02.息子集会
多分、我が家はかかあ天下というやつだ。
父さんは仕事から帰ってきても家事をやるし、母さんはそれを止めない。
僕もが母さんの手伝いをする、なんとなくそうすべきだと思うからだ。
多分、それは父さんのせいだ。

「なんというか、頭、上がらなすぎじゃないか、それ」
「うち以上の家ってあるんだな…」

そんな話をしたら、シカダイといのじんにびっくりされた。

もともとは二人に各々の母さんがいかに怖いか話そうと集まったのだ。
理由は特にないが、2人とも親同士の仲が良く、お互いの母を良く知っているから、時々こういう話をするらしい。
僕は2人に誘われて、放課後の教室に残った。
こんな話を万が一にも聞かれたら大変なことになるので、わざわざアカデミー内で話しているのだ。

いのじんの母さんもシカダイの母さんも苛烈そうだったが、シズキの母は二人とは少し毛色が違う。
シズキの母であるチトセは、彼や父親であるイタチを苛烈に叱ったり、怒ったりすることはない。
何となく無気力に、自分ができることをぼちぼちとやっているようなイメージだ。
放っておくとものすごく時間がかかりそうだし、というよりも、家事が終わりそうにないからしょっちゅう、母の手伝いを自発的にしていた。

「別に何か言われるって感じじゃないんだけどさ。さすがに仕事終わりの父さんがやってるのに僕がやらないっていうのもどうかと思って」
「いや、仕事終わりにやるのがスゲーだろ、シズキんとこの父ちゃん」

シズキの父親であるイタチはかなり実力のある暗部で、仕事も忙しい。
いのじんやシカダイの知る彼は、大抵いつでも仕事の書類を持っている。
それでいながら、二人を見つけると必ず声を掛けてくれる優しい人だ。
シカダイの父親のシカマルもいのじんの父親のサイもイタチのことを尊敬していて、里の中ではかなり地位が高い。
うちは家の次期当主であることも決定しているし、とにかく何だか凄い人というイメージが強かった。

父と母を比べられると悪い印象を付けられてしまいそうな気がして、僕は母のことを殆ど話さない。
これは癖みたいなものだ、僕は比較的、評判の良い父よりも、母が好きだ。
そして母のことを話さないことは、母のことを怠け者だと勘違いされたくないが故の、母の尊厳を守るためのものであり、僕の大切な母を誰にも知られたくないが故のことだと、最近気づいた。

「そういえば、シズキのお母さんって見たことないよね?」

しかし、やっぱりこういう話になったときに、母のことは避けられない。
いのじんの言葉に、シカダイはハッとしたようだ。
確かにイタチのことは誰もが知っているが、その彼の奥さんである人のことはちっとも聞かない。
僕もそうだけど、父さんも決して母さんのことを話さないから。

ふたりは揃って僕を見た。
僕は何でもないように、机に肘をついて顎をその上に乗せた。
できれば、興味なんて示さないで欲しい。

「んー、身体が弱いから基本的に家にいるからな」
「あ、だからイタチさんが家事をしてるのか」
「それもあると思う」
「それ以外にもあるのかよ」

そりゃ、まあ、と僕は言葉を切った。
ぼんやりと脳裏に浮かぶのは、寝てる母さんを起こさないようにそうっと洗濯物を取り込む父の姿だとか、こっそり母さんの誕生日を祝う計画をしたことだとかだ。

つまるところ、
 
「父さん、母さんにベタ惚れだから」
「あー、それうちと同じだ」
「どこの家もそれだろ、根本は」

あんまり口にはしないくせになーというシカダイに、いのじんとシズキはそうでもない、と口を揃えた。
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