3.湖の街
湖の畔には、たくさんの鳥がいる。
アヒル、ハト、カモ…フクロウがいない風景は久し振りだ。
蛇たちはくるりと蜷局を巻いて、しきりに舌をチロチロと出している。
腹は空いていないだろうから、まあ大丈夫だろう。

社員用の別荘は湖水地方に点在する湖のうちの1つの傍にあった。
周囲には森、15分以上歩かないと民家や商店はない。

『…エサだ』
「あ、うさぎ!」
『食べにいっていい?』
「ヤタ、駄目だよ」

バルコニーで外の風景を飽きず眺めていたリオが、湖畔の草むらを指差した。
野兎がいるくらいの田舎だ。
リオは足元からバルコニーの桟に鎌首を擡げたヤタの額の前に手を出した。
ヤタは目の前に出された手に驚いて、また足元に戻った。
リオはヤタの言葉が分かるわけではないが、何となく察してはいるらしい。

俺は腕時計を確認して、ロッキングチェアから腰を浮かせた。
そろそろ夕食の時間だ。
こういう田舎では、時間を選ばないと店が閉まる。

「リオ、食事に行くぞ」
「わーい、行く!」
『パパさん、僕は?僕は?』
『お前はこの間食べたばかりだろうが』

ヤタとナギニには旅行前に食事を与えた。
流石に二匹の餌を旅行先に持ってくる気はしなかったし、特にヤタは最近食べ過ぎだ。
肥満が良くないのは、人間も蛇も同じである。
彼らが勝手に食事をしないよう、ケージに戻した。
この辺りは餌が豊富なことだろうから。

恨めし気にこちらを睨む黄色い目を無視して、リビングの扉を閉じた。

「パパ!」
「ああ」

キーケースと財布を持ったリオが玄関口で待っていた。
リオからそれを受け取って、コテージの鍵を閉めた。
prev next bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -