03.子猫にミルク
ともかく、エルビス・オングは諦めた。
少年はこちらのことを警戒しながらも、頑なに部屋から出ようとしない。
しかしいつまでも警戒された状態で、仕事はしたくない。
集中も切らされてしまったし、こういう時は寝るに限るのだ。

ただ、この警戒を露わにした子猫のような少年は眠るのに苦労することだろう。
子猫にはミルクがいい、過去に拾って育てた猫のことを思い出して、エルビス・オングは冷蔵庫からミルクを取り出した。
冷蔵庫を閉めて、立ち上がろうかと思った時、ミルクは甘い方がいいだろうと思い付き、ついでに隣の戸棚から蜂蜜も取り出した。
2つを火にかけ、よく混ぜ合わせる。

湯気の向こう側に、くりくりとした猫目がある。
子どもがキッチンカウンターの向こう側から覗きこんでいるらしい。

“アレルギーはないね”
「ない」

エルビス・オングは黒いマグカップを少年に手渡した。
その中に入っているミルクの匂いを猫のようにふんふんと嗅いでから、少年はようやくそれに口を付ける。
猫舌なのだろう、チロチロと舐めるように飲んでいるようだ。

エルビス・オングという偽名を使う女…マリは同じミルクにブランデーを入れてから飲んだ。
集中力は完全に切れてしまったし、そうなってしまったからには仕方がない。
名前すら分からない少年をどうするのかと言う問題もあるが、さておき。
ここのところ、集中しすぎていて忘れていたが、ほとんど眠っていないのだ。
首を左右に曲げると、コキコキと骨が音を立てた。

“さて、私はそろそろ眠るけれど。君はどうする?”
「シャワー浴びたい」
“どうぞ、お好きに。シャワー室の左側の戸棚の上がタオル、下に私の服が入っているから好きに使って”

シャワー室の場所と間取りを描き、矢印で場所を確認させた。
少年は間取りを確認し、一つ頷いた。
年齢は10歳くらいだろうか、ならば一人でも問題はあるまい。
少年がリビングを出て行ったのを見て、ここまでしてやれば十分だろうと判断した。
マリは欠伸をしながら自室に向かった、如何せん眠い。

自室のドアを閉め、ベッドに潜りこむ。
いくらかくたびれたシーツの柔らかさがちょうどいい。
それにしても、とマリは先ほどの少年の顔を思い浮かべた。
彼はどのような事情でこのマンションのベランダに落ちてきたのか。
ここより高い場所は、飛行船か、上の部屋くらいだ。
もしかしたら、上の部屋から落ちてきたのだろうか、誰が住んでいるかも知らないから可能性はゼロではない。

マリの想定は誤りではなかった。
しかし、想定以上の事態…ちょうど寝室の上階で、親子3人が死んでいて、尚且つ、その犯人が少年であることを除けばの話だった。
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