4.出会いは唐突に
エヴァンスと接触する機会は、意外と早くに訪れた。
グリフィンドールとスリザリンの魔法薬学合同授業の際のことだ。
ペアを組んで行う授業だったので、シーナはセブルスのところに向かおうとした。

「カヴィン、すまないがグリフィンドールのエヴァンスと組んでくれるかね」
「…ええ、構いませんが」

教壇の前にいるスラグホーンの傍を通った際、彼にそう言われて驚いた。
本来であればグリフィンドールは偶数人なのでペアを組んだ際に余る人はいないはずなのだが、今日は誰かが体調不良で休んだらしい。
そのため、元々奇数人のスリザリン生の余りと組ませるつもりだったようだ。
シーナが選ばれたのは、ただ単に傍にいたらと言う理由と大人しい生徒だから問題は起こさないだろうと言う理由からである。

思いもよらない場所ではあったが、エヴァンスと話をする機会ができたのは良いことだ。
シーナはセブルスに断りを入れて、綺麗に分かれているスリザリンとグリフィンドールの境に向かった。

「はじめまして、エヴァンス。今日はよろしく」
「ええ…よろしく」

エヴァンスはぎこちない様子でそう言った。
彼女は自分がマグル生まれであることに劣等感を抱いたことはない。
ただ、このカヴィンと言う人には多少なりとも思うところがあった。

学年順位はどんなに頑張ってもシーナには勝てず、箒のセンスもない。
両方を兼ね備え、その上そばかす1つない美しい肌や丸みを帯びた大きなオリーブグリーンの瞳と柔らかな亜麻色の髪が魅力的で、人気も高い。
その上、有名な純血の家のお嬢様とくるものだから、どう接していいのかエヴァンスには分からなかった。

「私、材料を刻むからエヴァンスは鍋を見ていてもらってもいい?」
「ええ…」
「そんなに緊張しなくても平気よ。私、純血主義というわけではないから。スラグホーン先生もそれを分かっていて、私を貴女に宛がったのだと思う」

シーナはエヴァンスの緊張を理解していた。
自分自身はどうも思っていないことなのに、なぜか相手が気にすることが多すぎる。
ブラック家やマルフォイ家と並ぶ名家ではあるものの、カヴィン家は穏便派だ。
シーナに至ってはマグル生まれだろうが純血だろうがどうでもよかった。
問題はその人と教養のある話ができるかどうかである。

その点で言えばブラック家の分家の三姉妹なんては、シーナの苦手な人たちである。
口を開けば遠回しな悪口や高級品や男の話ばかりで、全く生産性も価値もないことになる。
レギュラスはまだましであるが、純血の家の人間はそういう下らない話ばかりする輩が少なくない。
エヴァンスはもっとましな話をしてくれるだろうという期待をシーナはしていた。

「そうなの?」
「スリザリン寮内の純血の家が皆、ブラック家やマルフォイ家のようではないからね。むしろあれは特殊な部類」

ブラック家、マルフォイ家は純血至上主義を徹底している。
ただ、今時それだけではやっていけない家が殆どなので、彼らのようなタイプはそういない。
良くも悪くも彼らは目立つので、純血のイメージは両家で固定されがちと言うだけの話だ。

大半の純血家はもう純血を保つのもぎりぎりな状態である。
シーナの実家もそうだが、彼女の家は多少なりとも別の意味で特殊であるがゆえに純血を保っていた。

「私はマグルの研究もするわ。うちは療者の家系なのよ」
「そうなの?」
「そう。マグルって医療に関してはとても優れた技術を持っているし、魔法界に定着させるべきものもたくさん取り揃えているから」

シーナの実家、カヴィン家は有名な療者輩出一族である。
聖マンゴを創立した魔法使いがシーナの曽祖父であるし、家系のどこを見ても療学に触れていないものはほとんどいないくらいに徹底している。
療者にマグル生まれの人間が寄り付かないために、カヴィン家は純血を保っていた。

マグル生まれの魔法使いは、魔法界の療学に興味を示さない。
それには大きな理由があるとシーナは考えていた。

「例えば、マグル生まれなら出産は里帰りをお勧めするわね。今時、出産予定日を占いで決めるなんて馬鹿馬鹿しいし」
「え、占い?」
「魔法界はそうなのよ。マグルのように精密で即時的な医療が定着していないから。遅れているでしょ?」

魔法界の療学はマグル界の医学と比べて遅れている。
確かに魔法界の療学は治りが遅いものを早める能力に長け、骨折や腫れ、病には強い。
しかしその一方で、急激に人の命に危機を与えるものに対しての能力が低い。
例えば即死に近い裂傷や多量出血、ショックなどを抑える方法がない。

だから、魔法界の決闘や諍いが起こった際に負けた相手が命を落とすことも少なくはない。
闇の帝王が跋扈する現在、彼らから受けた呪いや怪我で死ぬ魔法使いが多いのは、そこに原因がある。
死の呪いはともかくとして、人体に怪我を及ぼす呪いの対策を立てる必要があった。
そのためには、マグルの医学を取り入れることが重要であるとシーナは考えていた。

「マグル界では裂傷や出血への的確な対処法が確立しているけど、魔法界はそうではないの。飲み薬がメインだから即時効果は見込めないし、新しい呪文を考えるしかないのだけどマグルに対しての…」
「コラコラカヴィン、それくらいにしておかないと作業が遅れるから、また今度にしなさい」
「すみません、スラグホーン先生。そうします。…ごめんなさいね、エヴァンス、私夢中になってしまって…」
「ううん、とっても面白い話だわ!今度もっと詳しく聞かせて?」

エヴァンスは自分を恥じた。
今までスリザリン生はみな、マルフォイのように高慢で、ブラックのように皮肉屋だと思い込んでいたのだ。
シーナのようにマグルに興味を持ってくれる生徒もいるのだ。

彼女は本当にマグルの医学について調べているに違いないと思えるような話をたくさんしてくれた。
スリザリン寮の生徒もいる、この教室内でだ。
彼女が差別意識を殆ど持っていないことは良く見て取れた。

エヴァンスはシーナと次に図書室で会う約束をした。
2人が親友と呼んでもおかしくないくらいに仲が良くなるのだが、それはまだ少し先の話だ。
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