2.十人十色の恋
恋はどこから始まるかわからない。
どこかの物語の一節のようだが、事実は小説よりも奇なり。
見えないことが取り柄の男子と、どこに出もいそうだけどよく見ると可愛い女子。
クラスメイトの2人はなぜか気が合って、付き合うようになった。
よくある話、少女漫画にはないかもしれないが、恋愛小説にはありそうだ。

「輪島さんって意外と面白いって言ってたよ、先輩」
「見た目の割に?」
「たぶんね」

暗い夜道を自転車を引いて歩く。
ちなみに、この自転車は美鶴のものだったりする。
普段は黒子が引いているが、彼は罰とでも言わんばかりに黄瀬に自転車を押し付けた。
ただそのお陰で、普段自転車のハンドルを握っている黒子の手は美鶴の手を握ることができ、彼の起源は治った。
単純なものだ。

黄瀬は頭一つ分くらい低い位置で繰り広げられているカップルの会話に耳を傾けていた。
色気もきらきらした感じもないが、仲はよさそうだ。

「2人ってあんまり恋人っぽくないっすよね」
「悪かったですね、友達っぽくて」

普通、想像するカップルとはちょっと違う。
手を繋いでいても、2人は本当に仲のいい友達…というか姉弟にすら見える。
拗ねる黒子を笑い飛ばす美鶴の姿なんて、本当にそれだ。

「んー、私があんまりべたべたする方じゃないから?」
「確かに」
「べたべたしたくないんすか?」

質問自体は美鶴に向けたつもりだが、黒子の方が大きく反応した。
俺の方を見ていた彼はふいと顔を逸らした、答えたくないと言う意思表示だ。
代わりに美鶴が黄瀬のほうに顔を向けた。

夜の街灯に照らされた彼女の掴み所のない笑みは、どうにも淡泊だ。
苦手でも嫌いでもない、寧ろ好きだが、あまり深入りはできなさそうだなあとは思う。

「うん、したいかな」
「「えっ」」

意外だ。
美鶴が誰かに触れたいと言うのもそうだが、黒子が驚いた様子なのにも驚いた。
そこのところ自信持たずにいたのかということに驚いた。
ただ、美鶴にとっては想定内の反応だったようで、楽しそうにケラケラ笑い飛ばしている。

「だってテツヤ可愛いし!顔真っ赤にしてさ〜、人には見せられないね、可愛すぎて!」
「ちょっと!」
「え、マジっすか」
「嘘ですから…!」

美鶴は小学生の頃やったフォークダンスの要領で黒子とつないだ手の間を出たり入ったりして、くるくると回り出した。
黒子は逃げるように回る美鶴を止めようとするが、うまくいかない。
手を離せばこんな茶番はすぐに終わるけれど、それをしないあたり2人は楽しんでいるのだと思う。

何となくこちらがにやけてしまうようなカップルだ。
2人を見ていると、何というか、誰も見ていないところでこっそりと咲いている花を見つけた時や誰も行こうとしない小さな遊園地が意外と面白いことを知った時のような、特別な気持ちになる。

「あーいいな!俺も美鶴みたいな面白い彼女欲しい!」
「あげませんよ」

何とか回る美鶴を止めた黒子は、ムッとした顔でこちらを睨んだ。
淡泊に見える黒子だが、意外と嫉妬したり美鶴のことで一喜一憂したりと感情的な部分が多い。
一方の美鶴はまともそうに見えて淡泊…かと思っていたが、先ほどの話でそれもまた違うことに気が付いた。

楽しそうに握った手を大きく振る美鶴と、呆れ顔の中に薄っすらと笑みを浮かべる黒子を見た黄瀬は思った。
こんな恋ならしてみたい、と。
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