7.夢は褪めない
フガクが帰ってくる前に、とミシロは食事を終えると早々に席を立った。
ミコトがミシロにアイスが数個入った袋を満遍な笑みで手渡すのを、サスケは肩を震わせて見ていた。
ミシロはサスケの様子になど気付かず、礼を言いに来たのにとしきりに遠慮していたが、強く勧めるミコトの前に折れた。

「今日はご馳走様でした。また来年、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、息子2人をよろしくね」
「俺、ミシロさん送ってくるよ」
「はいはい。いってらっしゃい」

玄関口でミコトとサスケに見送られ、ミシロはうちはの家を出た。
別に1人で良かったのだが、いくら断ってもイタチは送ると言って聞かないのはよくわかっていたので、諦めて2人で歩き出した。

今年一年あったことを話しながら歩いていると、家まではあっという間だった。
アパートの部屋の前で、ミシロはイタチに向き直った。
家に上げてしまえば、イタチは帰らないだろうし、ミシロも名残惜しく思ってしまう。

「今年は本当にお世話になりました」
「さっきも言ったけど、もうお世話してないわよ」
「いえ?毎年毎年、ミシロさんにはお世話になってます。お世話もしてますけど」
「お世話の方が多いわよ。…今年も、一緒にいてくれてありがとう」

ふいと目を逸らしたミシロがいじらしく、イタチはつい彼女に手を伸ばした。
今日は先までいけないことを知っていて、それでも手を伸ばさざるを得なかった。
ちょっと、と咎めるような口ぶりのミシロを無視してぎゅっと抱きしめる。

少しの抵抗だけで、ミシロはあっさりとイタチの腕の中に納まった。
歩いていた時に冷えた身体が、徐々に温められていく。
イタチに触れている部分もそうだったけれど、頬や耳が熱を帯びるのをミシロは感じていた。

「感謝したいのはこっちです。今年も、俺と一緒にいてくれて、ありがとう。来年も、一緒にいていいですか」
「…ダメって言ってもどうせ一緒にいる癖に」
「まあ、それはそうだけど」

ミシロのいつもよりもずっと素直な様子に、イタチは驚いたが、すぐに笑った。
おずおずと背に回された腕がいじらしい。
照れ隠しの言葉も、真っ赤に染まった顔を隠すように胸に額を付ける姿も、すべてが愛おしい。
このまま部屋に入ってしまいたい思いを抑えるのが、本当に難しいくらいだ。

「来年も、愛してる、から」
「…ミシロってほんと、時々狡いな…」
「うるさい…」

不意に顔を上げたので何かと思えば、そんなことを言い出すのだから、どうしたってミシロのことを好きになる。
滅多に直接的なことをいうことがないミシロだからこそ、この言葉の重みと甘さは格別だ。
ミシロの唇にキスをして、強く抱きしめるとミシロも腕の力を強めた。
どうやら今日は随分と甘えてくれるらしい。

「愛してます、今年も、来年も」
「…はいはい…」

名残惜しいが、そろそろ12時だ。
まるでシンデレラだな、と苦笑いしながらイタチはミシロから身体を離した。
ひんやりとした空気が胸に流れるのが辛い。

最後に繋いでいた手が解かれる。
次に会うのは来年だ。
ミシロはまだ赤い顔のまま、じゃあね、と手を振った。

「あ、あと。さっきの子どもの件、俺は本気ですから来年、覚悟しといてください」
「え」

したり顔のイタチが走って居なくなるのを見届けたミシロは、冷たい欄干に額を押し付けた。
遠くで、花火の音や人々の歓声が聞こえる。
来年は、もう今年になったようだった。
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