A shy and clever girl.
地味な黒髪は、ざっくばらんに三つ編みにされている。
寮が多いせいか、二つに分けて括っているにもかかわらず、一本が非常に太い。
そんな形のパンがあったような気がする。

リドルはオリオンの前で項垂れるレイブンクロー生を、そう評価した。

「…本当にごめんなさい」
「いえ。君が飲むものを、間違えて飲んだのは僕だから」

ユーリアの解毒剤を飲んだオリオンは、すぐに正気に戻った。
その後、リドルに膝をついて謝ってきたのだ。
記憶がなければいいと多少なりとも考えていたリドルの期待は裏切られた。

オリオンは全てを覚えていて、彼が満足するまで誤った後、レイブンクロー生のことを話しだした。
彼女は、ブラック家と多少なりともつながりのある家の娘であったらしい。
ユーリアの性格もよく知っているようで、気にしているだろうからと、わざわざ彼女と直接話す機会を作った。
誰に見られても面倒なので、レイブンクロー寮付近の空き教室を閉め切って、3人の対談は執り行われていた。

「彼女、学者を多く輩出する家の一人娘なんですよ。父は彼女のおじい様が書かかれた論文が好きで。僕も何度か会いに行ったことがあります」
「ああ…おじい様は闇に対する防衛術の開発に携わることもありましたから…でも…」

オリオン曰く、ユーリアは小さい純血家の娘であるとのことだ。
学者と言うが、家系の中で1つの学問を突き詰めるタイプではなく、各々が好きなものを突き詰めるタイプのパターンで、かなり特殊な家だった。

確かに、ユーリアの祖父は著名な魔術書を書いたことで有名である。
ユーリアにとって祖父はとても尊敬できる人だった。
よく彼の元に行っては、本を読んだり、物を教えてもらったりしたものだ。

「でも?」
「…彼女の母親は占い学を、父親はクィデッチに関するルールを研究し、両方ともその面ではかなりの有名人です」
「ああ、その両親に会う意味はないな」
「はは…。ほ、ほんと、つまらないことばっかりで…変わり者ばっかりな家なんです…」

ユーリアは力なく笑った。
そう、ユーリアの両親はどうにもあまり学問らしくない部分の研究をしている。
一部の人には非常に好まれるが、一般的ではない。
世間から見ると、祖父が功名で会ったが故に、両親の変わり者具合が酷く見えるのだ。
変わり者の両親の元で育ったユーリアは、他の学者から後ろ指をさされたり、笑われたりすることがあった。

だから、リドルのような反応をされることには、よく慣れていた。
だが、慣れているからと言って、気にしていないわけではない。
大人であり、尚且つ自分の研究に誇りを持って取り組んでいる両親は他人の評価を気にしなかったが、幼いユーリアがその影響を多大に受け、臆病で自己評価の低い子に育った。

「君は何を研究しているの」
「え?ああ…私は常備薬全般を研究しています。普段よく使う風邪薬や傷薬の効力を強めるだとか、作り方を簡略化して大量生産を望めないかとか、家にあるような材料で作ることができるようにならないかとか、子どもが嫌いな味の薬の改造だとか…まあ、色々です」
「へえ。実用的だ」

両親を反面教師にしているのか、ユーリアは意外にしっかりとした研究をしていることにリドルは純粋に驚いた。
その割に、今回は下らない薬を作ったようだが。

「それで、これどういう薬だったんです?」
「あ、えっと…、それは…」
「“人を好きになる薬”だそうだ。惚れ薬に近い」
「違います!惚れ薬じゃなくて…、そうじゃなくて」

惚れ薬というと、ユーリアはやはり声を荒げる。
ユーリアにとって、この薬は自分を変えるために、自分のために作った薬だ。
それを惚れ薬なんて、人を貶める媚薬のような物言いをされるのは腹が立つ。
確かにまだ不完全な薬品ではあるものの、愛着のある薬なのだ。

