18. Stray black
ナナは彼が入って来たのであろう、オリオンの部屋に入った。
オリオンの部屋は変わらずすっきりした部屋で、本棚もない。
アブラクサスの部屋には逆に本がたくさんあるのだが、それは幼いナナの遊び方のせいだろう。
オリオンとともにいるときはかけっこやら身体を使う遊びをよくしていたので、危険なものはすべて取り除かれているか高い場所にある。
もしかしたらオリオンも静かに遊びたかったのかもしれないと今更思う、今度聞いてみよう。

それよりも、今は目の前の少年のことだ。

「えっと、私はナナって言うの。君は何ブラックくん?」
「…シリウス…って…え?」
「そう、シリウスって言うのね!オリオンの息子って君だよね?」

オリオンめ、きちんと息子の面倒くらい見ておけとヴォルデモートならそう思うだろう。
だが、ナナはそんなことはない。
相手が危険人物ではなく身元もはっきりした今、ナナにとって目の前のシリウスはいい遊び相手だ。
此処にくるのはあまりよくないことだが、退屈していたナナにとっては嬉しいこと。
リスクも伴うが、3人が帰ってきたらさっさと逃げてもらえば問題ないだろう。

「そうだけど…何で知ってるんだ?」
「この部屋はオリオンの部屋で、君が通ったあの抜け道はブラック家と此処しか結んでいないの」
「そうだったのか…」
「シリウス、今何歳?学校はもういってる?弟がいるんだよね?可愛い?」

シリウスはしみじみと絵画を見上げた。
父親の部屋からこんな場所につながっているなんて。
それにしても…此処はどこなのだろう。
そしてこの目の前のナナという少女は何者なのか。
ブラック家のことも父親のことも知っていて、明らかな年上の人間にあんなにも恭しい態度をとらせる。

ナナはどう見ても、自分と同い年か年下かだ。
死喰い人ということではなさそうだし、誰かの子なのだろうか。
それにしても死喰い人のあの態度、相当身分が高いことは伺えるが…。
目の前でマシンガンのようにしゃべるナナを見ていると、お嬢様というわけでもなさそうに見える。

「あー、そういっぺんに質問すんな!」
「うんうん、で?年齢は?」
「…今年で10歳だ。学校は来年から!ってか学生だったらこの時期学校だろ」
「あ、そっか」

とりあえず、ナナと会話をしてコミュニケーションをとろう、話はそれからだ、とシリウスは考えた。
自分で考えて答えを出すよりも、本人に聞いたほうが早い。

ナナはニコニコと嬉しそうに笑っている。
一応、シリウスは侵入者だというのにこの余裕。
密室の部屋で侵入者と2人きりという一般的に見れば危険なこの状況で彼女は余裕そうだった。
助けを呼ばれないように口を塞がれて、手を出されたらどうするつもりなのだろうか。
まあそんなことをしたくて忍び込んだわけではないので、何もしないが…。
何も考えていない馬鹿なのか、それとも絶対に大丈夫という自信を持つ自信家なのか。
どちらにしても愚かといわざるを得ない。

「んで?ナナは何歳なんだよ」
「私?…うーん、同い年かな」
「何で悩んでんだよ…」
「秘密!」

ナナが悩んだのは他でもない、見た目の年齢を言うか実年齢を言うか、ということでだ。
そんなこととは露知らず、シリウスは変なやつ、というだけで特に追求はしなかった。

「ここ、どこなんだ?」
「死喰い人の本拠地だよ。本来なら侵入者は全員殺すっていうのが掟なんだけどねー」

さらっと今、なんていった?
死喰い人の本拠地?
ブラック家の当主である父は死喰い人の中でもかなり地位の高い人間だろう。
そしてブラックは純血の旧家として有名で、純血主義のトップともいえる。
ヴォルデモートと近しい存在であってもおかしくはなく、家と本拠地をつなぐというのもありえなくはない。
とはいえ、まさか。

混乱するシリウスを横目に、ナナは困ったように笑って

「まあ大丈夫だよ。もしばれたら私が弁解してあげるから」

というものだからさらに混乱した。

本当に此処が死喰い人の本拠地として、それではナナは何者なんだ。
先ほど恭しく頭を下げていたあの男は使用人ではなく、死喰い人だったということ。
その死喰い人を悪戯で驚かし、その上跪かせる10歳児など聞いたこともない。
10歳児の弁解を誰が本気にするのだと笑い飛ばしたいが、あれを見ているとそれすらもできてしまうのではないかと思う。
というか、できるだろう。

「シリウス?」
「…お前、何者なんだよ」
「うーん…あの人が私を厳重に保護しているんだよ、だから私が特別強いって言うわけでもないんだ。死喰い人たちは私に跪いているんじゃなくて、私の後ろの主人に跪いているんだよね」

なんだかうまくはぐらかされた様な気がする。
しかし、それ以上聞ける様子ではなかったので、シリウスは話題を変える。

「そうなのか、まあいろいろ突っ込みたいことはあるけどまあいい」
「そうしてくれると助かるな。ねえチェスしない?」
「…俺ここにいていいのかよ」
「もちろん!私は大歓迎!ただ、3人が帰ってきたらすぐに帰れるようにしておこうね」

