11.Quivering
アイリーンはヴォルデモートからナナについてのすべての説明を受けた。
ナナがゴーストでこの屋敷と繋がっていること、長いことこの屋敷にずっといること、この屋敷を自由に操作でき、この屋敷の守人なのだということ。
そのため、ヴォルデモートが大切にしていること。

それらの理由を聞いて、ナナが優遇されているということも納得がいった。
あの2階の奥はもともとナナの自室だった。
さすがにもともといた住人(しかもまだ幼い)を追い出してまでその部屋を自分の自室にしようとはヴォルデモートも思わなかったようだ。
アイリーンはそれらをすべて聞いて、もう一度ナナの元を訪れた。

「あ、アイリーンだ!こんにちは!」

時刻はもう深夜なのだが、ナナはこんにちはの挨拶らしい。
まぁヴォルデモートや側近2人は夜にくることはないだろう。
夜は仕事があるのだから…、それらはナナには言わないという暗黙の了解があるらしいが。
ナナは外でなにが行われているのか何も知らないままに、優しいヴォルデモートだけを彼だと思い込み、此処で閉じ込められ言いように使われているのだ。
それを考えると、なんだかこの少女が哀れに思えてくるのだ。

しかし、目の前のナナは無邪気に笑っているだけだった。

「こんにちは、ナナ。もう遅いのにまだ起きてるのね」
「うん、あんまり眠くならないから!」
「寝なくても平気なの?」
「実体化してなければ大丈夫なの。特にそういう欲求はないんだよ」

ナナはゴーストの状態であれば睡眠も食事もいらないようだ。
ただ実体化しているときはそれらの欲求が出るらしい、しかしその欲求が出たときにゴーストになるとそれも不思議と消える。
かなり都合よくできているらしい。

ナナは本当に眠くないのだろう、本を読んでいる。
その内容は明らかに禁書のレベルだ。

「ナナ、杖はないの?」
「ないよーちょっとほしいかなって思うんだけど、別に使うこともないし…」
「でも、これだけ本を読んでいるんだから魔法使ってみたいんじゃない?」

ナナは困ったように笑った。
それは使ってみたいだろう、本を読むだけではなくて実技や実験をしたいと思う。
とはいえ、ランはヴォルデモートに魔力を分けてもらい存在している。
これ以上ヴォルデモートに負担になるようなことをしたくはないとナナは思っている。
こうして存在できているだけでも、ヴォルデモートに感謝すべきなのだから。

「じゃあ、私の杖使ってみる?」
「え…?」

アイリーンは微笑み、ローブから杖を出す。
ナナは戸惑ったようにそれを見る。
今までたくさんの呪文を見たが、実際にやったことはない。
ヴォルデモートは魔法を良く使うが、無音魔法であるため発音などは何も分からない。

「ん、でもいいよ。やっぱ合う合わないがあるでしょ?」
「いいの…?これくらいやってもいいと思うんだけどな…」
「うん、いいの。魔法はね、ヴォルデモートにやってもらうよ」
「そう…」

ナナは穏やかにそういう。
この子はヴォルデモートに完全に依存しているのだ、学生時代リドルに思いを寄せていた女子生徒たちのように。
でも、違うのは完全にリドルからの見返りがあるということ。
ナナはヴォルデモートにとって大切な存在になっている。
彼女が彼とどれくらい一緒にいたのかは分からないが、少なくとも私よりは大切な存在になっているといえよう。

ヴォルデモートは気づいているのだろうか、彼女を自分がどれだけ大切にしているのか。
ランは気づいているのだろうか、ヴォルデモートが外ではあんなにも残忍なことをしているということ。
自分が大切にされているということが、どれだけ異常なことか。

アイリーンはそれをナナに伝えたくて仕方がなかった。
もしこの(彼女にのみ)優しいヴォルデモートが外で人殺しをしていると知ったら、彼女はなんと言うのだろう。
傷つくのだろうか、それでもなお彼を信頼し続けるだろうか、彼の力にならないようにとするのだろうか。
アイリーンはヴォルデモートの行動をあまりいいものとは思っていない。

もともと純血主義ではないし、さすがにやりすぎであるとアイリーンは思っていた。
嫌いなものからは避ければいいし、見ないようにすればいい。
彼は嫌いなものを意識しすぎて、見すぎて余計に嫌いになる。
そうして許せなくなって消そうとする。
見えすぎてしまうのが彼の欠点であるといえる。
本当なら見えているのはいいことなのに、見えすぎてしまうから良くない。

ナナはどこまで見えているのだろう。
彼をどこまで見ているのだろう。

「ねえ、ナナ?」
「なに?」
「ヴォルデモートが何をやってるか、知ってる?」

アイリーンはまっすぐナナを見据えた。
ランは読んでいた本からふっと顔を上げる。
その表情は微笑を湛えていた。
しかしその瞳はどこか冷めていてでも、静かな湖の畔に立たされたような静かな目だった。

今まで無邪気な姿しか見ていなかったアイリーンは、やはり聞いてはいけないことだったのだと改めて自覚する。
目の前の小さな少女は少女とは思えない静かな様子で言った。

「知ってるよ。みんなが死のにおい漂わせて帰ってくるんだもん。きっとみんなも気づいてるよ、私が気づいてるって。でも、みんな私には言わないの。だから私も知ってるっていわないよ。きっと知られたくないんでしょう?だったら、私は知らない振りをする。それでいいと思うの」

ふっとナナは笑ってそういう。
「死のにおい」…きっとナナは死んでいるから、わかるのだろう。
きっとあの3人から血のにおいはしない。
呪文で血も流さずに殺しをしているのだから。

それでもナナはヴォルデモートたちを信じた。
信じて、ナナはついていっているのだ。

「そう、なの」
「アイリーンは私がヴォルデモートをとめられると思ったのかもしれないけど、いまさら遅いよ。もう、ヴォルデモートは死に染まってる。もし私が生きていて、リドルって呼ばれていた時代に一緒にいることができて、彼が今みたいに私に接してくれていたなら、変わっていたかもしれないけれど」

ナナは今までと違う大人っぽい表情で微笑む。
ほとんどをナナは知っていた、ヴォルデモートがリドルという学生だったこと、その時代から孤独で闇に魅入られていたということ。
どこで知ったのかは分からないが、知っているようだった。

もうアイリーンは何もいえなかった。
リドル以上にナナは猫かぶりだったようだ。
あの無邪気な姿は偽者だったのか、それともそれもナナの一部なのか。
それすらもアイリーンには分からなくなっていた。

「こうなるから、聞かなかったんだ。馬鹿だな、アイリーン。知らなくてもいいこともあったのに」
「ヴォルデモート!おかえりなさい!」
「ああ」

ばっと後ろを振り向いた。
ナナはいつもどおり、いつの間にか扉の陰に隠れていたようだ。
すでにヴォルデモートの胸元に飛び込んでいた。

一瞬リドルに後ろに立たれたような気分を味わった。
その声がどこから聞こえたのかアイリーンは分からなかった。
ヴォルデモートは扉付近にまだいるが、珍しくその口元は笑みを湛えていた。
いつもはナナを迎えるときも無表情なのに。
ナナはそれに気づいているだろうが、お得意の知らない振りだろう。
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