19.I'm sure I will not come out!
それから毎週のようにシリウスとナナは遊んでいた。
シリウスは家からお気に入りの雑誌を持ってきて、ナナと一緒によんだ。
ナナは変わりにさまざまな面白い魔法をシリウスに教えた。

金曜日に3人の誰か1人でもいると分かった場合にはナナがこっそりと抜け道を塞ぎシリウスに伝え、シリウスはそうなっていた場合にはおとなしく帰って寝ていた。
最近はオリオンも忙しいのか現地集合が多いらしい。
現時点でこの抜け道を使うのはオリオンとシリウスだけなので少しばかり塞いでいても大丈夫だ。
もしオリオンにばれてもナナの悪戯だと思うだろう。

なかなかに完璧な行動だった。

「それにはこの魔法を使うと、煙の色が変わるし面白いと思わない?」
「いいなそれ!」

今2人がはまっているのは悪戯呪文だ。
もともとナナが生前いたこの家ナナシ家は呪文開発で有名だった。
ナナもその血を引いているのだから、その辺りに関しては天才的ともいえる能力を発揮した。
シリウスも馬鹿なほうではないため、ナナの言っていることを簡単に理解し実行に移す。

「使い道がないのが残念だねぇ」
「そうだな…家でやったらたぶんぶっ飛ばされるしな」
「此処でやったら殺されちゃうしね」

ジョークとは思えないナナの言葉にシリウスは顔を青くする。
そりゃそうだ、こんなところで悪戯とはいえ爆発を起こせば、死喰い人が飛んでくるだろう。
そこに子どもとはいえ侵入者がいれば反射的に呪文を飛ばしてくる。
そこまで考えて、恐ろしくなってやめた。

「ま、まあ来月からホグワーツだしな。そこで試してみるさ」
「そっかー、もうそんな時期なんだね…」

ナナは少しさびしそうに笑う。
シリウスは疑問に思ってランに問うた。

「いや、お前もだろ?スクイブじゃねぇんだし」
「ううん。私は行かないよ」
「は!?なんでだよ!」

ナナは魔法が使える。
というのも、シリウスがナナに杖を貸したりして呪文の実験をしたりしていたからだ。
ナナは呪文も完璧だったし、優秀な魔女になるだろうなと考えるほどの腕前だった。
そのナナがホグワーツに行かないというのはどういうことなのだろう。
まさか、やはりこの家に縛られていて外に出られないとかそういうことなのだろうか。
ヴォルデモートがナナをこの家に縛り付けているのだろうか。

そう考えると怒りが込みあがってくる。
シリウスが声を荒げたのでナナはあわててそれを諌める、他の死喰い人に聞こえたら大問題だ。
まあ此処には防音魔法をかけているので、そこまで心配はないのだが。

シリウスは誤解をしている。
おそらく彼はヴォルデモートや死喰い人が自分を縛り付けていると考えているのだろう。
そもそももう生きていないのだから、手紙が届くわけがないのだ。
とはいえ、ナナとしても10歳のシリウスにいきなり自分は死んでいると告げていいものか迷った。
誰だって仲の良かった友達がもう死んでいるなんて思いたくないだろうし、何よりゴーストであるからと怖がられて拒絶されるのも嫌だった。

しかし、誤解されたままでは困るし言うしかない。
うつむいていたナナが顔を上げる。

「…あのね、シリウス。私ね、」
「シリウス…?お前、なぜ此処に…?!」
「!?」

しまった、と思ったときには遅かった。

オリオンはシリウスに杖を向けて驚いているのを押し殺すように声を出していた。
いつの間にか絵画が開けられていた。
シリウスとの話に夢中になるあまり、辺りへの警戒が散漫になっていたのだろう。
明らかなナナの失態だった。

でも見つかったのがオリオンでよかったと若干思いつつ、止めに入る。

「オリオン!待って、私が招きいれたの!」
「ナナが…?たとえそうだったとしてもシリウス、お前私の部屋に勝手に入ったな?」
「…」

オリオンは相当怒っているらしい。
まだシリウスに向けた杖をおろさない。
シリウスは反省しているかと思えば、そんな風ではなくむしろやたらに反抗的だった。

「ああ、入った」
「あれほど入るなといったはずだが?」
「知るかよ。…ナナを離せ」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!何でそんな…」

ナナとしてはなぜこんなに仲が悪いのか理解ができない。
もともとシリウスがよく死喰い人について調べようとオリオンの部屋に入っていたこと、シリウスが純血主義嫌いで死喰い人も大嫌いだということをナナは知らなかった。

オリオンはそれを知っていて、ナナを人質にとられたのかと勘違いしていたのだ。
そうではないらしいことをナナの反応を見る限りで理解はしたものの、勝手に進入していたことを許すわけには行かない。

睨み合いになっている親子の元に現れたのは、それを諌めるものではなく更に混乱を招く人物だった。

「オリオン、ナナ…なんだこの騒ぎは」
「我が君…!…申し訳ありません。私の愚息めが勝手にここに忍び込んでいたのです」
「ちょっと待ってってば!忍び込ませてたのは私なの!」
「ナナ、少し黙れ。そうだとしてもそいつを放って置く訳には行かぬ」

ナナはさっと血の気が引く音を聞いた気がした。
オリオンのそばに立たされていたナナだが、ヴォルデモートが現れたためそちらに走る。
此処で全決定権を持っているのはヴォルデモートだ。

しかし返ってきた言葉は思った以上に重く、冷たいものだった。
シリウスは今にも噛み付きそうな顔で、ヴォルデモートを見ていた。
家の中であるため、フードはしていない。
整った無表情がシリウスを見た。

