01.非日常始まる
夜半過ぎ。
高層ビルの上から数えて3階目の位置に暮らすマリは突然の騒音にびくりと肩を震わせた。
何かごみ袋のような、不定形なものが落ちた音だった。
ベランダの方からしてきたのだが、おかしな話だ。

住居として使っているここは、螺旋状に部屋が設置されているデザインのマンションである。
螺旋は3つの部屋の角をビスで止め、ファンのように重なる面積が少ないように設計されている。
つまり、マリの部屋のベランダの上には大空しかないはずなのである。
飛行船から何か落下したのか、飛んでいる鳥が落ちたか。
どちらにしても面倒だと思いながら、マリはベランダに繋がる窓のカーテンを開いた。

「…」

カーテンの向こう側は、高層ビルの屋上に備え付けられた飛行船用の航空障害灯がちらちらと光る夜空が見える。
少し視線を下に映すと、この夜半にまだ起きている自分と同じような夜人間の部屋がまばらに見えた。
そして、マリの足元には上空から降ってきたとみられる物体がいた。

いた、という表現をしたのには理由がある。
その足元の存在が間違いなく生き物であり、尚且つ、自分と同種であるように見えたからである。

男の子だ、まだ男の子と言うに相応しい年齢に見える。
少し伸びたショートカットと有り触れたグレーのスウェットを着ている。
公園にいたら違和感のない子どもであるが、如何せんここは60階建てのマンションの57階のベランダである。

困ったものだと思いながらも、マリは子どもの身体を浮かせた。
箱の中は無重力、温度は26度、湿度60%、酸素濃度をやや高めに設定し、念のため少年の身体に不自由がないようにした。
ベランダに生ごみを置いておくような不衛生なことはしたくなかった。
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