大人しく臆病なユーリアが怒る姿を呆れ顔で眺めるリドルの隣で、オリオンだけは神妙な面持ちで頷いていた。
薬を飲んだ彼だけは、ユーリアの本当の狙いを何となく理解していた。

「ああ…分かってる。惚れ薬に近いことは確かだけど、まあ、ちょっと違う。狙いがあるんだろう?」
「そう!そうなんです、ちょっと違うんです」
「僕の考えが正しければ、この薬はそれなりに成功だと思う」

ユーリアはオリオンの言葉に嬉しそうに笑った。
薬を飲んだオリオンなら、きっと自分の気持ちが分かるだろうと、ユーリアも考えていた。
恥ずかしいと思う反面、被験者の声が聴けるのは非常に助かる。

元々、魔法薬学に関心のあるオリオンとユーリアが薬について話している隣で、リドルは手元の本に目を落としていた。
ここに来る前、オリオンに手渡された彼女の祖父の論文だ。
確かに彼女の祖父は優秀な魔法使いだったようで、魔法薬のみならず、魔法作成にも力を入れていたらしい。
論文には現存する魔法になっているものもあった。

「オリオンくん、ありがとう。私、もう少し改良してみる!」
「ああ。頑張って」

この後授業があるらしいユーリアは、最初のようなおどおどした様子もなく、笑顔で去っていった。
オリオンと話している間に、随分と心を開いたらしい。
やればできるじゃないか、と呆れるリドルを尻目に、オリオンは彼女が見えなくなるまで手を振っていた。

リドルはオリオンの姿を見て、ふと思った。

「オリオン、ユーリアの狙いって何だったんだ?」
「ユーリアの名誉のためにも、黙っているべきかと思っているんですけど…知りたいですか?」
「ただの好奇心だ。どちらでもいい」

ただの好奇心、本当にそれだけである。
分からないならそれはそれでいい。

彼女が“人を好きになる薬”を作った狙いは、ただ単に自分の対人恐怖症に近いあがり症を治すためだとリドルは考えていた。
ただ、オリオンの口振りは、その考えを否定していた。
もしそれだけのためのものであれば、これを“成功”とは言わないはずだ。
あがり症を治すにしては、相手への関心が強すぎる。

オリオンはクスクス笑いながら、軽く首を傾げた。
とてもかわいい理由ですよ、と優しく微笑む。

「たぶん、ユーリアは誰かに告白しようとしているんですよ。でも、恥ずかしがり屋で声もかけられないから、あんな薬を作ったのでしょう」

なんて馬鹿馬鹿しい!
リドルは呑気に笑っているオリオンの気持ちも、そんなことのために怪しい薬を作っているユーリアの気持ちもさっぱり理解できなかった。
こんな面倒な薬を作るより、自分の性格を変える方がよっぽど楽だろうに!

お陰様で、大変な迷惑を被ったのだ。
とんでもないトラブルメーカーである。

「馬鹿馬鹿しい」
「ええ、貴方はそう思うでしょう。ですが、ユーリアは策士ですよ」

リドルは気づいていない。
あの薬がオリオンに対してああもよく効いたのは、奇しくも彼が飲むべき人間と同じ感情を多少なりとも抱いていたからである。

薬を飲んでいるとき、オリオンはリドルと話すのであればどんな話題がいいのか、そしてそれがいかにリドルを喜ばせるのか、そんなことばかり頭に浮かんだ。
そして、その考えはきっと間違っていないと、オリオンは思ったのだ。
確かにリドルなら、喜びそうな話題だった。
…例えば、レーゲン・モトレイの防衛術の論理だとか、作り方だとか、だ。

「彼女、なんでスリザリンに来なかったんでしょう?」
「あんなトラブルメーカーに来られても困る」

オリオンは、そのトラブルメーカーがリドルの傍で更なるトラブルを生み出すのは、時間の問題だろうな、と思ったが心に留めておくことにした。
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