「…いかがなさいますか、我が君。この愚息は我々とは違う思想を持っておりますが故、此処には連れて参りませんでした。将来、我々の敵になる可能性すらあります」
「連れてくる、予定だったの?」
「ああ。だが、オリオンが辞退した。今言った理由でな」

ヴォルデモート曰く、オリオンやアブラクサスの息子をナナの遊び相手にしよという考えは前々から出ていたらしい。
最近死喰い人としての仕事が多く、3人はナナにかまうことがあまりできなかった。
そのため、ナナは1人でいることが多く文句を言うことはないが、寂しそうにすることも多かった。
ナナは精神的に成長しても、やはりどこか子どもじみたところがある。
感情が表情に出やすく分かりやすいし、何より屋敷に異変が現れたりする。

ナナの不安定さはそのままこの本拠地の不安定につながる。
ともかく何らかの対応を取ろうという話になったのだ。

そこでオリオン、アブラクサスの息子を使おうとしたのだが、オリオンの長男はこのシリウス。
純血主義に早くも反抗心を抱いてしまっているために却下。
弟はまだ幼すぎる。
アブラクサスの息子はすでに学生で休みの期間しか来ることはできない。
以上の点から結局保留となってしまったというわけだった。

「でもそんなに悪い子じゃないよ」
「今はな」

ヴォルデモートはシリウスをにらむ。
シリウスは今にも噛み付きそうな目でにらみ返すが、それ以上のことは何もしなかった。
お互いに動かない。

オリオンはシリウスを見つめていた。
何を考えているのかナナには分からなかったが、殺すと決まったらどうするのだろう。
今話している様子では、シリウスを守るつもりはさらさらないようだ。
オリオンがシリウスを見る目は我が子を見るそれではない。
どこまでも冷え切った厳しい瞳だった、もし殺すと決まったら止めないだろう。

ナナはこんなオリオンを見たことがなかった。
オリオンはいつだってナナに優しかったし、もっと柔らかな笑顔を向ける人だったから。
アブラクサスは少々冷たい面もあったが、オリオンはそんなことはなかった。
そのためナナは焦る。

かたん、とオリオンの後ろにある椅子が少しだけ震えた。

「ナナ、お前に選択肢をやる。どちらかを選べ、選ばなかったらそいつは殺す」
「…分かった」

ヴォルデモートは2人を見ている欄を見ていた。
ナナはやはり不安定になっているらしい。

最近やたらに機嫌がいいということは分かっていた。
今までナナのそばに誰もいないときは、扉が勝手に開いたり、窓が軋んだりとさまざまな事象が起こった。
それを見て、3人は危機感を認知し続けていたのだ。

しかし数ヶ月前からそれがなくなった。
どういうことだろうかと3人は思ったのだが、別段悪い方向に変化したわけでもないので放っておいたのだ。
ナナにとってはいい遊び相手ができていたので、安定していたのだろう。

ここで下手にその遊び相手である侵入者を殺せば確実にナナは不安定になる。
だからといって、侵入者をそのままにしておくわけにもいかない。
此処はあくまで死喰い人の本拠地。
聞けばこの侵入者は今年からホグワーツ、もしダンブルドアに密告でもされたら大変なことになる。
いくらナナが屋敷内に敵を入れないにしても、大々的に見つかってしまえば意味はない。

「その侵入者に忘却魔法はかけずにすべての抜け道を潰すか、その侵入者に忘却魔法をかけ抜け道は塞がないか、だ。選べ」
「…っ」

前者を選べば、オリオンとアブラクサスは此処に簡単にくることができなくなる。
2人はナナを可愛がっていたし、ナナも2人に良く懐いていた。
しかし2人は魔法省にもマークされているため、2人が表立ってこの屋敷に来ればこの屋敷までマークされることとなる。
そうなれば、2人はこの屋敷に来ることができなくなってしまう。

後者を選べば、それを避けることができる。
しかし、シリウスは此処で遊んだことやナナの存在、すべてを忘れる。
ナナだけは覚えていても、シリウスは覚えてない。

ナナの答えは決まっていた。

「…後者」
「いいだろう」

もともとシリウスは此処に来るべきではなかったのだ。
彼と遊んだのはナナのわがままで、彼に罪はない。

それに彼は本当に将来、敵になるかもしれない。
そうなったとき、大好きなヴォルデモートたちを危険にさらしたのはナナと言うことになる。
それは避けなければ、でなければまたランは一人ぼっちになってしまう。

シリウスはこのことを忘れるべきだ。
ナナと言う存在、死喰い人の本拠地、ヴォルデモート、父親の仕事。

「…ごめんね、シリウス。私の我が儘で」
「俺は忘れない!ナナのことも、此処のことも!」
「…」

それができないことは、ナナには良く分かっていた。
ヴォルデモートの魔力は強く、忘却魔法もお手の物だ。
少年であるシリウスが抵抗できるものではない。

ヴォルデモートが杖腕を上げる。
とっさに逃げ出そうとしたシリウスをオリオンがぱっと掴んだ。

これ以上見ていたくないけれど、ヴォルデモートが約束を守るか確認しなくては。
…守らずに殺したとしても、ナナはヴォルデモートを責めるつもりはないが。
きゅっとヴォルデモートのローブを掴み、彼を見上げた。

ヴォルデモートは無表情だった、彼にとってシリウスはただの弱い侵入者でしかないのだから当たり前なのだが。
薄緑の光線が彼に当たるのを、ナナは泣きそうな顔で見ていた。

「ごめんね」

ぽつりと呟いたその言葉は、空にかき消された。
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