hope it ends
名無しさんは走っていた。
兄である双識とはぐれてしまい、その上雨。
見通しも悪く、足元も滑る。

「雨は…どうしよう…、どこか入れればな…」

先ほど、転んでしまって、洋服はぐしゃぐしゃだった。
泣きそうになりつつも、名無しさんは走る。
どうして双識とはぐれてしまったのか、走りつつ考えても、無駄だった。

だが、どちらにしたって双識と名無しさんが一緒にいても名無しさんが足手まといになることは間違いなかった。
ばしゃばしゃと水たまりを避けることも厭わずに走る。
後ろからずっと誰かがついてきているような気がして、怖くて走るしかない。

「げほ、ごほっ」

走りすぎたのか、咽返ってしまう。
ただ、立ち止まったらそこで終わってしまうような気がしてとにかく走り続けた。

「…っ」

唇を噛みしめて、逃げる。
そうでもしないとついついふらついてしまう。
まだ、終わるわけにはいかない。
目標も何も達成していないのだから。

雨に長く打たれていたせいか、身体がだるい。
熱でも出ているかもしれないが、それは仕方ない。
それを気にしてもいられないが…、だが、逃げるばかりでは気が重すぎる。

なので、地下駐車場に逃げ込むことにした。

「…!?曲識?」
「名無しさん…?なんでここに!いいから逃げろ!」

中に入ってみると、丁度エレベーターの前に曲識がいた。
なぜこんな高級ホテルに曲識がいるのかは全く想像もつかない。
だが、仲間に会えたことがとにかく名無しさんは嬉しかった。

「入ってこれたのか?」
「…?え、うん、入れたよ?」
「ぐぁああ!」
「「!?」」

名無しさんの入ってきた地下駐車場の入口から、野太い男の声。
照明の明かりがそれを照らし出していた。
どうも何かの罠に引っ掛かったようだ。
恐らく今まで名無しさんを追いかけていた追手のようだった。

「…罠、だろうな」
「うっわぁ…」

名無しさんも自分がそうなることを考えて身震いした。

「…逃げれないね!」
「僕も追われているんだ…」
「迎え撃つしかないんじゃない?」
「名無しさんは戦えないじゃないか…」

一体曲識はどんな敵に追われているのか。
その様子から見るに、強敵であろうことはわかる。

なんのつもりで、手榴弾なんて手にしているんだ。

「…それ、リルさんからもらったの…?」
「…まだつかわないさ」
「使わないで終われるといいけど…使うときは巻き込んでよ?ちゃんと」

返事はなかった。

曲識がそれを使う意図くらい、名無しさんにもわかる。
犬死、それが一番いい死に際だから。
一般的にはカッコ悪いし、何の役にも立たない犬死だが、零崎にとっては一番それが必要。
もしも敵にでも殺されたら、家賊がその敵を殺しに行ってしまう。
怪我で済めばまだしも、もしも返り打ちにでもなったら嫌なので犬死が大切なのだ。

「何で曲識はここに1人で?」
「ああ…ここのホテルの最上階に、重要な人物が…!?」
「!?、うぇ!?」

少しでも緊張を紛らわせようと、名無しさんが話を変えた。
その話に曲識が乗ったその時、しゃがみ込んでいた2人に手が伸びた。
それも地面から。

名無しさんはゾンビを思い出した。
がしり、と手を掴まれた曲識は何を思ったのだろうか。

「あー…うっかり24時間も死んじまってた」
「…曲識、生きてる人、いたんだ」
「…間違いなく死んでたはずだが…」
「え、うそ。バイオハザード見すぎたのかな…」
「僕は見てない」
「じゃあ、私の幻覚が曲識にも…」
「んなわけねーだろ」

パニックになって意味のわからないことを話す名無しさんに、それに乗っている曲識。
そして、冷静に突っ込む赤い髪の少女。

そう、少女なのだ。
名無しさんと曲識と、そんなに年齢は変わらないように見える。
どこか大人びた顔立ちではあるが。

「つーか、お前ら、誰だよ」
「僕は…零崎曲識だ」
「え、あ、はい、名無しさん、と言います」

起伏の少ない曲識があっさり答えたので、名無しさんもそのまま答える。
名無しさんに限っては敬語で。
雰囲気というか、感じが、自分よりも上であると、名無しさんがそう思ったからだった。

「お、お前こそ誰だ?」
「あー、あたしか?名前はまだないんだよ」

名前がない、というのも不思議だったが。
死んでいるはずの人間が起きるというのも不思議だったが。
なによりも、この状況で、この3人が顔合わせしている事実が一番不可思議だった。

ふと隣の曲識に緊張が走る。
声が前から聞こえてきた。

「お迎えに上がりました、ご主人さま」
「…なに、これ?」
「甘く見るなよ、名無しさん。下がってろ」

曲識はやたら緊張しているが、名無しさんには意味が分からなかった。
目の前にいるのは、小柄な名無しさんよりもさらに小さいぱっつん髪の女の子。
その服は普通のものとは違い所謂、メイド服。
喋り方もメイドそのもの。

親の顔が若干見てみたいが、最近はそういう仕事も一般的にある…のだろうか。

「逝ってらっしゃいませ、ご主人さま」
「!?」

メイドさんは臨戦態勢に入った曲識と赤い少女に向かって、掌を向けた。
なぜか、そこから、キャノンが出た。

別に比喩表現とかそんなものではない。
本格的に、掌から何かが発射されたことは確かだ。
薄暗いので詳しくは見えかったが、曲識に引きずられながら見たそれは間違いなく掌から出されていた。
コンクリートをえぐるくらいの威力に冷や汗をかいた。

「え、なに、あれ…」
「メイドロボだろうな、悪趣味だ」
「そういうのって映画だけじゃないの?手からビームとか…え、もしかして目かも出るの?ビーム」
「ちょっとお前は黙っていろ」
「あたしが戦った時は目からビームは出なかったぜ?」

名無しさんの空気の読まないセリフに明らかにいらっとした曲識。
名無しさんの台詞に空気を読まずに返答する赤さん(赤い感じの少女の略称だ。分かりやすい!)
なんというか余裕の表れなのかな、と戦闘能力零の名無しさんはのんきに考えた。

とはいえ、赤さんもメイドロボを倒す策はないらしい。
一度彼女に殺されて(いるらしい)が、勝ち筋が見えないそうだ。

「どうするんだ、この状況」
「お前の精神干渉ってさ、あたしにもできんの?」
「できるが…だが、それは…」
「じゃあやってよ。それしか可能性ねぇじゃん、この状況」

赤さんの提案に曲識は明らかに困惑していた。
確かにできるだろう、だが、そんなことは家族にだってしたことがない。
たった今、逢ったばかりの少女に精神干渉をしようだなんて思いもしなかった。

だが、そういう赤さんの眼は本気だった。
その眼で曲識は決断したらしい。

「名無しさん、ソプラノ頼む」
「うん」
「なんだお前も歌うのか?」
「うん。何の役にも立たないけど」

名無しさんが歌っても、それが曲識の力にはならない。
だが、ソプラノパートがあった方が歌は綺麗になる。
理由はそれだけだった。

曲は名無しさんもよく知る、曲識が作曲した曲。
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