5.おだでる
シーナはどうするか迷った。
と言うのも、リリーが良い子すぎてジェームズに渡すのが惜しくなってきたのである。
本当はリリーと話をする中でこっそりジェームズの話を織り交ぜて、3人で会うようにして、それから自分がその場からうまく抜けるようになると言うのがシーナの考えたシナリオだった。

しかし、ジェームズの話をちらとでも出せば、今まで医学の話やお菓子の話をしていたのにすべての話がジェームズの愚痴へと切り替わってしまう。
そもそも、ジェームズがリリーに嫌われすぎているのである。

「リリーみたいないい子にあんなにボロクソ言われるって、貴方、救いようがないわ」
「え。ボロクソ言われているのかい?」
「私とホグズミートに甘いお菓子を買いに行こうねって話をしていて、じゃあジェームズも誘わない?って話をしようとした瞬間に悪いことは言わないからやめた方がいいだとか、碌なことがないだとか、関わっちゃだめだとか言われるんだけど」

正直な話、シーナはリリーとジェームズの間を取り持つことはできないだろうと考えていた。
それほどにリリーはジェームズを嫌っていたのだ。
そして、意外とナイーブなところのあるジェームズはこれを聞けば傷つくだろうことも、シーナには分かっていた。

ジェームズは昔から自信に溢れているが、面と向かって嫌いと言われることに弱い。
どうでもいい人に言われるのは気にしないくせに、自分が大切に思っている人から言われるととにかく傷つくし、落ち込む。
今だってリリーに嫌われているという事実にショックを受けたような顔をしているジェームズに、シーナはため息をつきそうになって抑えた。
お得意のご都合主義が祟って、ジェームズはリリーからの嫌いは本気でないと思っていたのである。

普段からよく知る、客観的で冷静であるシーナから言われて、初めてジェームズはリリーの言葉が本当にであることを理解したのだ。

「ジェームズ、貴方もう少し落ち着いたらどう?人の話をきちんと聞いて、頷いてから話すとか、悪戯の内容を人のことを傷つけない素敵なものにするとか、できることはいろいろあるじゃない。カッコつけようとしなくても、ジェームズは元々それなりにカッコいいんだから」

シーナはこうなることを予測していた。
ジェームズが人の話を真面目に聞かないのも、自分に都合の悪いことはすべて忘れようとすることも、いつでも明るくカッコよくいようとするところもよく知っている。
だからこそ、ジェームズがその部分を治せばモテモテになるであろうことを知っていた。
ジェームズにそれができるかどうかは分からないけれど、アドバイスして手伝うことはできる。

項垂れていたジェームズはシーナの言葉を聞いて、ぱっと顔を上げた。
そうだよね!と顔を輝かせるジェームズを見て、単純でよかったと安堵した。

「こっちはこっちで頑張るから、ジェームズ、貴方も貴方で頑張らないとリリーを振り向かせるのは難しいわ。まずは、人を貶めるような過激な悪戯を止めることをお勧めするかな」
「何で」
「リリーが一番気にしているところだから」

リリーだけではなく、一般的な大人の感性を持ち合わせた人間であれば、大抵の人間が気にする部分である。
顔は良いし、内情を知ってさえしまえば、それなりにいい男なのに親密な関係になる女性がいないのは、間違いなく彼が子どもっぽいことろにある。
そこが改善されれば、それこそいい男になるのだ。

シーナは素直そうな顔をしているジェームズに、うむ、と一つ頷いた。

「よし、ジェームズ。今日から変わって行こう」
「頼んだぞ、シーナ!」
「はいはい」

目的が何であれ、ジェームズが大人しくなってくれるのは有難いことだ。
昔から彼の爛漫さに振り回され、苦労をしてきたのだ。
シーナが彼の性格矯正に付き合う謂れはないにしろ、メリットはある。
自分にそう言い聞かせて、シーナはジェームズに向き直った。
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