1.色恋沙汰
人の色恋沙汰に煩いのは、中学男児も高校男児も変わりない。
前にもあったなあ、こんなこと、と過去の記憶を遡ってみたものの、すぐに現実に戻された。
目の前でコーラの入ったストロー付きの紙コップをゆらゆら揺らす日向先輩は、眼鏡の奥の黒目を光らせて問う。

「…で、黒子、お前、輪島さんと付き合ってんの?」

いちいち句読点が見えるかのような口ぶりに、辟易とする。
先輩の手前、それを指摘したり面倒に思う気持ちを前面に出すことはないが、非常に面倒だ。
虹村さんはこういうことに首を突っ込まないでいてくれたのになあ、なんて、彼の栄光はこんなところでも感じることができる。

一方の日向と小金井はどうだ。
美味しい餌を目の前にした猫のように目を輝かせて噂話を突いてくる。
噂、と言ってももう殆ど露わになりつつある…口と頭の軽い人のお陰様で。

「ご、ごめんって、黒子っち…!黒子っちのことだから、絶対言ってると思ったんすよ!」
「君はいい加減に思い込みで行動するのをやめた方がいいと思います」
「うええ、黒子っち、輪島さんのこととなると怖いんすけど…」

フットワークと頭と口が軽すぎる黄瀬くんがふらっと誠凛にやってきたのは、丁度部活が終わるころだった。
何の用があって来たのかは定かでないが、もう部活も終わるから一緒に帰るかと聞いたところ、輪島さんはいいのかと言ったのである。

その時点で輪島さんの名前を聞いた一部の部員が騒めき立っていたので、適当に話を逸らそうと、今日はバイトだと伝えたところ、爆弾を落とされた。

恋人と一緒に帰らないなんてなっていないと。

「まあまあ、テツヤ。こういうのはパンチラみたいなもんだよ。チラチラ見えてるから気になって捲りたくなるってもんだから。モロパンなら誰も気にしないって」
「…美鶴は何の話をしてるんですか?」

その後、何だかんだと話が進み、結局美鶴のバイト先で真意を明確にしようと言う話になり、今に至る。
定時で上がった美鶴は黄瀬くんの失態を知ってなお、マイペースに笑うばかりだ。
ポテトを咥えながら気だるげによくわからないたとえを言い出したので、流石に突っ込んだ。

神妙な面持ちでうんうんと頷く黄瀬くんに肘鉄を食らわせながらも、美鶴の様子を観察した。
ケチャップとマスタード、バーベキューソースの3つのカップの蓋を開けて、どれにポテトを突っ込むのか迷っているらしい。
行き場を失ったポテトがゆらゆらしているだけで、美鶴の表情はいつも通りだ。
本当にあまり気にしていないらしい。

まあ、昔からこういった時に必死に隠すようなタイプではなかったから、当然と言えばそうなのかもしれない。

「別にそんなに必死に隠すものでもないじゃん。減るものでもないし」
「下着でその考えはやめて欲しいですけど…まあ、それもそうか」

確かに減るものではない。
ただ、何となく美鶴の存在を誰かに知られることは嫌だった。
結局のところ、僕の独占欲が強いと言うだけのことなのだ。
飄々としている美鶴が恨めしいくらいだった。

「むしろなんでそう隠したがるんだよ、黒子は」
「僕は平穏に過ごしたいので」

ただもちろん、そんな暗いところは隠しておく。
彼女がいると言うだけでこんな大事になるのだから、この理由はおかしくないはずだ。

美鶴も、それはそうかも、と呟いた。
中学時代、赤司くんに散々付き纏われたのを覚えているからだと思う。
あれは相当に面倒そうだった。
事情を知る黄瀬くんも苦笑いするくらいだから。

「中学の時から付き合ってるのか」
「あ、いえ。卒業した後からです。中学時代はただの友達でしたよ」

中学時代は本当に仲のいい友人だった。
今考えてみれば、両片思いだったようだけれど。

恋人関係の今も楽しいけれど、友人時代もとても楽しかった。
いつも美鶴は僕の手を引いて前を歩くような人だった。
今は何とか、僕が美鶴の手を引けるようにと努力しているけど、なかなかうまくいかない。

「2人が仲良くしてるの、あんまり見た事なかったっすけどね」
「そりゃ、クラスが違ったし。私、バスケ部に興味関心ゼロだったし」
「何だそれ。どこで出会ったんだよ…」

俺も今気づいた!という顔の黄瀬くんを無視して、僕は最悪の質問をしてくれた日向先輩を睨んだ。
美鶴と僕の馴初めは、面白くないとてもありきたりなものだ。
だけれど、そう言う話を面白おかしくする人がここには集まっている。

「夏休みにエアコン借りに行ったのが始まりだよね、多分…あ、その前に夕日に向かって走ったっけ」

例えば、僕の恋人とか。
prev next bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -