MANKAIカンパニーが発足してからおおよそ2年。
正しく言えば、発足してから2回目の冬だ。
紬と監督が出会ったのは、丁度1年前になる。
今年になってようやく気付いたが、紬は冬になると若干不安定になるようだった。
「何か理由があるんですか、丞さん」
「俺に聞くのか、本人じゃなくて」
昼頃、いつも通り中庭の植物に水遣りをしていた紬に声を掛けた。
その時の話がどうにも引っかかったのだ。
苦手だと言った花言葉を聞いて、はっとして立ち上がったが、その時には彼は監督に背を向けてしまっていた。
ただ、恐らく泣きそうな顔をしていたに違いない。
それくらいに悲壮な声音だったのだ。
お互いに幼少期のニックネームがあるくらいに付き合いの長い丞なら、何か知っているに違いない。
そう思って、いづみは丞に聞いてみた。
「…まあ、事情はあるし、知ってる。だが、どうにかできるのは本人だけだ」
彼女の考えは当たっている。
紬の大抵の事情は丞に筒抜けであるし、その逆も然り。
ただし、事情を知っていてもどうにもできない部分がある。
今回の件は間違いなくそれで、その上、解決が最も難しいとみられる一件であった。
紬と千冬の関係は、あまりに繊細で手出しができない。
その上、お互いがお互いに思い合っていることに違いはないのに、お互いに手を伸ばせない。
3年程、2人はそんな日々を過ごしてる。
「詳しく聞かせてくれない?」
「必要な時が来たら話すが、そうでない限りはそっとしておいてくれ」
「…そう、分かった」
3年程、丞はもどかしい思いをしている。
簡単なことだ、紬が彼女に会いに行って、話せばきっとわかってくれる。
だが、紬にはその勇気がない。
そして、千冬も紬に触れる勇気がない。
臆病な2人のこれからは、丞にはどうすることもできない。