2.幼馴染
実は一度だけジェームズ以外の人からリリー・エヴァンスのことを聞いたことがある。
彼は現在のシーナの最も仲の良い相手で、最近は彼の口から彼女の名前を聞かなくなった。

「…私的には、シーナとポッターが幼馴染ということに驚いたんだが」
「私だって、セブとエヴァンスが幼馴染だなんて驚いたわ」

談話室の最も入口よりのテーブルに、シーナとセブルスはいた。
エヴァンスの名前を聞いて、真っ先に思い浮かんだのはセブルスだった。
彼が1年生の頃に、よく彼女の名前を口にしていたからだ。
しかし、学年を負うごとにセブルスからエヴァンスの名前を聞くことはなくなった。
所謂、スリザリンのマグル嫌いに感化せざるを得なかったのだろうとシーナは思っていた。

セブルスを呼んでエヴァンスの話を聞きたいといったところ、彼は不審がった。
それもそうだ、シーナはセブルスと違って純血家の生まれで、マグル嫌いを公言していないだけのスリザリン生にも見えるから。

シーナは純血主義ではないことをセブに伝えたうえで、実はジェームズ・ポッターと腐れ縁であることを告白した。
彼女にとって、ジェームズ・ポッターと幼馴染であることは少しばかり厄介な事象であった。
何といっても、彼はスリザリン寮内ではかなりの嫌われ者である。

「ポッターと幼馴染など百害あって一利なしだろう」
「何というか…そう言うレベルじゃないと言うか…自然災害に近い」
「…何というか、ご愁傷さまだな」

何もしていないのにいきなりやってきては害を齎すあたり、ハリケーンみたいな男だ。
シーナは何度もその被害に遭ってきた。
そして被害に遭うたびに対策を講じ、順応してきたのだ。
ちなみに、今まで一利があったことはない。

シーナはため息をつきながら、手元のコーヒーを啜った。
どうにもジェームズ・ポッターの話をするだけで気が滅入る。

「リリーは悪い奴じゃない。ポッターのように害を成すことはほぼないだろう」
「そう。話しかけても平気そう?」
「ああ、シーナなら大丈夫だろう」

セブルスは、最近めっきり話さなくなった幼馴染を思い浮かべた。

セブルスの知るリリー・エヴァンスは聡明で好奇心に溢れる。
リリーは優しい女性で、偏見もそう無く、純粋だ。
シーナのことはいい意味で気にしていそうではある。
そして、シーナもまた彼女と同じように聡明である。
話は合うのではないかと言うのが、セブルスの所見だった。

シーナはセブルスの話を聞いて、少し安心することができた。
別にリリー・エヴァンスにジェームズを任せるつもりはないが、手助けをしてもらえると助かるのだ。
とにかく暴走しているジェームズをうまく窘める必要がある、自分の平和な学生生活のためにも。

「おふたりとも、そんな端っこで何をしているんです?」
「ああ、レギュラス」
「大したことじゃない。どうかしたのか?」

シーナはコーヒーカップから顔を上げると、怪訝そうな顔の少年がいた。
入口に近いテーブルは彼にとって寒すぎるのか、色白の肌を更に白くしている。
華奢な肩が小刻みに震えているのに気づいたシーナは杖を振ってカップをもう一つ用意した。
そこに甘めに入れたカフェオレを注ぎながら、レギュラスの話に耳を傾けた。

レギュラスは呑気にカフェオレを入れ始めた先輩に呆れ顔で声を掛ける。

「頂きますけど、シーナさん。今何時ですか?」
「確か3時くらいね」
「…キャプテンは今日、何時集合と言っていましたか?」
「あ」

そこでシーナはぱっと立ち上がった。
ジェームズのせいですっかり忘れていたが、今日はスリザリンのクディッチの作戦を考えようと言う話があった。

それを思い出したシーナは蒼白になりながらもレギュラスにカフェオレを押し渡した。
レギュラスは嬉しそうにそのカップを受け取って、冷えた両手で包んだ。

「ごめん、それ飲んで待っていて。5分以内に戻るから」
「大丈夫ですよ。キャプテン、心配していました。真面目なシーナが遅刻なんてなんかあったんじゃないかって」
「そんなこと言われたら、余計に待たせられないわよ…っ」

バタバタと自室にノートを取りに行ったシーナを見送りながら、レギュラスは手渡されたカップに入っているカフェオレに口を付けた。
シーナの淹れるカフェオレは甘さも温かさもちょうどよい。
レギュラスはそれが大好きだった。

「それで、シーナと何を話していたんですか」
「…先輩を付けろ、レギュラス」
「すみません。それで、シーナ先輩と何の話をしていたんですか」

カフェオレに舌鼓を打ちながらも、レギュラスは不服そうにそう言った。
シーナと呼んでいいと言ったのは彼女自身なのだ、試合中は敬称を付けるのも難しいから、と言う理由だったが、レギュラスは無自覚を装って普段も先輩を付けずに呼ぶようになった。
別にシーナも何も指摘しないから、問題はないと認識している。

セブルスが先輩風を吹かせるのにも苛立ったが、軽く流して本題を引き出そうとした。
現在の目下の問題は、シーナが目の前のセブルスと時間を忘れるほど話し込んでいた話題についてである。
シーナが人との約束を忘れるほど熱中することがあるなんて、しかもそれを共有しているのがセブルスなんて、レギュラスは許せなかった。

「シーナに内密にと言われている。僕からは話せない」

その時のレギュラスの気持ちは、何にも形容しがたかった。
秘密の共有、特別な人、すべてに苛立つ。

レギュラスは更に問い詰めようと口を開こうとしたその時、シーナが女子寮から小走りにやってきた。

「ごめんね、レギュラス。もう行こう…じゃあね、セブ。話聞かせてくれてありがとう」
「構わない。うまくいくことを祈ってる」

一体何の話なのか、とシーナにすら聞きたくなったが、レギュラスはぐっと押し黙った。
流石にシーナに直接聞くのは不自然であると彼も分かっているのだ。
シーナは何も知らないで、レギュラスの少し温まった手を握って談話室を走り去っていった。
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