薇色の双眸を細めた。
ナナもそれに倣って笑い、そうだね、と日記帳に掌をのせた。

「どうだ?ラン」
「…なるほど、分かった。気をつけておくよ。…そんなことよりさ、やっぱりヴォルデモート若い頃からハンサムだったね」
「お前が気にしたのはそっちか」

記憶を見終わったナナは、いたって真面目な顔でヴォルデモートを見上げた。
ヴォルデモートは呆れたようにナナを見下げている。
それでもナナは真面目そうに続ける。

「もてたでしょ?」
「お前までそんなことを言うのか?女なんて所詮は顔しか見ていない。相手にするのも面倒だった」
「私は表面だけじゃないもんー、何年一緒にいると思ってるの?」
「お前は特別だ」

昔の女を思い出しているのだろうか、どこかうんざりとした顔でヴォルデモートは言う。
ため息交じりのその言葉は、全国の女性を敵に回しただろう。
ナナもそのうちの1人だったのか、またも拗ねたように頬を膨らませた。

それにまた苦笑し、ナナの頬を撫でる。
本当に彼女はヴォルデモートの例外中の例外、特別な存在だった。
まさか自分にロリコンの気があるとは思っていないが、ナナは今までに付き合ったどんな女とも違う。

存在自体が特殊だったし、出会いも特殊だったということもあるだろう。
しかし、それだけではなくナナには惹かれる何かがあった。
それが何であるのか、ヴォルデモートは未だに分からない。

例外といわれて嬉しかったのか、ナナは白磁のような肌を薄桃色に染めた。

「まあ、そうかもね。…そろそろかな?みんなは」
「…ああ」

ナナは思わず話題を逸らしてしまった。
突然特別扱いをされて戸惑ったのと、恥ずかしかったのとで少々パニックになっていた。

テノールの響きで自然に出た言葉。
それが存外に嬉しかった、今までの女とは違う、お前は特別だと言われたようで。
舞い上がりすぎかもしれないが、そこまで大切に思ってくれているのかと嬉しく思うのだ。


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