17.Curiosity
少年はあるとき、父の部屋で面白いものを見つけた。

悪戯好きな彼はこっそりと父の部屋でよく遊んでいた。
厳格な父に見つかれば、酷くしかられるであろうとことは容易に想像できたがそれすらもスリルの1つとして、彼は楽しんでいた。
ある日、彼が遊んでいるとふとあることに気がついた。

「この絵…」

それは父の部屋に飾られた大きな絵画。
その絵画の位置が少しだけずれていることに気がついた。
絵画の周りにはこっそり彼がつけたマークがある。

それは彼の身長を記したマークだったのだが、それはさておき。
前に自分がつけたマークの場所から絵画の位置が微妙に変わっている。
縦にではなく横に、である。
これは見間違えようがなかった(彼はいつ絵画に身長が届くか楽しみにしていたのだから)。
ということは、誰かがこの絵の位置をずらしたということだろう。

どういうことなのだろうと、彼は絵画に興味を持った。
しかし絵画の位置はまだ彼の身長よりもずっと上にある。
とりあえずその場にあった椅子を使って絵画に手を伸ばすが、少し触れるだけでどうにもならない。

少年はその日は一旦絵画をあきらめ、作戦を練ることにした。

次の日、彼はまたあの絵画の前にいた。
今度は手に杖を持っている。

「びゅーんひょい、だよな」

彼が考えた作戦は、自分の手が届かないなら魔法を使えばいいというものだった。
まだ彼はホグワーツに通う前の年齢だったが予習はばっちり。
浮遊呪文をきちんと覚えていたのが幸いした。

「ウィンガーディアムレビオーサ!」


ナナはかわらずのんびりしていた。
外はしとしとと雨が降っている。
先ほど出かけていったヴォルデモートは大丈夫だろうかと思ったが、彼のことだし魔法で同どうにでもなるだろうと、ナナはカーテンを閉めた。

読みかけの本でも読もうとベッドの端にある本に手を伸ばした。
その手は本の数センチ前でぴたりと止まった。

「誰…?」

知らない人の気配。
今まであったことのない人が、オリオンの部屋にいることを確認した。
ナナはベッドから降りて、部屋を出る。
生憎今はあまり顔見知りの死喰い人もいない。
ナナ自身で確かめるほうが騒ぎも起こらないだろうし、いいだろう。
知らない人とはいえ、オリオンの部屋にいるということはおそらく、ブラック家の誰かであることは確かだ。

昔にヴォルデモートが作った秘密の抜け道。
もしものときに、というよりかは普段この屋敷と実家との往来が激しい2人のために作ったものだ。
仕組みは知らないが、2人は便利だと喜んでいたのを思い出す。
今も両家の親族の一部が使っている抜け道だ。

両家ともこの抜け道を使う者をランの元へ連れて行き、ナナに覚えてもらっているので知らない人がそこから出てくるのはおかしい。
ブラック家にスパイがいるとは考えにくいが、ただ侵入者であることは確かだ。
一応、様子を見に行こうとナナは部屋を出た。

「サン様、いかがなさいましたか」
「ちょっとね。気にしないで、たいしたことじゃないから」
部屋の外に出ると、死喰い人の1人がぱっと跪く。
ナナは苦笑を零しつつ彼に軽く話しかけ、そのまま廊下を進んだ。

昔に1人で部屋を出て、死喰い人の1人に呪文をかけられたこともあり、ナナの存在を死喰い人に明かそうということになった。
ヴォルデモートが10歳の少女を連れてきたときの雰囲気と言ったら…なんともいえない。
ともかくそれ以来この家の守人であり、ヴォルデモートがもっとも愛する少女としてナナは死喰い人に敬意を払われている。
そのため、廊下ですれ違うと10歳の少女に大人が道を開け、あろうことか最敬礼で迎えるといった異常な光景がしばしば見られるのだった。

「あっ…、」

オリオンの部屋は2階の西側。
ヴォルデモートとランの部屋は2階の東側なので反対側である。

西側の廊下に侵入者はいた。
ナナの姿が見えたときにとっさに柱の陰に隠れたらしいが、あまり効果はない。
どこにどう隠れようが、ナナには筒抜けである。
一瞬ちらりと見えたのは、自分と同い年くらいの子どもの姿だった。

