3.子ども好き
本当に普通の人に見えるのに、見えない部分は非常に強かだ。
ハリーは目の前で言葉のない夫婦喧嘩をしているのか、睨んでいるリドルと飄々とした笑顔で紅茶を飲む咲子を見ながら苦笑いをした。
冷静沈着で愛想などありやしないリドルの子どもっぽい一面が見られるのは、咲子の傍だけだ。

良い夫婦だな、とハリーは微笑ましく思った。
微笑ましく思えるほど年が近いわけでもないのに。

「ああそうだ、今度ロンの家でホームパーティーをするんですよ。よかったらぜひいらしてください」
「え、いいの?」
「はい。今日ご招待いただいたお礼に」

ハリーもそうだが、魔法省の中でリドルの存在は特殊だ。
誰よりも優秀で、魔法大臣ですら彼に助言を求め、リドルを敵に回したら魔法省にいられなくなるとまで噂されている。
彼は大抵1人で黙々と仕事をし、仕事以外の会話はほとんどしない。
あのマルフォイやブラックですら、この家に足を踏み入れたことはないと言う。

プライベートに関してリドルは人々と一線を引いて仕事していると言いていい。
彼に何か用事があっても怖がって他の人間に頼む人が出るくらいに、リドルは遠い存在だった。
それは、ハリー以外の…ロンやハーマイオニーもそうだった。

「リドル、」
「僕も行くことになるけれど、いいね?」
「どうぞ。簡単なホームパーティーですが」

咲子は伺うようにリドルを見た。
彼は面倒くさそうにハリーに目線を送ったが、彼はそんなことでは引かない。

トム・リドルと言う人間の過去を、ハリーは様々に調べた。
彼は自分が一番だと思い、優秀な人間以外は寄せ付けず、それでいながら誰からも愛される自分を作り上げた。
非常に排他的な人間関係を築く彼の本性を誰も知らなかった。
凶悪な闇の魔法使いになっている…というもの、彼の本性ではなかった。

本当の彼は、ただの母親思いの愛妻家であるにすぎなかった。
すべては誤解で、そしてリドルはその誤解を解くつもりがない。
それで人が寄ってこないなら、その方が楽だと思っているに違いなかった。

「ありがとう、ハリー。とても楽しみ!」
「ええ、僕もです。ロンやハーマイオニーたちにも伝えておきますね」

ずっと宿敵として考えていた彼を少し困らせてやると同時に、咲子を楽しませてやれるならいいことだとハリーは思っていた。
別にリドルのせいではないにしろ、追う必要がないリドルの影を追い続けていたハリーの鬱憤も解消されると言うものだ。
また、ここでリドルの誤解が晴れれば、いちいち彼との連絡係としてロンやハーマイオニーに使われることもなくなるだろう。

ハリーがぼんやりとそんなことを考えている間に、咲子は子どもの話を始めていた。
ハリーの子どもに会うのが楽しみだと無邪気に笑う咲子に、リドルは苦笑いをしていた。
そこでようやく、リドルもまた咲子との間に子供がいないことを気にしていたことに気が付いた。

「本当に子供好きなんですね」
「そうね。元々、学校の先生をやっていたこともあるから」

一体、いつの話なのかは聞かないようにした。
もしかしたら、それこそ戦前か、前の世界でのことの可能性もある。
藪蛇はごめんだ。

「また子どもを引き取って世話でもするかい」

また、とあえて言ったのは、一種のジョークだろう。
先ほどの意趣返しと言わんばかりに、自虐的な冗談を挟んできたリドルに、ハリーは驚いた。
プライドの高いリドルがそんな言い回しをするとは思いも縁らなかった。

咲子が何と答えるのか、ハリーは楽しみながら待っていた。
彼女はうーん、と少し考えるようなしぐさをした。
もしかしたら、本当にもう1人くらい子どもを育てたいのかもしれない。

「まあ、今も大きな子供がいるからいいかなあ」
「…流石に怒るぞ」
「嘘だってば。というか、現状、大きな子供は私でしょ」

怪訝そうな顔をしたリドルが悪戯っぽく笑う咲子を睨んでいるが、ちっとも怖くなさそうだ。
長く連れ添った2人だからこその空気なのだ。
ハリーはいつか自分たちもこんな夫婦になれたらいいと思った。
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