話を続けようと思ったのだが、ナナのほうが一枚上手だった。
次の話に持っていく前に、ナナが話を持ち出したのだ。
チェス盤をどこからか出している。

死喰い人の本拠地で遊んでられるか、と言いたいところだがナナは本気らしい。
というか、ナナにとっては此処が家なのだからこれが普通なのだろう。

しかし、他の人間に見つかるのはまずいらしい。
3人の中にヴォルデモートが含まれているのは分かるが、あとの2人は誰なのだろうか。
もしかしたら、その中に父親が含まれているのかもしれない。
ばれたらこの抜け道は塞がれてしまうだろう。
ナナはそれを恐れているのだろうか、絵画の前に椅子を持っていき絵画をすぐはずせるようにセットしていた。
どうもナナ自身は純粋にシリウスと遊びたいだけのようだ。
害はなさそうだし、遊んでもいい。

「ちなみに3人って誰だ?」
「オリオンとアブラクサスとヴォルデモート…君のお父さんと、マルフォイ家の当主と、闇の帝王だねー」

やはり父親が入っていた。
マルフォイ家の当主も一度だけ会ったことがある、父以上に厳格そうな人だった。
無論、ヴォルデモートにあったことはない。

とんでもない3人組だ。
そんなのに見つかったら、叱られるどころではないだろう。
普通に殺される、たとえ父親でも遠慮なく侵入者である息子を殺しそうな気がするのだ。

やはり気になるのはその3人を軽く呼び捨てにするナナの存在だが、ここは置いておこう。
もっと仲良くなってからなら聞かせてくれるかもしれない。
とりあえず、今聞けそうなことだけ聞いておこうとチェスの駒を配置しつつ考えた。

「ナナは此処にいつもいるのか?」
「うん」
「…閉じ込められてるのか?」

閉じ込められているわけではないけれど…とナナは困ったように笑うので、これはあまり触れられたくない話だったのだろう。
ナナとしては閉じ込められているのではないのだが、ここから出られないというだけなのだ。
しかし別段此処から出ようという思いもないし、むしろヴォルデモートがナナを消さないでいてくれることに感謝しているくらいだ。

「でもみんな優しいし、満足だよ」
「そっか…」
「ただ、同い年くらいの子はいないから、シリウスがきてくれて嬉しいよ」

その思いを素直にシリウスに伝えると彼は複雑そうな顔をして頷いた。
ナナは付け加えてシリウスを歓迎しているという意味で言葉を発した。
シリウスはナナを見て、少し頬を桃色にして、そっぽを向いてそうかよ、とだけつぶやいた。

チェスを進めつつ会話をする。

「3人は金曜日の夜はほとんどいないから。来るなら金曜日の夜中がいいよ」
「来させる気満々じゃねーか」
「3人がいないから暇なんだよ。私、夜型だし」
「俺の予定は聞かねぇのかよ!」

え、なんか用事あるの?こんな夜中に?と返答を食らって結局丸め込まれた。

ナナもこの屋敷は大人ばかりでつまらないと感じているのだろうとシリウスは考えていた。
シリウスも弟がいるとはいえ、話し相手のほとんどは大人である。
同い年くらいの知り合いは親戚くらいしかいないし、どいつもこいつも口を開けば人の貶し合い。
あまりにくだらないし、つまらない。

それに比べてナナは一般的な会話をする。
今はどんなお菓子が流行なのだろうとか、クディッチのこととか、魔法の授業のこととか。
普通の会話をしていた。
ナナは勉強のことに関しては物知りだが、最近のことやクディッチのチームことは知らなかった。
それらを教えて、ナナの反応を見るのがシリウスは楽しい。

時間はあっという間に過ぎる。
クディッチの話をしていると、不意にナナがばっとシリウスの手を引いた。
突然のことにシリウスは暢気に、なんだよ、と頬を赤らめていたがナナは一言、

「3人が帰ってきた。シリウスも帰らなきゃ」

とあわてたように言う。
外を見ればすでに朝焼けが出ている。

「向こうに着いたら、絵を片付けるのを忘れないでね」
「ああ、」
「…また、来てね?金曜日の夜だよ」
「おう、楽しかったからまた来る!じゃあな!」

不安そうにシリウスを見るナナに笑顔を向け、シリウスは抜け道を走った。
新しい遊び場所に心を躍らせ、シリウスは走る。
またナナに会って、チェスをしながらお喋りをしよう。
今度はナナのために雑誌も持って、最近のことをたくさん教えてやろう。
そんな計画を立てながら、シリウスは抜け道を抜けた。

一方ナナは絵画を片付け、チェス盤を隠す。
霊体になり、壁をすり抜けてもといたナナの部屋に戻った。
3人は門から入ってきたため、ナナは彼らよりも先にきちんと部屋に戻ることができた。

ナナは先ほどまで遊びに来ていたシリウスとの会話を思い出して、微笑む。
またきてくれると約束してくれたシリウス。
新しいたくさんの情報を持っていて、話も面白い。
彼らにばれないようにこっそりと遊ぶことの背徳感も重なり、年甲斐(精神年齢の話だ)もなく興奮していた。

部屋の近くまでヴォルデモートがきたのを確認して、いつもの位置に立つ。
そうして、何事もなかったかのようにナナはヴォルデモートに言うのだ。

「おかえりなさい」
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