「出ておいで。そこにいたら別の人にばれちゃう」
「…」
「そろそろ下にいる人が私に挨拶しに来るわ。さっさとおいで」

先ほどすれ違った死喰い人が1階にいた死喰い人に連絡したらしい。
何名かの死喰い人がこちらに向かってくるのが分かった。

ナナはヴォルデモートのお気に入りだ。
オリオンやアブラクサス以上に気に入られているといっても過言でない。
そのナナに付け入ろうとする純血家もあるのはうなずける。
しかも相手は子ども、付け入るのはそう難しくないと考えている馬鹿なやつらはナナが部屋から出るとわざわざ挨拶をしに来たりするのだ。

先ほど廊下であった彼はずっとナナの行動を監視している。
それはヴォルデモートの命令などではなく、下にいるやつらの命令で見ているようなのだ。
めったに部屋から出ることのないナナの目にかかるために監視している。
ナナから見れば滑稽そのものなのだが、彼らはいたって真面目だ。

「聞き分けがないのね」

無論そんなことを知らない侵入者は、柱の影から出てこない。
子どもくらいだませると子どもながらに思っているのだろう。

仕方がなくナナは柱のほうへと向かう。
その間に侵入者が逃げないよう、柱から拘束具を出し油断していた侵入者を縛っておく。
この即席の拘束具は柱の芯に使われている鉄製の細い棒を使用している。
屋敷の中に存在するということで自由に使えるが、長いこと使っていると柱の耐久性的な問題があるのでさっさと終わらせたい。

「少ししゃがんで、じっとしていてね」

柱の影と自分の間に侵入者を挟み、姿が見えないようにした。
ナナの着ているワンピースの裾はナナの足元まであるため、侵入者の足は見えない。
侵入者は少々ナナよりも背が高いのでしゃがむように言ってから柱の影でタイミングを計る。

「わっ!」
「っ!!…これはこれはサン様、驚きましたぞ。」
「驚いたでしょう?…皆様おそろいでいかがなさったのです?」

部屋を出たはずのナナの姿を探していたらしい死喰い人を驚かす。
待ち伏せしていた、ということにしておこうと考えたのだ。

無邪気な子どもを装って、彼らの注目を自分に集める。
死喰い人たちはそろって跪き、ナナの手をとりキスを落としていた。
ナナとしてはやめて頂きたいのだが、ぐっと堪えて笑みを浮かべる。

死喰い人は3人、先ほど廊下で出会った人はいない。
その中でも親玉らしい銀髪の男が口を開く。

「怪しい物音がしましたゆえ、心配になりまして」
「ごめんなさい、たぶんそれ私です。さっき本を落としてしまったの」
「そうだったのですか。お怪我などはありませんか?」
「はい、大丈夫です。私はもう少しここで皆さんを驚かして遊ぼうと思うの。だから秘密にしておいてね?」
「かしこまりました。何かありましたらどうぞ、このカルカロフめに」

さりげなく名前を言う辺り、露骨だとナナは苦笑した。
子どもだからと思っているかもしれないが、実際そんなに子どもでもない。
見かけにだまされた滑稽な大人をナナはなんともいえない気持ちで見ていた。

彼の言っていた物音というのはおそらく後ろに隠した侵入者が何かしたときの音だろう。
それが本だったのか、彼自身が落っこちた音だったのか…まあおそらく後者だ。
抜け道になっている絵画はナナの手の届かない場所に設置されている。
ナナが脱走しないようにというわけではなく、ナナがはしゃいで駆け回ったときにぶつかったりしないようにと、高い位置に設置したのだそうだ。
そのため、知らずに抜け道を使うと、たいてい尻餅をつくことになる。
大人でさえ尻餅をつく高さだ、子どもだったら尻餅じゃすまないだろう。

彼らは各々一礼をして、その場を去った。
この死喰い人たちはナナのことを誰かに言うことはないだろうとナナは考えていた。
自分たちだけがナナにお目見えしたという風にしたいのだろうから。

彼らが階段を降りたのを確認して、後ろを振り向く。
まだ鉄の拘束は解かない。

「ええと、こんにちは」
「…おまえ、誰だよ。ってかこれ解け」

ずいぶんとマナーのなっていない子だとナナは苦笑した。

後ろの少年はやたらに不機嫌そうだ。
薄い灰色の瞳はゆがめられ、眉間には皺がよっている。
身長はナナより少し高く、しゃがむのをやめるとちょっぴりナナが見上げる形になる。

「ああ、ごめんね、今解いてあげる。逃げないでね?さっきのやつらに捕まったらまずいし」
「…ああ」

おとなしく頷いたのを見て、ナナは拘束具を解いた。
彼は自動で動く鉄の棒を驚いたような目で見ていた。

prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -