サラームの日常
俗に芸術家は働きたがらない。
とはいえ、芸術家だけは食っていけない場合が多いので、仕事をするのだ。
しかし、芸術家の副業は長く続かない。
芸術に傾倒しすぎるとそれ以外何も手がつかなくなったり、集中力と遮るものを徹底排除しようとしたりするからである。

芸術家の街、サラームではその行動が顕著である。
会社員の多くの人が芸術家であるサラームでは、芸術面を優先するような就業規則を作る会社もあるくらいだ。
しかしそれでも、暴動が起こる。

「何の騒ぎだ、これは…」
「ストライキよ。バスは無理みたいだから歩くしかないね」

エリーゼの休みを利用して、クロロと共に街に出ていた。
本を書いたいというクロロを古本屋に連れて行こうと、アーデルの前のバス停でバスを待っていたのだが全く来ない。
その時点でクロロはだいぶ苛ついていたのだが、エリーゼは慣れたように1つ前のバス停まで歩いた。
そのバス停でもやはり待っている人がいて、お互いに顔を見合わせて苦笑いした。
ストライキはサラームでは日常茶飯事である、週に1度はどこかしらやっている。

別にバスに乗らなくても辿り着かない場所ではないからと、エリーゼは歩き出した。
歩いて2つほどバス停を過ぎたあたりで、悲惨なバスを見た。
道路に面したアパートではトランぺッターが面白おかしくトランペットを吹き鳴らし、絵描きたちが奇声を上げながらバスにペンキをぶちまけている。
どうやら随分とストレスが溜まっていたらしい。

「これが普通なのか」
「そうよ。ちなみにアーデルですらストライキあるからね。特にサヴァがストライキしちゃうんだけど」
「店長がそれか…」

呆れ顔のクロロがペンキに塗れたバスを見た。
バスには黄色や赤で太陽が描かれ、その下には草原と動物が描かれている。
こういうバスの柄も悪くはなさそうだが、道路の煉瓦はペンキ塗れだ。

ちなみにアーデルのストライキは主にサヴァが行う。
サヴァとティティヴァール、それからルカの3人がストライキの中心になる。
自分の時間が欲しいと言うだけの理由であるから、当分休みにしてしまえば丸く収まるのだから可愛いものだ。
ちなみに今までで最も面倒だったストライキは配電会社のものであり、その間は町中停電になる徹底ぶりであった。

閑話休題、ともあれ、バス会社がストライキした程度では驚くことでも何でもない。

「ま、そのうち直るよ。今日は歩こう」
「マイペースだな」
「そういう街だからね。こういうのがダメな人は、引っ越すだけ」
「まあ、面白いと言えば面白いな」

呆れ顔だが、クロロは気にするのをやめたらしい。
順応性はエリーゼもクロロも高い方だ。
2人は所々ペンキが飛び散った煉瓦道を歩いた。

通りで大道芸をやっている道化師を嫌そうに見ながら、パン屋のいい香りに誘われながら、2人は古本屋に向かった。
坂道を下り終え、大通りを突っ切ったさきの公園の脇の道に古本屋はある。
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