湖の畔には、たくさんの鳥がいる。
アヒル、ハト、カモ…フクロウがいない風景は久し振りだ。
蛇たちはくるりと蜷局を巻いて、しきりに舌をチロチロと出している。
腹は空いていないだろうから、まあ大丈夫だろう。
社員用の別荘は湖水地方に点在する湖のうちの1つの傍にあった。
周囲には森、15分以上歩かないと民家や商店はない。
『…エサだ』
「あ、うさぎ!」
『食べにいっていい?』
「ヤタ、駄目だよ」
バルコニーで外の風景を飽きず眺めていたリオが、湖畔の草むらを指差した。
野兎がいるくらいの田舎だ。
リオは足元からバルコニーの桟に鎌首を擡げたヤタの額の前に手を出した。
ヤタは目の前に出された手に驚いて、また足元に戻った。
リオはヤタの言葉が分かるわけではないが、何となく察してはいるらしい。
俺は腕時計を確認して、ロッキングチェアから腰を浮かせた。
そろそろ夕食の時間だ。
こういう田舎では、時間を選ばないと店が閉まる。
「リオ、食事に行くぞ」
「わーい、行く!」
『パパさん、僕は?僕は?』
『お前はこの間食べたばかりだろうが』
ヤタとナギニには旅行前に食事を与えた。
流石に二匹の餌を旅行先に持ってくる気はしなかったし、特にヤタは最近食べ過ぎだ。
肥満が良くないのは、人間も蛇も同じである。
彼らが勝手に食事をしないよう、ケージに戻した。
この辺りは餌が豊富なことだろうから。
恨めし気にこちらを睨む黄色い目を無視して、リビングの扉を閉じた。
「パパ!」
「ああ」
キーケースと財布を持ったリオが玄関口で待っていた。
リオからそれを受け取って、コテージの鍵を閉めた。