生まれ育った土地は寒く、雪深かった。
夏場に必死に作物を育て、秋に収穫し、冬は家から出ない。
春になると、家から出てこない者もあった。
それくらい寒く、厳しい土地だった。
眠るときに温かいなんてことはない。
誰かと共に寝ていても、身体のどこかしらかが寒くて目が覚める。
だからこそ、ミシロは目が覚めた時にまだ幸せな夢が続いているのだとすぐにわかった。
目が覚める時に、温かいなんてことは現実にはあり得ない。
「ミシロ…?…随分早起きだな…、このころからすでにか…」
狭い空間に居るのは理解していたが、どうやら男と一緒に寝ていたらしい。
否、最初は1人だったのだから、勝手に布団に入ってきたのは男の方だ。
少しだけ身じろぎをした程度なのに、男は目を覚ましたらしい。
ただ、起きる気配はない。
ミシロはどうしたものかと、動きを止めた。
現状、痛いところもなければきついところも、寒いところもない。
つまり、文句を言いたいようなことはないのだ。
眠たそうな声で話しかけてくる男に付き合って、身体を横にしていても問題はない。
「ミシロ?」
「…ああ…そういえば、アスマさんが付けたっていってたか…」
「わたしのこと?」
気になる言葉があったから問いかけると、男は唸るように答えた。
答えになってはいなかったが、理解はできた。
人に付ける固有名詞、名前だ。
現状、少女には名前があった。
「ああ、そうだ…今の名前はあるのか?」
「…ミシロでいい」
ただしもう呼ぶ人はいないし、夢の中の人にそれを教える必要はない。
既に別の名前で呼ばれていて、その方が呼ぶ側が慣れているのであれば、そちらでいい。
自分が覚えさえすれば、名前として機能するのだから。
やはり、もう起きよう。
幸せな夢は続いているようだけれど、