1.暗闇の物置
真っ暗で狭い物置の中で、夜子は膝を抱えていた。
幸いにも珍しく朝食を摂っていたから、頭は冴えている。
しゃがみ込んでいた夜子は、立ち上がった。

物置は夜子が2,3歩動けば、すぐに反対側の壁に到達してしまう。
真っ暗で辺りが見えない。
両手を前に出しながら歩いて、壁を伝って、ドアノブを探した。
途中、本棚があったり、石畳がむき出しになっていたりしている部分があり、元々この部屋が粗末な造りになっていることが分かった。
確認のためにドアノブを捻ったが、開かない。

目が慣れてくると、少しだけ物置の中が見えるようになった。
ドアの右隣の壁に本棚が1つ、左側の壁の床にトロフィーが2,3個、ドアの反対側の壁には額縁がいくつも折り重なって立てかけられている。
夜子はトロフィーを手に取ってみたり、本棚の中に何かないか探したりした。

何かを探すたびに、埃が舞い上がる。
その埃が喉に張り付いて、夜子は噎せ返った。

「…ぅ、う」
『驚いた。どうしてこんなところに生徒が』

ふいに声が聞こえた。
本棚の左側、額縁がいくつも積みかさねられているところからだ。
夜子は床に膝をついて、額縁を一つ一つどかした。
一番奥にあった額縁に、一枚の絵画が挟まっているらしい。

夜子は最後1つの額縁を見つけると、それを抱えて本棚に凭れさせた。
暗くてよく見えないが、絵の描かれていない画用紙の白い部分だけがぼんやりと浮かび上がる様に見えた。

「はじめまして…絵画さん」
『生徒。君はどこの寮の子だ』
「スリザリン寮の3年生です。夜子と申します」

夜子はスリザリンに3年前に入寮した生徒だ。
大人しく小柄で、東洋の血が混ざった彼女はマグル生まれだった。
純血主義の多いスリザリン寮で彼女は浮きに浮いた。
控えめな性格が祟り、同級生にも下級生にも酷い折檻を受け、今もその一環でこの物置に閉じ込められている。

閉じ込められるもの日常茶飯事であるがゆえに、夜子の行動は落ち着いていた。
どうにかして外に出る方法を考える、それだけだ。

「絵画さん。申し訳ないのですが、外に出られるのであれば助けを呼んで頂けませんか」

絵画は別の額縁に移動することができる。
特に自分が描かれた額縁であれば、大抵どこにでも出向くことができるのだ。
彼に頼めば、外へ助けを求めることができるだろう。

できる限り丁寧に、夜子は絵画に話しかけた。
と言うのもこの絵画はどうにも矜持が高そうな気がしたからだ。
この物置はスリザリン寮近くの地下室の1つで、物置とはいえここにいるということは、スリザリンに所以する人である可能性が非常に高い。

『生徒。貴様は純血か』

夜子はその言葉を聞いた瞬間、この絵画に助けを求めるのを諦めた。
やはり絵画はスリザリンに所以する人が描かれているに違いなかった。
純血か否かという質問をするということは、そう言うことである。

東洋の血を半分引いた夜子は、マグルの孤児院出身であり、純血などではない。
同じ孤児院出身の先輩はそれでもうまくやっていたが、夜子にはそのセンスがなかった。
だからこそ、夜子は絵画からの質問に対して誤魔化すセンスもない。

「いいえ。残念ながら私には下賤な血が流れております」

下賤な血、夜子の母は売女だった。
孤児院の頃からそこの職員にいかに夜子の母が下賤で、孤児院に迷惑を掛けたのかを懇々と話された夜子は、とにかく自己評価が低かった。
そのお陰ともいえるが、このような仕打ちをされても文句の1つも言わない。

高貴な純血の家が多いスリザリンにふさわしくないと夜子は自分でそう考えていた。

絵画は何も言わなくなった。
夜子もまた黙って、絵画の隣に座るばかりだった。
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