16.Crow in gate
ナナの身体は成長することがない。
いつまでも子どもの姿のままだ。
それは実体を得ても、変わらない。
皆が大人になっても、ナナだけは変わらない。

子どもの姿のまま、この屋敷にいる。


「卿、卿ってば」

いつからか、ナナはヴォルデモートのことを卿と呼んでいた。
それはナナが精神的に大人になったということだろう。
どこそこかまわずヴォルデモートと言って後ろをついてきていたナナだが、さすがに十数年もすれば大人びて他の人に倣い、その名を言わないようになった。

それをヴォルデモートはどう思ったのかは知らない。
だが、特に咎めることもなくそう呼ばれ続けている。

「なんだ?」
「またよ。また外に誰かいるわ…」

黒のワンピースも昔と変わらない。
見た目は変わらないが表情などはどこか大人びていて、雰囲気だけは大人そのものだった。
それもそうだ、ナナは実質ヴォルデモートと同い年。
1人だった時間を除いても、もう20代後半といったところか。

ナナはうんざりとした表情をしていた。
ここのところ、この場所を敵が察知したのか監視している者が増えたらしい。
中から筒抜けになっているとも知らぬ愚か者どもの蛮行がナナは嫌なようだ。

「別にね、見てる分にはいいんだけど、門に魔術をかけるのはやめてほしいわ…」
「そうか、今夜中には消しておく」
「…うん」

ナナは外にいる人間が好きではない。
だが、殺されるだけのことをしているとは思えない。
ナナには外の世界を知らなかった。
外でヴォルデモートやオリオン、アブラクサスがなにをしているのかも知らなかった。
昔は良く遊んでくれた2人がなにをしているのか知る由もなかった。

だが大人になって気づく。
彼らからやたらに血のにおいがすることも、時々酷い怪我をして帰ってくることも。
この屋敷に居た人が突然いなくなったり、緑の光線が夜よく近くで瞬いているとかも。
幼いナナはそれらをつなぎ合わせて考えることができなかった。
しかし、今はそれらの意味を知っている。

でも、ナナにとってはこの家が大切な場所で、ここにいるみんながナナの家族だった。
他の人はそのようには思っていないかもしれない。
だが、ナナにとっては家族だった。
だから外の人間が死ぬことになってもこの屋敷の中だけは、みんなが安全でいられるようにしていたい。
そう願って、ナナはここにい続けた。

「あ、オリオンたちだ」

ナナはずいぶんと大人になった。
昔はあんなに落ち着きなく屋敷中を駆け回っていたナナだが、今は自室に篭り静かに本を読んでいることが多い。
昔、言いつけを破り勝手に部屋を出てクルーシオをかけられたことも起因しているのだろうが。
それは都合のいいことだった。

自分にクルーシオをかけた人間すらも許す優しいナナだ、もし外でのことを知ればショックを受ける。
確かにナナはもう気づいているだろう、この屋敷に居るものがどんなことを外でしているか。
だが、ナナは知ってなおそれから目をそらそうとしてくれている。
そらして上で、ナナはこの屋敷とここにいるものを守ろうとしてくれている。
好都合だった。

ここの場所が知れても、ナナのおかげで敵は一歩も入れない。
庭に生える草木はナナの思い通りに動き、敵を排除する。
門もナナが開けようと思わなければ決して開かない。
スパイでも入ろうものならすぐにヴォルデモートに伝えた。
従順で優しいナナをヴォルデモートは大切にしていた。

「ん…あー、もうちょっとかなぁ」

ナナはオリオンが帰ってきたため、かまってもらおうとした様だが今すぐはあきらめたようだ。
彼らがシャワーを浴びに行っていることが分かったのだろう。
今日の2人の仕事は殲滅。
さすがに血のにおいがする身体でナナに会う気はないらしい。

その辺りは3人の共通理解だった。
ナナには決して外での戦闘を物語らせない。
そしてその共通理解をナナも理解していた。
だから、ナナは決して外のことを3人には聞かなかった。

「最近忙しそうだね」
「そうだな。退屈か?」
「うーん、ちょっと退屈かな」

ナナはベッドの上でころころと転がっている。
今のナナは完全に透けていて、ゴーストのそれに近かった。

最近ナナは実体化をとくことが多かった。
それはただ単に実体化していると疲れるということに気づいたからだ。
実体化をすれば自分の魔力を使うことになり、疲弊が早い。
それに気づいたナナは、実体化を解くことが多くなった。
本を読むときなどは手だけを実体化させるという器用な技を使い、本のページをめくるのだ。

ナナは本をぱたんと閉じた。
閉じられた本はランの手を通り抜け、ベッドへと落ちる。

「そうか…」
「何かいい案でもあるの?」

ナナはふわり、とヴォルデモートの傍に寄る。
小さなランはヴォルデモートの膝の上にすっぽりと収まる。
幼い頃のナナは犬のようだったが、大人になるにつれて猫のような感じになってきたようだ。
甘えるように上目遣いで小首をかしげるナナの頭を撫でて答える。

「ああ。オリオンとアブラクサスの子に遊んでもらえばいい」
「へえ…もう子どもなんているのね…感慨深い」
「お前は時間に疎いからな」

ナナは時が流れるのは早いものだと見た目にそぐわない感想を述べた。

ヴォルデモートは2人の子について説明した。
アブラクサスの子は卒業間近の6年生、オリオンの子はまだ1年生だそうだ。
オリオンには子が2人ほどいるが、1人は純血主義には反対らしく家出中なのだとか。
その他にも2人の親族がたくさんホグワーツに通っているらしい。

「それと、アイリーンの子どもも通っているそうだ」
「アイリーンの…!」

アイリーンはすでに亡くなっていた。
あの女はなぜかマグルと結婚し、その間に子をなしたようだがその後死んだらしい。
詳しい話は知らないし、裏切りにも近い行動をされたのだ。
咎めはしないが、いい気分もしない。

ただ、アイリーンは非常に優秀だった。
その息子もまた優秀であることは期待できる。
それがマグルとの混血であってもやる気があるのであればヴォルデモートは此処に入れてやるつもりだった。

何よりも、ナナはそれを喜ぶだろう。
アイリーンは少々愚かではあったが、それでもナナとは仲が良かった。
女の子同士、気はあっていたらしい。
死喰い人を抜けるといわれたときは一生懸命とめようとしていた。
彼女が死んだという情報が入ったときも、ナナは泣いていた。
ゴーストが泣くものなのかとも思ったのだが、思ったよりも普通に泣いていた。
涙は頬を伝うとすぐに消えてなくなってしまっていたが。

「そっか…ちょっと楽しみだなぁ」

うっとりと目を細めるナナの額を撫で、窓の外に目をやる。
窓の外には少々荒れ気味の庭と蔦に覆われた門扉が見える。
その辺りでうろうろやっている黒いローブが目に付いた。
ナナの言っていた侵入者だろう。

なにやら門を開けようと必死になっているらしい。
ナナは特に気には留めていないらしいが、見ていて気分の良いものではない。

「…気になる?」
「ああ。お前は気にならないのか?」
「慣れたよ」

ヴォルデモートが窓の外に視線をやっていたことに気づいたのか、ナナはヴォルデモートを見上げていた。
ちらり、と窓にも目をやって苦笑した。
ナナとしてはそんな命知らずな行為をして欲しくないのだが、それをお願いしたところで向こうもあきらめるわけがない。

ただ、ナナが起きている間はヴォルデモートも彼らに手は出さない。
あくまでナナの目の届かないところでやるのが暗黙の了解だ。
今はそのときではないと、ヴォルデモートは窓のカーテンを閉めた。

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