泣き続けるナナをヴォルデモートが抱いて、落ち着かせる。
ショックだったのだろう、ナナは止め処なく泣き続けていた。
やはりナナが過去のことを思い出せなかったのは自己防衛本能だったのだ。
思い出してしまえば壊れてしまうと、本能的にそう考えたのだろう。
ようやく落ち着いたのか、少し静かになったナナにヴォルデモートは話しかける。
「ナナ、お前自分が今どこにいるか分かるか?」
「え…?…うん、多分、地下室にいるよ。書斎の本棚の1つが隠し扉になってて、その奥に部屋があるの」
「案内しろ」
今言ったどこにいるの意味は、ナナ以外の2人も気づいた。
ヴォルデモートがナナの遺体を捜しているということ。
ナナはそれに気づいて戸惑ったように、しかしはっきりと答えた。
地下の書斎は非常に多くの本で埋まっている。
天井まである本棚が部屋の壁を全て隠していた。
ナナはそのうちの1つの本棚に触れる。
「これ、仕掛け扉なの。でも、どうやってやるか思い出せない…」
「場所だけ分かればいい。やり方も全部これに書いてあった」
何の変哲もない本棚だが、仕掛け扉らしい。
ヴォルデモートは手の中の手記を見ながら、呪文を唱えその手記を本棚の本の一冊と取り替えてしまった。
すると、本棚の棚が左右に避け、一枚の扉が現れる。
「アブラクサス、オリオン、ナナをつれて部屋にもどれ」
「はい」
「え、ほんとに行くの?あんまり見られて気持ちいいものじゃないんだけど…」
戸惑った様子のナナをオリオンに押し付ける。
ナナの意見はもっともであろう、計算すればナナが死んだのはもう20年以上も前だ。
今のナナの遺体は白骨化し、酷い状態になっているだろう。
そんなものを見て欲しくないとナナは思っているのだ。
「だから俺一人で行く、場所も移動させよう。こんなところで一人は嫌だろう?」
「…まあ、うん。そうだけどさ…どこに持ってくの?きっと屋敷から離したらあんまり良いことないよ」
「屋敷の一部に埋めておく、人目に絶対つかないように」
もうヴォルデモートの中では決まったことらしい。
ナナは大人しく引き下がった。
そのナナの耳元でヴォルデモートは一言、何かを言った。
ナナは驚いたようだが、1つ頷いた。
それを見てヴォルデモートは扉の向こうへと消えた。
「…ナナ、なんていわれたんだ?」
「秘密。というか、私もなんであんなこと聞かれたのか良くわかんない」
ナナはオリオンに抱かれて部屋に向かう廊下を移動していた。
オリオンは先ほどヴォルデモートの言葉が気になったらしい。
ナナの耳元で囁かれた言葉はオリオンやアブラクサスには聞こえなかった。
ただ聞いていたナナもその言葉の意図を汲み取ることはできなかったようだが。
ナナは、オリオンの胸に顔をうずめる。
疲れているのだろう、ぐったりとオリオンに凭れ掛っている。
オリオンはそっとナナを撫でて、寝ても良いぞとだけ言った。
ナナは1つ頷いて、目を閉じた。
オリオンの体温と心地よい揺れですぐに眠りに落ちた。
扉の向こうはすぐ階段になっていた。
階段を降りると、階段の壁にあった蝋燭の火が勝手につく。
その様子がホグワーツの廊下を思い出させる。
地下は無機質なものだった。
部屋は1つしかなく、壁は剥き出しで扉も質素なものだ。
その扉を開くと、これまた質素な部屋だ。
カーペットも何も敷かれていない床、小さなベッド、本棚、クローゼット。
どれも古いのだろう、ベッドは黄色く変色していた。
ぱっと見たところではナナの遺体は見つからない。
だが探すのはそう難しくないだろう。
ベッドにいないということはそこ以外だと、クローゼットしかない。
ヴォルデモートはクローゼットの扉を開けた。
「…、」
思ったとおりの状況だった。
服は一着もなく、中にいたのは白骨。
服はいつも見慣れたあの黒いワンピースだった。
ずっと、此処にい続けていたのだろう。
誰にも見つかることなく、ひとりで、ずっとこの地下に閉じ込められて。
ここの家族がいなくなって尚、ひとりでここにいた。
ナナシ家は結局、非常にくだらないことでアズカバン行きになっていた、確か賄賂や不正取引だ。
そのことで娘一人が取り残され、結局自殺をしたのだという。
そんな家族の行く末をナナはここから見ていたのだろうか。
くだらない理由で殺されたナナは、くだらない理由で終末を迎えたこの家をどう見たのだろう。
きっとナナはもうそんなこと覚えていないだろうが。
白骨を袋に入れていく。
その際少々の骨を別の袋に取り分けた。
ヴォルデモートが先ほどナナに確認を取ったこと、それは「骨の一部をもらってもいいか」というものだった。
ナナの魔力はあまりにも弱い、それは実体がないからである。
生きている人間は魔力を身体という器に入れている。
そのため、魔力も安定する。
しかし、ナナのようなゴーストは実体がないため少しの魔力でさえも残しておくのは難しい。
掌で水を救い上げているようなものだ、効率も悪い。
そこで、器として自分の遺骨を使えば良いのではないかと思ったのだ。
元々は自分の身体なのだから、魔力もそこに安定するだろう。
ただ、骨を持っているわけにも行かないので骨を他のものに加工してナナに持っていてもらおうと考えたのである。
遺骨の入った袋は地下ではなく、地上の部屋に移動させた。
日当たりのいい南の部屋の壁に埋め込んでおいた。
ここなら、悪くないだろう。
部屋に戻るとナナはベッドで寝ていた。
ナナはゴーストなので本来は睡眠など必要がないのだが、今日ばかりは参ってしまったらしい。