7.許せないこと
しまった、と思った。
グリフィンドールのブラックでない方のビーターはどうにも荒っぽいことは分かっていた。
だからこそ、非力なチェイサーであるシーナは彼と鉢合わせないように気をつけていたのだ。

しかし、スニッチを見つけたレギュラスの進行方向に、荒くれ者のビーターがいた。
ビーターの後ろには、丁度ブラッジャーが迫ってきていた。
その状況を上から見ていたシーナは咄嗟に動いてしまったのだ。

「シーナ!」

案の定、ビーターはレギュラスにブラッジャーを当てようとした。
ジェームズもその行動は読めていた。
ビーターのディックはどうにも気性が荒く、頭も悪い。
レギュラスのように澄ました顔をした優男をとことん嫌う傾向にあり、この場面で彼を狙わないわけがなかった。

しかし、ジェームズは頭上にシーナがいることに気付かなかった。
気付いていれば、彼女が飛び込んでくることは分かっていたのだ。

咄嗟のことで、誰も反応が間に合わなかった。
シーナはディックの放ったブラッジャーにぶつかり、箒から落ちたのだ

「っ、ジェームズ!」

ジェームズもまた、咄嗟に動いた。
目の前のスニッチとレギュラスのではなく、落下するシーナの方に箒を向かわせた。
観客席よりも少し高い位置でのやり取りだったがゆえに、地面に激突する前にシーナを掴める自信がジェームズにはあった。
ジェームズはシーカーだ、逃げるものを追いかけるのも、掴むことも得意としている。

シリウスはその一部始終をはるか上空から見ていた。
地面に衝突する寸前でシーナのユニフォームを掴み、掬い上げるところまでばっちりと。

「シーナ、大丈夫かい!?」
「え…ああ、うん…ありがとう」

落下中、シーナはジェームズと目が合って心底驚いた、正直地面に衝突する気でいたからだ。
最悪骨くらいは折れてもマダム・ポンフリーが何とかしてくれるだろうから、まあいいやというくらいに思っていた。
医者の家系のシーナは治し方を知っているがゆえに、打撲傷には無頓着だ。
だからこそ、その知識を知らないジェームズが、失敗すれば自分も地面に衝突する可能性があるにも拘らず飛び込んできたことに驚いた。

ジェームズはシーナをぶら下げた状態で、ゆっくりと箒を降下させた。
遠くでホイッスルの音が聞こえ、スリザリン生の歓声が聞こえるが、ジェームズは何も言わなかった。

「ごめん、試合…」
「そんなの別にいいさ、次のハッフルパフ戦で勝てばいいだけのことだからね。それにしても、シーナ。治るからって怪我をしに行く癖、何とかした方がいい」

ジェームズは静かに怒っていた、シーナは助けに来た彼に手を伸ばすことがなかったことに。
昔からシーナは治し方を知っているから、壊すことに躊躇いがない。
特に自分のことになると、それが顕著になる。
人のことは守ろうと懸命になるのに、自分のことはちっとも考えない。

彼女の両親が昔から心配していることの意味を、ジェームズは今、身を以て知った。
落ちていくシーナを見た時、ディメンターに背を撫でられたかのような怖気がした。
打ち所が悪かったら、怪我だけでは済まない高さだった。
だというのに、シーナは何の抵抗もなく落下していったのだ、それに気づいた時の恐ろしさと言ったらない。

目を丸くしているシーナの手を、ジェームズは握ってフィールドの外に出た。
どこも打ってはいないだろうが、マダム・ポンフリーに見せた方がいいだろう

「ジェームズ、」
「シーナは自分勝手だ!僕がどれだけ心配したと思ってるんだい!」
「っ…」

シーナの手を強く握ったまま、ジェームズは声を荒げてそう言った。
いつも笑っているばかりのジェームズがこうも怒っている姿を、シーナは初めて見た。
そこで初めて、自分がいかに悪いことをしたのかを自覚した。
混乱していてジェームズの怒りの意図は未だに掴めないが、彼が自分に対して本気で怒っていることだけは確かだ。

顔を青くして立ち竦むシーナに気付いたジェームズははっとした。
あまりにきつく言いすぎてしまったのかもしれない。
ただ、ジェームズは先ほどの自分の言葉を撤回する気にはならなかった。
ジェームズがこんなにも大切にしているのに、シーナは自分自身よりもレギュラスを取ったことが、どうしても許せなかった。
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