14.Hauling written the past
その夜は珍しく、ヴォルデモートとアブラクサス、オリオンの3人が全員ナナの部屋にいた。

最初に来ていたのがオリオン、最近長男が昔のナナのようにやんちゃで困っているという話をナナにしていた。
その後来たのがアブラクサス、ヴォルデモートの耳に入れたい情報を手にしたとかでヴォルデモートと話していた。
その話が終わってから、2人が一緒にナナの部屋に来た。

特に約束をしていたわけではないが、偶然にも全員が集まったのだ。
ナナはそれを嬉しく思っていた、3人が一同に集まるのは久しぶりだった。

「そういえば、ナナって結局どこの子だったんだ?」

事の発端はオリオンの無粋なこの質問だった。

昔、ナナと会ったばかりのころ、アブラクサスがナナの素性を調べようとした。
しかし、ナナのことは一切分からずじまい。
このナナシ家の子であるかどうかどころか、純血だったのかも分からないままだ。

ナナはその質問に寂しそうな顔をした。
それを見たオリオンが慌ててフォローに入ったが、遅かった。

「思い出せないんだよね、家族のこととか、生きてたときのこと。知りたいって言えば知りたいけど、パンドラの箱みたいでちょっと開けるのは怖いかもって思ってた」

ナナはそういって苦笑した。
しかしその顔は今にも泣き出してしまいそうだったため、ヴォルデモートとアブラクサスがオリオンを睨む。
オリオンは慌てて2人にも謝るが、それがまたヴォルデモートの機嫌を損ねた。
謝るべきはナナであると視線で促されて、慌てているオリオンにナナは落ち着いた様子で、

「…開けてみよっか。私結構気になってるから」

といったのだ。
それにはその場にいた全員が驚いた。

今まで触れられたくない話題として、ナナの中に存在していたであろうもの。
それを自ら調べようというのだから。

「…いいのか?本当に」
「うん、だって気になるし。今更知ったとしても成仏とかはないと思うしね」

こうして十数年ぶりに、ナナの過去について調べなおしが始まった。

3人は各々、ナナシ家について調べ始めた。
アブラクサスは魔法省に出向き数十年間の戸籍情報を手に入れ、オリオンはブラック家の伝手で旧家にナナシ家の事を聞いて回り、ヴォルデモートが屋敷内の書物を調べる。
ナナはヴォルデモートの手伝いをしていた。

結果、戸籍は見つからなかったがオリオンの情報と屋敷内の書物に気になるものが発見された。

「まず俺の情報だと、ナナシ家には最初2人娘がいたらしい。1人はアリシア、スリザリン生だった。もう1人は…サン。こっちは学校に通うことはなかったそうだ。その話をしてくれた者が最後にあったのは彼女が8歳ほどのとき。それ以来アリシア以外の娘を見ていない」

戸籍上はナナシ家の娘はアリシアひとりとなっていた。
アリシア・ナナシのことはヴォルデモートとアブラクサスどちらも知っていた。

ヴォルデモートと名乗る前の彼に付きまとっていたヴォルデモートと同級生の女子生徒の一人で、長いブロンドと青い瞳が特徴的、性格は高慢で自意識過剰だった。
しかし、5年生に上がるときにはすでにいなかった。
ナナシ家が滅んだのはその3年後のことである。

次に口を開いたのはヴォルデモートだった。

「なるほどな…話が繋がる。この手記はここの当主だったアルバートのものだ。簡潔にまとめて話す。ナナ、お前の名はサン・ナナシ。シルディア、アルバートの娘として1926年12月25日に生まれた」

ヴォルデモートが淡々と話し始める。

生まれた子は双子だった。
しかし、両親は生まれた双子を1人の子として魔法省に申請した。
その理由は、最終的にどちらか一方を当主として育て、もう一方を影武者にしようとしたからである。
頭のいいほうを育て、もう片方は陰に隠れいざというときに使う、そのように考えた。
2人の見た目は全く違った、長女は父親に似た黒髪、次女は母親に似たブロンド。
しかし、見た目だけならばいくらでも変える方法はある。

長女のほうが頭の回転が速く、器用で愛くるしい子だった。
次女は不器用で、全く使えない無能。
見た目も飛びぬけた箇所はなく、何より癇癪を起こしやすく面倒だった。
両親は長女を積極的に育てはじめた。

長女の唯一の心配は身体の弱さだった。
生まれつき身体が弱く、小食で線の細い長女を心配した両親は、慰者にナナの検査を頼んだ。
それはナナが8歳のときだった。
それはただ単に小食が何か悪い病気であるのではないかという過保護からのことだったが、その結果は両親を落胆させるに相応しいものだった。

長女には、子は成せない。
長女は生まれつき子宮が壊死しており、それが体内に残っているせいで体調を崩していた。
子を成せない跡継ぎなど、必要がなかった。

長女はそれ以来地下に閉じ込め、人目に付かないようにした。
幸いどちらを育てるか迷っていたため、公の場に子どもを出したことはない。
両親は打って変わって次女を育てはじめた。
そして、長女が10歳になったとき両親は重要なことに気がついた。

11歳になったら、この子にもホグワーツからの手紙が来てしまう。
魔法使いの力を持つ子全員に配られる入学許可証、それがきてしまったら自分たちがこっそり双子を育てていたことがばれてしまう。
11歳になる前に、長女は処分しなければ―――

「…ナナ、お前は1936年12月25日に両親に殺されている。方法は絞殺、…苦しかっただろうな」

ナナはくだらない理由で両親に殺された。
暗い地下の部屋の中、珍しく訪れた両親にナナは馬鹿みたいに喜んだ。
1年くらいずっと会えなかった両親。
閉じ込めた張本人たちだというのにナナはそんなこと気にせず、ただただ喜んでいた。

その喜ぶナナの首を、父が絞め、母が暴れるその子の身体を金縛りの呪文で収める。
薄れ行く意識の中、ただただ悲しかったことだけを覚えていた。

気づけば、ナナは泣いていた。

「…そんなんだった、気がするよ。多分オリオンが話したその人、お医者さんだ。優しい人だったよ、茶色のふわふわ髪の女の人。覚えてる。かわいそうにって言ってくれた。でも、きっと愛してくれる人はいるよって慰めてくれて、よく分からなかったけど、でもとっても悲しいことなんだなってことだけ分かって、パパもママもまた困らせちゃうのかなって思った」

ナナは泣いていたが笑っていた。
記憶の片隅に残っていたものがすべて表に出たようだ。
ヴォルデモートが話している最中、ぼんやりと虚空を見つめていたから思い出していたのかもしれない。

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