3.古びた絵画
額縁は、夜子のベッドサイドに置かれた。
真っ白な状態の絵画は一種のインテリアのようだった。
物置の中では、絵画の主の顔を見ることはできなかった。
顔さえ見ることができれば、そこから何か調べることができるかもしれない。

調べることに何か意味があるわけではない。
ただ、夜子の好奇心がその額縁を持ってきたのだ。

同室の女の子が寝静まっても、夜子は大抵眠ることができない。
時計の秒針や寝息、シーツのずれる音、すべてが夜子の目を覚ます原因になった。
早く消音魔法を覚えたいと予てから思っていたが、未だに彼女がそれを覚えることはできていない。

『物好きな娘だ、私をここに持ってきて何がしたい』
「特に意味はないのですが…あえて言うなら、あなたにはあそこよりもふさわしい場所があるんじゃないかと思ったので」

ベッドでぼんやりしていると、不意に枕元から男の声がした。
夜子は起き上がって枕元の額縁を覗きこむ、若い男がそこにいた。

美しい長髪と赤い瞳、床につくくらいに長いローブ。
切れ長の目元は怜悧で、少し怖いくらいだった。
ローブの質だとかデザインだとか、面持ちだとかでその人がそれなりに高い地位の人間であることを察した。

『ほう、私が誰なのか知ってのことだな?』
「いいえ。額縁の名前が消えていたので…あなたのことを私は知らないのです。ですが、何となくそう思ったので」

挑発的な笑みを浮かべて問いかける男に、夜子は首を振った。
夜子はこの人のことを見たことがなかった。
しかしそれは魔法界にいる時間が短い夜子だからこその可能性もある。
もしかしたら、リドルならわかるかもしれない。

一方の絵画は、首を振った夜子に驚いた。
てっきり自分が誰なのかわかった上で連れてきているものだと思い込んでいた。
絵画は額縁を見ることができない。
彼は自分の額縁に書かれている自分の名前が消されていることを知らなかったのだ。

「貴方にふさわしい場所が見つかるまで、私の部屋でもいいですか?」
『…私が何者かもわからないのに置いておくのか』
「持ってきてしまったからには責任を取らねばならないでしょうから」

夜子は彼の名前と彼にふさわしい場所を探すつもりでいた。
絵画は夜子の行動の意図が掴めず混乱していたが、彼女の思考は至ってシンプルだ。
何となく、そこにいるのがふさわしくないと思ったから。
いわば直感のみで夜子は絵画を持ち出した。

直感はいつでも夜子をいい方向に連れて行ってくれる。
夜子もその自覚があって、絵画を持ち出した。

「明日、私の知っている先輩にお会い頂けますか?彼なら物知りですから、貴方が誰かわかるかも」
『好きにしたらいい』
「じゃあ、そうします。今日はもう寝ないと」

幼そうなスリザリン生がもぞもぞとベッドの中に潜り込んでいくのを見ながら、絵画は呆れていた。
目の前のスリザリン生は素晴らしい直感を持っているのに、どうにも間抜けであった。
名前を知りたいのであれば、自らも名乗り、その上で名前を尋ねればいいだけのことだ。

そうされて自分が答えるとも思えないがと、絵画は皮肉に笑う。
月明かりに照らされた美しい絵画は、やがて姿を消した。
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