3.温い夢
兄が帰ってこないのはよくあることだ。
イタチの元教師、サスケにとっては元仲間のミシロのもとに入り浸っていることは、家族内でも周知の事実になっている。
2人は曖昧な関係を長らく続けていて、両親も放置気味である。
一体2人がどういう考えで半同棲をしていて、どんな生活をしているのかは、殆ど誰も知らない。

だからこそイタチが3,4歳の子どもを連れて帰ってきた時に母が騒ぐのも分かる。

「本当にびっくりしたわ…」
「いや…流石に突拍子なさすだと思うの、俺だけか?」
「突拍子ないのは、ミシロだろ。なんでこうなったんだよ」

昼前にひょっこり帰ってきたイタチは、4歳の女の子を連れていた。
あまりにミシロにそっくりなその子を見たミコトは、盛大に勘違いし、イタチに順序を守れと激怒したのである。
イタチが説明をする間もなく始まった説教は大よそ1時間ほどかかり、その間、その子はサスケに預けられた。
見れば見るほどミシロにそっくりで、イタチの要素がゼロな少女にサスケは首を傾げていたが、ミコトの説教の合間に何とか事情を説明したため、ようやく事態が判明した。

大人しく正座をしているミシロはワイワイ騒いでいる大人3人など見えていないかのように、壁の時計の秒針を見続けていた。

「俺も詳しくは知らないが、かなり厄介な術にかかったらしい」
「…嬉しそうにするなよ」

機嫌よさそうに答えるイタチに、呆れたサスケはもう突っ込むまいと思った。
ミシロの隣に座ると、彼女はちらとサスケを見た。
ビー玉のように丸く、瑞々しい目をしている。
子どもの目だ、好奇心のある子どもの目。

「流石に俺だけで面倒を見るのは問題があるかと思ったんだ。折角だし、人が多いところに居た方がいいかと」
「まあ、それは確かね。イタチ、あなた明日から仕事でしょ」
「誰か代わって欲しい」
「人様の前でそれを言わないで頂戴ね」

下らないやり取りをしている兄と母を尻目に、サスケはミシロを見ていた。
ミシロもサスケを見ていたが、時折気になるのか言い合いをしている2人の様子も伺い見ていた。
2人はそれに気づいていないようだが。
その後、台所の方や壁掛け時計、ローチェスト等を見て回っている。
ウロウロしていたミシロの視線は最終的に、炬燵に向けられた
炬燵の上には蜜柑の入った籠や急須、湯呑が適当に置かれているだけだ。
そこでサスケは、そういえばミシロは一般的な家庭で育ってこなかったことを思い出した。
戦時に生まれ育ち、早いうちから親を亡くして子どもだけで過ごしていたというくらい過去だ。

正座をしているミシロは炬燵に入っていない。


「サスケ、炬燵に入れてやって。寒いでしょ」
「…どうやって?」

銅像のように動かないミシロを見て、サスケは眉を顰めた。
生来の末っ子たるサスケにとって、誰かの世話を焼く行為は慣れないことだ。
周囲で誰かが話していても全くそれに興味を示さない、孤立した子供の面倒などもってのほか。
何より、まるで連れてこられた子猫の如く警戒心を露わにしているミシロに触れるのですら憚られる。
引っ掻きこそしないだろうが、どんな顔をされるかわからない。
何を恐れているのか、ただの4歳の女の子だと思っていてもどうにも億劫だった。

その様子を意地悪く見守っていたイタチが、ミシロの脇に腕を入れてびょん、と凝り固まった彼女を伸ばした。
まるで猫のようだ。

「ミシロ、寒いだろ。足を中に入れて」
「…何で?」
「入れてみたらわかるさ。取って食われるようなことはないから」

されるがままに伸ばされたミシロはちらとイタチを見上げた。
本気で炬燵が何なのか分かっていないらしい。
サスケが炬燵布団を捲ると温かな空気が流れる、中に数匹猫がいるのはいつものことだ。

ミシロはオレンジ色の光が灯っている机をしばらく眺めていたが、猫たちが早くしろと文句を言い出したので仕方なさそうに足を入れた。
そうして、目が丸く見開かれる。

ミシロがその後、そこから離れなかったのは言うまでもない。
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